完璧なキャスト×キャラクター
いま、最も女性たちが大量の悪人を殺し、その姿がめちゃくちゃオシャレで超カッコいい映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』。監督は、イスラエル出身のナヴォット・パプシャド。朋友アハロン・ケシャレスと共同脚本&監督したデビュー作『ザ・ マッドネス 狂乱の森』(2010年)では、イスラエル映画界にスラッシャー・ホラーのジャンルを開拓。
そして、陰惨極まりない少女誘拐殺人事件を題材にしたアハロンとの共同監督・脚本作『オオカミは嘘をつく』(2013年)では、1ミリ先も読めないスリリングなストーリーを見せつけて、同国でスリラー映画を開拓。しかもクエンティン・タランティーノが「本年度最高傑作」と絶賛したという、輝かしい経歴のオーナー。そんな彼が今回、ハリウッドに進出してお送りする『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、裏社会でオシャレかつカッコよく生きる女性たちを主人公にしたシスターフッド・バイオレンスです。
まず出演者が素晴らしい。というよりも完璧すぎます。主演は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(2014年~)のネビュラ役でおなじみのカレン・ギラン。共演は『ターミネーター:サラ・コナー・クロニクルズ』(2008~2009年)でサラ・コナー、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年)で極悪王女サーセイ、『ジャッジ・ドレッド』(2012年)では極悪非道なギャングのボス、『高慢と偏見とゾンビ』(2016年)では隻眼の最強戦士を演じたレナ・ヘディ。
さらに『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(1995年)で凄腕のボディガード、『ブラックパンサー』(2018年)でワカンダ王国の女王ラモンダを演じたアンジェラ・バセット。『スパイキッズ』シリーズ(2001年~)で最強スパイ一家の母、『カリフォルニア・ダウン』(2015年)でドウェイン・ジョンソンと共に大地震をサバイブしたカーラ・グギーノというように、いずれも「最強」「凄腕」という形容詞がトッピングされる役柄を演じてきた方々。
そして、もう一人。ほぼ全ての出演作で最強・凄腕な役を演じてきたカンフー映画界のリビング・レジェンド、ミシェル・ヨーも合流! という全員チート級のアクターで結集されたドリーム・チームが本作で実現!
心のこもった残酷描写&ブラックな笑い
映画の舞台は50’s調の裏社会専門のダイナーや病院など、『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)のように裏社会の方々のための施設が充実していて警察の存在が希薄な、バイオレンスを展開にするには最適な世界。
気になる物語は、会社(ファーム)と呼ばれる裏社会の組織に所属する一匹狼の殺し屋サム(カレン・ギラン)が、会社の大金を盗んだ会計士の暗殺を依頼される、というノワール・ムード満載なツカミからスタート。サムが会計士の隠れ家に向かうと、そこで意外な事実を知らされる。会計士は、8歳9か月になる愛娘を悪党たちに誘拐され、身代金を要求されていた。娘を取り戻すため、苦渋の決断で会社の金に手を出したのだ。
かつて12歳の頃、殺し屋だった母親スカーレット(レナ・ヘディ)と離ればなれになってしまった過去を持つサムは、少女を見捨てることができず奪還に向かう。が、それは会社を裏切ることを意味していた……。
ここから映画は、会社が送り込んできた刺客たちがサムと少女を狙う人間狩り大会に突入。次々と襲いかかってくる刺客とサムの戦いは、すべてナヴォット監督のひと手間が加わった俺ジナルきわまりないアクション・シーンに仕上がっています。例えば、ボウリング場でサムが3人の殺し屋を相手に戦う際は、持参していたパンダ型スーツケースや、その場にあったボウリングの球を武器にするというエスプリの効いた戦闘スタイルを披露! そこに『荒野の用心棒』(1964年)のテーマ曲のような燃えるマカロニウエスタン風の音楽が援護射撃!
このように危機的状況に陥ったサムが、その場の状況やアイテムを駆使するトンチの効いた戦闘スタイルを披露するアイデアは、ナヴォット監督が敬愛するジャッキー・チェン映画のアクション・シーンから影響を受けたもの。とは言っても、これまで『ザ・ マッドネス~』や『オオカミ~』、オムニバス・ホラー『ABC・オブ・デス2』(2014年)の一編「FALLING 落下」でハードコアな残酷描写かつ、あまりに悲惨すぎて思わず笑ってしまうシーンをクリエイトしてきたナヴォット監督なので、ジャッキー・アクションを継承しつつも敵の顔面がぐちゃぐちゃに潰れるなど、心のこもった残酷描写&ブラックな笑いを大量にスパイスしてくれています!
ジョン・ウー映画的に始まり、ガン・バイオレンスの新フェーズへ
少女を守りながら逃亡するサムは、ある者の手引きで15年間、行方不明だった母スカーレットのもとに逃げ込む。自身も凄腕の殺し屋だったスカーレットは娘を助けるため、殺し屋時代に大変お世話になっていた図書館に連れていく……。
なんで殺されそうな時に図書館なの? と思ったら、図書館というのは世を忍ぶ仮の姿。その実態は裏社会専用の武器レンタル屋で、ジェーン・オースティンやヴァージニア・ウルフといった図書館中の本の中に様々な武器が隠してある、というバイオレンス映画的には夢がいっぱいの場所なんです。しかも、図書館員はアンジェラ・バセット、カーラ・グギーノ、そしてミシェル・ヨーという、この設定でこの方たちがキャスティングされたら、どう考えても殺人マシンに決まっている心強い御三方。
しかも、御三方の衣装が素晴らしい。アンジェラは青系、ミシェルは緑、カーラはピンクの衣装というように、キャラクターごとにカラーがはっきりした衣装をエレガントに着こなしています。そこにオレンジのスカジャンのカレン・ギレン、ブラウンのコートを着たレナ・ヘディたちが合流したことで、スーパー戦隊シリーズのような燃えるチーム感を漂わせてくれます。
ついに主要キャストが図書館に結集し、そこへカレン&少女を狙う暗殺部隊が乱入! まずはカレン&レナ親子がジョン・ウー映画のように2丁拳銃で応戦。ここでカレンがワルサーP99ASを2丁持ってカッコよく撃ってくれるのですが、さらにグッとくるのがレナの使う銃。2丁のコルトガバメントなんですが、これが赤いドラゴンのペイントが施されているうえに、銃身には特大ナイフを装備、という実にチャイルディッシュで燃えるウェポンなんです!
