ナチスの野望を阻止せよ! 特殊潜入部隊の戦い
1943年11月、ドイツのための技術開発を強制されていたポーランド人科学者ファビアン博士を誘拐するため、英米軍混成の特殊部隊がポーランドに送り込まれます。
そうです、映画『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』は、秘密任務を帯びてドイツ支配地域に潜入する連合軍特殊部隊、という第二次世界大戦映画の定番のひとつなのです。ちなみに原題は『ENEMY LINES(敵陣)』で、この意味は物語が進むうちに浮き上がってきます。
撮影はポーランドの東側そしてウクライナの北側に位置し、そして現在、ロシア・ウクライナ戦争で問題になっているベラルーシで行なわれました。直立した森の木々、薄灰色に曇った空、凍てつくような寒さなど雰囲気タップリです。
ナチスの秘密兵器
第二次世界大戦期のドイツは電撃戦という革新的な戦術だけでなく、汎用機関銃や突撃銃、携帯式対戦車火器、ジェット戦闘機、ミサイルや誘導爆弾などの新兵器を次々と戦場に送り出しました。なかには口径80㎝(戦艦「大和」級の主砲が口径46㎝)という超巨大列車砲「グスタフ」という、精神のタガが外れたような異形兵器もありました。
The Gustav railway gun, weighing in at 1,490 tons, is the largest-caliber weapon ever used in combat. pic.twitter.com/HR7OOXX75G
— History Photographed (@HistoryInPics) May 21, 2015
当時の交戦国にとってドイツ兵器は脅威そのものであり、その記憶や印象もあって「ドイツの秘密兵器」は戦後の戦争映画のジャンルとして確立した、と断言できるでしょう。
史上初の巡航ミサイルV1(Fi103)と弾道ミサイルV2(A4)の工場破壊を描いた『クロスボー作戦』(1965年)、ノルウェーに作られた原子炉設備に使用する重水工場破壊を描いた『テレマークの要塞』(1965年)などに代表される作品群では、特殊作戦の非情な部分も描かれますが、『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』もファビアン博士の「救出」ではなく本人の意志を無視した「誘拐」であり、また特殊部隊メンバーにも真の目的が明かされないくだりなどは、まさにその法則に則ったものだと思います。
「その真の目的とは!?」を説明するとネタバレになってしまうので、ここでは物語のバックグラウンドを語ってみましょう。
“消された国家”ポーランド
ここで筆者も「ポーランドに」と書きましたが、実はこの時期にポーランドという国家は存在していませんでした。
1939年8月に締結された独ソの「秘密議定書」では、ポーランドの西半分をドイツが、東半分をソ連が占領合併することを勝手に決めていました。そして9月1日にドイツがポーランドに進攻し、第二次世界大戦が始まったのです(ソ連は9月17日に進攻)。以後、ポーランドの大地と人々は在り続けましたが、ポーランドという国体は失くなった状態だったのです。
劇中でレジスタンスとして登場する「ポーランド国内軍(AK)」のように抵抗を続ける人たちもいました。ですが、祖国が国家として存在していたフランスなど西欧諸国のレジスタンスやソ連のパルチザンと違い、国家として消失していたポーランドにおけるAKは格段と厳しい戦いを強いられたのです。
劇中のAKメンバーの、ドイツはもちろん連合国そしてソ連に対する複雑で怨念じみた感情には、そんな背景があるのです。ちなみに1944年にAKはワルシャワで武装蜂起しました。その凄惨な有り様を描いたのが『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』(2014年)です。
実のところ、この『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』は史実ベースのフィクション映画としても、物語展開や戦闘場面がちょっと“ユルい”印象が否めません。でも上記のような背景を念頭に鑑賞すると、また違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。
マニアックな軍用車両
軍装や武器の考証は、昨今の映画らしく歴史博物館やコレクターが撮影に協力しており、綺麗過ぎるきらいはありますが、なかなかのレベルです。また、英語やドイツ語やロシア語などが入り乱れる多言語映画になっているのも好ポイントです。
トンプソンM1A1やステンやMP40などのお馴染みのサブマシンガンに加え、スコープ付きSMLEライフル、そしてMG34機関銃は対空連装銃架で登場。でも銃の構え方や戦術歩行が現代風なのは、ちょっと残念。それとサブマシンガンの弾倉を握って射つのは、ジャミング(作動不良)の原因になるのでダメ、ゼッタイ!
車両類もキューベルワーゲン(ドイツ軍の「ジープ」的車両)はもちろん、4輪操舵式のスペツィアル軽車両、はては野戦炊飯車まで登場し、雰囲気を盛り上げてくれます。さらにⅢ号戦車と38(t)のレプリカも出てきます。「なぜ38(t)が?」と思うかもしれませんが、ドイツ軍は第一線では戦力外となった各種軽戦車を後方警備部隊やパルチザン掃討戦で最後まで使用していて、意外と正しい出演(?)なのです。
大道具小道具の考証にこだわる部分でも、『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』は現代風の戦争活劇の小品と言えるでしょう。
文:大久保義信
『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年3月放送
『シークレット・ウォー ナチス極秘計画』
1943年11月。ポーランドの敵陣奥深くを進軍する英米連合の特殊部隊。彼らは連合軍の勝利に不可欠な新兵器に関する情報を得るため、ポーランド人科学者のファビアン博士を拉致する。だがナチスの精鋭部隊が彼らを追跡。情報をかぎつけたソ連軍も、博士とその研究を横取りすべく動き出す。
監督:アンダシュ・バンケ
出演:出演:エド・ウェストウィック ジョン・ハナー トム・ウィズダム
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年3月放送