ソル・ギョング×池内博之
『ペパーミント・キャンディー』(1999年)や『シルミド/SILMIDO』(2003年)、『殺人者の記憶法』(2017年)など数々の名作・話題作に出演してきたソル・ギョングの主演最新作『夜叉 -容赦なき工作戦-』がNetflixで独占配信中だ。
本作は中国を舞台にしたスパイ・アクション。ソル・ギョングは“夜叉”の異名を持つ韓国の凄腕工作員チ・ガンインを貫禄たっぷりに演じる。『イカゲーム』(2021年)のパク・ヘスは、夜叉が率いる秘密作戦チームを監査する検事ハン・ジフン役。そして、この2人と対立する“アジア最強のスパイ”ことオザワに扮しているのが池内博之だ。
『イップ・マン 序章』(2008年)、『レイルロード・タイガー』(2016年)など海外作品への出演も多い池内。ドニー・イェン、ジャッキー・チェンを向こうに回しても発揮されてきた存在感は本作でも健在だ。
配信開始に伴う今回のインタビューでは、『夜叉 -容赦なき工作戦-』撮影秘話に加えて、海外作品に出演する際の心がまえや日本との違い、競演してきた世界的ビッグネームについても聞いた。
「ソル・ギョングさんは普段は優しく、寡黙な人」
―『夜叉 -容赦なき工作戦-』、拝見しました。韓国映画の勢いを感じさせるスリリングな作品ですね。
特に後半はゴリゴリのアクションが展開されるので、ぜひ楽しんでほしいですね。
―池内さんが演じているオザワは単なる“敵”ではなく、怖さの中に風格のようなものも感じました。それは、これまで出演された海外作品でも感じたことです。何か役作りに関して意識されていることはありますか?
僕としては、自分の役に徹するというか、求められている役にしっかりなる。望まれているレベルに達する。それに集中していますね。今回も日本語の使い方などは、監督(ナ・ヒョン)のアイデアでもありますし。
―劇中、オザワは敵であるチ・ガンインとはくだけた、フランクな日本語で会話します。一方、組織の部下には丁寧語で接する。その違いも興味深かったです。
僕の役、オザワにとってソル・ギョングさん(ガンイン)は敵なんだけど、ライバルというか。お互いの実力を認め合ってもいるんですよ。逆に、組織の中では一線を引いているので丁寧な口調になる。そういう部分が表現できていたら嬉しいですね。
―部下よりも敵のほうが“同類”なんだという感じが出ていました。
ありがとうございます。そうなんですよね。オザワもガンインも非情なまでにプロに徹しているという点では一緒ですから。
―ソル・ギョングさんは『力道山』(2004年)にも主演されていますし、日本語のセリフにも慣れているんでしょうね。
NHKのドラマ『聖徳太子』(2001年)にも出演されていましたよね。ただ、今回も日本語のセリフに関してはかなり気にされていて、撮影中も僕に「日本語、これで大丈夫かな」と何度も確認されていました。普段は優しく、寡黙な人で、淡々と演技に集中していましたね。
「ドニーさん、めちゃくちゃ速かったです(笑)」
―今回もアクション満載でしたが、その面でのご苦労は?
大変でした(笑)。ガンアクション、格闘シーンはかなりハードで、しかも撮影の後半からコロナ禍が始まって撮影が進まなかったんです。僕は日本でのスケジュールもありますし、最後は時間との闘いでしたね。そういうプレッシャーも大きかったです。
―アクションシーン、格闘シーンのある映画に出演されることも多いですが、特に準備をしていることはありますか?