そんなわけで、ジョン・ウー映画ムード満載ではじまった銃撃戦は、燃える新兵器を導入したことによってガン・バイオレンスの新たなフェーズを我々に提示! どういうことかと申しますと、このカッコいいウェポンでレナは敵の顔面を刺す! で、撃つ! その後も次々と襲いかかってくる敵のボディを刺して撃つ、という一生観ていても飽きない作業を披露してくれているので、期待していてください!
これだけでもお腹がいっぱいなのに、そこにM16で武装したミシェル・ヨーが参戦! そして、超涼しげな表情で『スカーフェイス』(1983年)のアル・パチーノ級のマシンガン大量虐殺を披露。表情をビタ一文も変えずに銃弾を撃ち尽くすと、今度は武器を極太のチェーンにチェンジして殺人カンフーを披露! いやあ、ナヴォット監督は実に我々のニーズをわかっている御方です! 最近も『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)で優雅な太極拳アクション、『クレイジー・リッチ!』(2018年)などで確かな演技スキルを披露してくれているミシェルですが、おそらく彼女のファンが観たいのは香港アクション映画時代のような、問答無用に悪人をぶちのめす戦闘マシン・ミシェルなはず! そんな我々の飢えた心に、ナヴォット監督の演出は期待以上に応えてくれますよ!
スクリーンに土下座必至の大量殺人オリンピック
このように、奇跡としか思えない名シーンが連続コンボで繰り広げられすぎるため、おそらく観客の多くが「映画の通常鑑賞料金しか払っていないのに、こんなに素晴らしいシーンが続く映画を観ていたらバチが当たるんじゃないか……」と不安になると思います。が、御安心ください! 鑑賞後はバチが当たらない代わりに、画期的にハッピーな気持ちになることができます。それに図書館の戦いの見せ場はまだまだ続きます!
続いて、カーラがガトリングガンで図書館に不法侵入してきた悪人たちを次々と挽肉に変えていくなか、アンジェラも参戦! しかも、彼女が使うのは飛び道具ではありません。なんと2本のトンカチ! どうです!? これ以上ないくらいアンジェラ・バセットにふさわしいワイルドな武装をチョイスする、ナヴォット監督のセンスが素晴らしすぎませんか!
しかも銃弾が飛び交うなか余裕の表情のアンジェラは、1ミリも迷うことなくトンカチを相手の顔に振り降ろすor相手のアゴにひっかけて引きずりまわす……という『ザ・レイド GOKUDO』(2013年)のハンマーガールとはひと味違う職人技を見せてくれます! その姿を見たら、誰もが「お子さんたちにばかり戦わせてないで、あなたがブラックパンサーになれば良かったのでは……?」と思うことでしょう。
まさに映画史に残る図書館戦争シーンですが、これはまだクライマックスではありません。ノワール・ムード満載でスタートした映画はブラックなギャグをトッピングしながら、物語が進むにしたがって女性たちの眼と眼で通じ合う友情が炸裂する、激熱なバイオレンス活劇に変貌していきます。
その果てに迎えるクライマックスでは、観た者全員が「タイトル通りの実にガンパウダー・ミルクシェイクな映画でした! ありがとうございました!!」と涙目でスクリーンに土下座したくなること間違いなしな大量殺人オリンピックが展開! 詳しいことは書きませんが、サム・ペキンパー監督作『ワイルドバンチ』(1969年)やジョニー・トー監督作『エグザイル/絆』(2006年)のクライマックスをポップでカラフルにしたような大銃撃戦のなかで、アニマルズの「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」が流れるんですよ。しかも、曲のいちばん盛り上がるところで主要キャラたちがカッコいいポーズを決める、鳥肌モノのシーンになっています!
そんな本作、ナヴォット監督が「女性たちが自分の居場所を勝ち取るために戦う物語」と語るように、『ガンパウダー・ミルクシェイク』はシスターフッド・アクション映画を新たな境地に導いた逸品ですので、ぜひ劇場で観戦してください!
文:ギンティ小林
『ガンパウダー・ミルクシェイク』は2022年3月18日(金)より全国公開
Presented by キノフィルムズ
『ガンパウダー・ミルクシェイク』
ネオンきらめくクライム・シティ。サムはこの街の暗殺組織に属する腕利きの殺し屋。だが、あるターゲットの娘を匿ったことで組織から命を狙われるハメに。殺到する刺客たちを次々と蹴散らし、サムと娘は、かつて殺し屋だった3人の女たちが仕切る図書館に駆け込んだ。図書館秘蔵のジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフの名を冠した銃火器を手に、女たちの壮烈な反撃が今始まる!
制作年: | 2021 |
---|---|
監督: | |
脚本: | |
出演: |
2022年3月18日(金)より全国公開