出会い系に疲れたヒロイン
ディズニープラスのスターで独占配信中のホラーコメディ『フレッシュ』。主人公のノア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)はアプリで出会ったクソ男とのデートにゲンナリし、チ○コの画像を送りつけてくるキモ男にウンザリし、暗闇の人影に恐怖している。いわゆる有害な男らしさ(直接/間接的な性被害)的イメージの羅列はあからさまだが、一般女性が普通に生きていく中で毎日、いつどこでも視界に入る/絡まれる様々なウザ、キモ、恐怖がどんなものなのか、これでも理解できないという人はいないだろう(と思いたい)。
そんなノアが夜のスーパーマーケットで出会うのが、セバスチャン・スタン演じる自称・再建外科医のイケメン、スティーブだ。アプリでもクラブナンパでもない、煌々とした蛍光灯の下でのアナログな出会い。失敗を重ねた結果「自分は恋愛に向いていないのかもしれない」と考える/気づくことによって気持ちが楽になる人もいるが、ノアの場合は「ひとまずこのトキメキに飛び込んでみよう」と決心し、スティーブとイイ関係になっていく……。
※ここから物語の内容に一部触れています。ご注意ください。
セバスタ、ノリノリで○肉を解体
まるでロマコメのように始まる本作。歪んだフォントなどのビジュアルイメージはジャーロ風だが、実際観てみるとその要素はほとんどない。ただし極端な接写や飲食描写は冒頭からフェティッシュ全開で、色温度高めの映像がのぼせるような陶酔感を誘う。なお、ホラーコメディという前情報を信用して観ると意外なほど笑えないというか、状況そのものは超絶ホラーなので要注意。直接的なゴア描写はないものの、想像力が豊かな人は途中から胸焼けがしてくるだろう。
ほとんどの人が承知の上で観ているとは思うが、スティーブは食人鬼である。若い女性を誘拐・監禁し、医師のスキルでもって生かしながら少しずつ四肢を解体・調理しているのだ。しかも、同じような嗜好を持つ金持ちの鬼畜ド変態たちに肉を販売するという、食人ビジネスを営む究極の外道である。セバスタがノリノリで踊りながら大腿部を解体・梱包するシーンはあまりにも狂っていて、ちょっと腹が立ってくるほどだ。
ホラーとしては『羊たちの沈黙』(1991年)『ハンニバル』(2013年)よりも『悪魔のいけにえ』(1974年)『ホステル』(2005年)的なストレートパンチ。直接的なコメディ要素は多くなく、笑うに笑えない、全力で苦笑するしかないトーンが充満している。ストーリーの優先順位も高くなさそうだが、セバスタをキャスティングしたのはインパクトのある悪役が必須だったからだろうし、実際ソシオパスを嬉々として演じるスタンは猛烈に魅力的だ。その素性の“前フリ”が「いまどきSNSを一切やってない奴なんて逆に怪しくね?」という軽さも、いかにも現代的である。
今っぽくてお洒落、だけどしっかり胸糞なカニバリ映画
中盤以降は勘のいい親友モリー(ジョージョー・T・ギッブス)が唯一の希望になり、ハラハラしながら彼女たちを応援しまくる展開に。脚本のローリン・カーンは描きたいことのために“食人ホラー”のフォーマットを借りただけなのかもしれないが、そこにビビッときたミミ・ケイヴ監督の感性とマッチしたことで、今っぽくてお洒落だけどしっかり胸糞なカニバリ・ホラーコメディ映画という、なかなか不思議なシロモノになった。
衣装がどれもイケてたり、常に流れている音楽(ほぼ既存曲)に物語(心境)を一部代弁させていたり、製作にアダム・マッケイが入っていたり劇伴がアレックス・ソマーズだったり、製作布陣にもいちいちセンスの良さが漂う。フェミニズムを謳うハイブロウ・ホラーと揶揄する人もいそうだし、真っ当なホラー映画として観たら物足りないかもしれないが、初長編とは思えないほどクオリティは高い。ミミ・ケイヴ、今後が非常に楽しみな監督である。
ちなみにセバスタは『パム&トミー』(2022年)で自分のチ○コと楽しそうに会話していたが、本作にもチ○コ繋がりと言えなくない衝撃シーンがある。なんだか今後セバスタ出演作を観るたびに露出待ちしてしまいそうだが、本人が楽しそうなので良しとしよう。
『フレッシュ』はディズニープラスのスターで独占配信中
『フレッシュ』
スーパーで魅力的なスティーブに出会ったノアが、日ごろ出会い系アプリに不満を持っていたこともあり、彼に電話番号を渡してしまうことで、人生が大きく変わっていく。初めてのデートで恋におちたノアはスティーブの誘いを受けて週末旅行に出かけるが、ノアはスティーブが“普通ではない”食癖を隠していたことに気づき…。
監督:ミミ・ケイヴ
脚本:ローリン・カーン
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ セバスチャン・スタン
ジョージョー・T・ギッブス アンドレア・バン
ダイオ・オケニイ シャルロット・ル・ボン ブレット・ディーア
制作年: | 2022 |
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