もちろん走ったり、体作りは常にしておきますね。アクションスクールに通ったり、専門的なことはあまりしていません。僕の場合はひたすら現場で覚えてきた感じです。ただ今回は、短期間ですがキックボクシングのパーソナルトレーニングを受けました。僕は体が硬いので、足が上がるようにしておいたほうがいいなと。正直言うと、アクションは苦手なんです(笑)。
―それは意外ですね。
いや、本当に(笑)。だから海外で仕事をすると「あなたはアクション俳優でしょ?」なんて言われて、「いやいや」と(苦笑)。あくまで役者で、アクションのある映画に出ることもあるというスタンスなんですけどね。
―それだけ『イップ・マン 序章』で演じた日本軍将校の空手家役がインパクト絶大だったんでしょうね。
ありがたいですね。あの作品は本当に、たくさんの人に見ていただけたので。そこからいろいろな仕事につながっていったんだと思います。
―これでドニー・イェン、ジャッキー・チェンに続いてソル・ギョングを敵に回したことになりますね。これは世界的にもかなりレアな快挙ではないかと(笑)。
本人としてはプレッシャーがものすごいですよ(笑)。ドニーさんと闘うなんて、本当に自分にできるのか? って。この世界でトップの方ですから。そんな人と1対1で闘って負けないだけのたたずまい、説得力を出さなきゃいけない。ジャッキーさんもそうですよね。年齢もあるのでそこまでハードなアクションはされないですが、そうはいっても動きますからね。腕の太さにも驚きました。それにバランスというか安定感というか、押されてもびくともしないような感じで。
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―そのお2人とのアクションシーンという経験は財産ですよね。
ドニーさん、めちゃくちゃ速かったです(笑)。僕も教わって、格闘シーンの「手」を覚えてはいるんですけど、なにしろドニーさんの動きがが速くて追いつかない。僕が遅すぎて、ドニーさんはちょっとイライラしていたかもしれないですね。ジャッキーさんはアイデアが凄かったです。現場のひらめきで「こんなふうにできる?」って。もう必死になって覚えましたね。
「韓国の撮影現場は開始・終了時間が守られていて、中国・香港では食事メニューも要望に応じてくれる」
―『夜叉 -容赦なき工作戦-』ではアクションだけでなく、4つの言語のセリフがありました。
日本語、中国語、韓国語が一言あって、英語もありました。それぞれの言語に役を乗せないといけないので、やはり大変です。ただ、これからは日本の俳優も外国語、特に英語を覚えるのはすごく大事になってくるでしょうね。Netflixなど、世界に開かれた国際的な作品が多くなってきているので。外国の作品は現場のアイデアで予定が変わることが多いので、フレキシブルに対応することも大事だと思います。
―今作は、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)がアカデミー賞を獲得したりと、勢いの増している韓国の作品です。撮影現場で韓国映画の勢いや熱、日本との違いを感じるところはありましたか?
撮影の開始時間、終了時間がしっかり決められていて、それが守られていました。ずるずる延びるということがないんです。食事休憩も1時間しっかり取る決まりがある。近年、労働環境の改善に取り組んできたということも聞きますし、それは現場の全員にとってありがたいことです。食事も3食ケータリングで温かいものが食べられました。
―日本はお弁当ですもんね。
出してもらえるのはありがたいんですけどね。中国や香港では、メニューもこちらの要望を聞いてくれるんですよ。アクションがある役だと引き締まった体をキープしないといけないので、たとえば「脂分を少なめに」「小麦粉なしで」「夜は炭水化物抜き」といった生活を撮影中もするんです。そう伝えると、シェフが要望に応じたものを作ってくれる。これは助かりましたね。男性か女性か、それに年齢や役柄によっても食べるものが違って当然ですから。休憩時間もそうですが、今後は日本もそうなるといいなと。
―映画作りには食事や休憩も重要なんですね。
そうなんです。画面には映らないけれど重要な要素って、いっぱいありますから。
取材・文:橋本宗洋
撮影:芝山健太
『夜叉 -容赦なき工作戦-』はNetflixで独占配信中
『夜叉 -容赦なき工作戦-』
極秘工作を行うブラックチームと、その悪名高きリーダーの活動を調査するため危険な街に降り立った堅物検事は、スパイ同士の激しい戦いに巻き込まれていく。
監督:ナ・ヒョン
脚本:アン・サンフン ナ・ヒョン
出演:ソル・ギョング パク・ヘス 池内博之
ヤン・ドングン イエル
ソン・ジェリム パク・ジニョン
制作年: | 2022 |
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