長寿シリーズの記念すべき第1作『特捜部Q 檻の中の女』
「特捜部Q」シリーズはデンマークの小説家ユッシ・エーズラ・オールスンの手になる警察ミステリー。過去の未解決難事件を専門に扱う特捜部Qを舞台に、そこに配属されたはみだし刑事カールとシリア系アラブ人の助手アサドの活躍を描いてベストセラーとなり、現在まで8作品が刊行されている。
「家で本を読もう」ーーデンマーク警察小説『特捜部Q』シリーズの著者からメッセージが届きました🇩🇰新作は今年の夏の刊行を予定しております。 pic.twitter.com/7lus2RStBx
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シリーズ第1作の『特捜部Q 檻の中の女』は2013年に映画化。製作はラース・フォン・トリアーとペーター・オールヴェック・イェンセンが設立した製作会社ゼントローパで、脚本を『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009年)のニコライ・アーセルが担当した。
主人公はデンマーク警察殺人捜査課の警部補カール・マーク(ニコライ・リー・コス)。頑固で皮肉屋ながら優秀な捜査官だった彼は、ある事件で部下の1人を亡くし、1人は半身不随、自身も重傷を負う。事件のトラウマを抱え、捜査の情熱を失った彼は警察内で孤立する。
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カールの捜査能力を買っていた捜査課長ヤコブスンは、与党の警察改革案を受け入れ、かつカールをやっかい払いするための一石二鳥の解決策として、過去の難事件を専門に担当する特捜部Qを新設し、カールを責任者に抜擢する。表向きは昇格だが、部下はデンマーク語もおぼつかない謎のアラブ人アサド(ファレス・ファレス)だけ。部室は倉庫に使われていた窓のない地下室という左遷人事である。さっそく特捜部Qに持ち込まれた迷宮入りの事件の山の中から、アサドが取り上げたファイルは、5年前に船旅の途中で失踪した国会議員ミレーデ・ルンゴー(ソニア・リヒター)の事件だった。
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ミレーデ・ルンゴーは次期首相とも目される野党民主党副党首だった。政治家としての手腕はもちろん、それ以上に美しさと謎の私生活で記者の注目を集めていたのだが、5年前にベルリンへの船旅の途中で、乗っていた車と障害者の弟を残して失踪、遺体が見つからないまま自殺として処理されていた。カールはファイルを調べるうちに、捜査のずさんさと、私生活を秘密にしていたミレーデの旅を誰かが知っていた可能性があることに気づき、捜査を開始する……。
『特捜部Q 檻の中の女』というタイトル通り、実はミレーデは生きていて、檻の中に閉じ込められ、死が刻々と迫っていた。捜査を進めるカールとアサドが、彼女の命を救えるかどうかが見どころだ。
冬にピッタリ! まだまだ北欧ミステリーがアツい
北欧ミステリーといえば、70年代に日本でもベストセラーになったシューヴァル&ヴァールーの「刑事マルティン・ベック」シリーズが思い浮かぶ。代表作の<笑う警官>はウォルター・マッソー主演『マシンガン・パニック』(1973年)として映画化された。90年代を代表するのはヘニング・マンケルの「刑事クルト・ヴァランダー」シリーズで、ケネス・ブラナーの製作・主演で『刑事ヴァランダー』として4シーズン(2008~2016年)放映され、現在Huluで配信中。Netflixでもプリクエル的シリーズ『新米刑事ヴァランダー』(2020年)が配信中だ。
2000年代は、何といっても世界的に大ベストセラーになったスティーグ・ラーソンの「ミレニアム」3部作で、TVシリーズ『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』となり、ハリウッドに渡ってデヴィッド・フィンチャーがダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ主演でリメイクした。そして現在、マンケル、ラーソン亡き後の北欧ミステリーを牽引すると言われているのが、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソンによる「犯罪捜査官エーレンデュル」と、デンマークのユッシ・エーズラ・オールスンによる「特捜部Q」のシリーズである。
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『特捜部Q キジ殺し』ユッシ・エーズラ・オールスン
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北欧ミステリーに共通するのは、冬の厳しさや夜の長さから発する暗さと、社会性を重視したリアリズム、丁寧な描写(それと、主人公の刑事が離婚経験者で、アルコール中毒に近い生活破綻者である点)であるように思う。特に「特捜部Q」は、事件の派手さや猟奇性、登場人物の多様性などがいかにも映画化向きで、『THE KILLING/キリング』(2007~2012年)や『THE BRIDGE/ブリッジ』(2011~2018年)がハリウッドに進出した勢いにのって、ハリウッドでシリーズ化されそうな気がする。
『檻の中の女』のミケル・ノルガード監督は1974年生まれ。『THE BRIDGE/ブリッジ』などの監督を経て2010年に長編劇映画デビューし、同作が2作目。続く『特捜部Q キジ殺し』の監督も務めている。カール役のニコライ・リー・コスは1973年生まれ。1998年にデンマーク国立演劇学校を卒業し、トム・ハンクス主演『天使と悪魔』(2009年)では秘密結社イルミナティの暗殺者を演じているほか、『フレッシュ・デリ』(2003年)や『アダムズ・アップル』(2005年)、『メン&チキン』(2015年)、2022年1月21日(金)より公開中の『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(2020年)などアナス・トマス・イェンセン監督作で、マッツ・ミケルセンとたびたび共演している。
アサド役のファレス・ファレスは1973年レヴァノン生まれ。父も俳優で、14歳のとき家族と共にスウェーデンに移住、演劇学校を経て2000年に映画デビュー。達者な語学力を生かして『デンジャラス・ラン』(2012年)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)などのハリウッド映画でも活躍中。ミレーデ役のソニア・リクターは1974年生まれ。2002年の『しあわせな孤独』ではニコライ・リー・コスと恋人同士の役で共演している。
ニコライ・リー・コス&ファレス・ファレスのコンビの『特捜部Qシリーズ』は第2作『キジ殺し』に続いて、第3作『Pからのメッセージ』(2016年)、第4作『カルテ番号64』(2018年)が公開。そして2021年製作の最新作はキャスト・スタッフが一新され、『アダムズ・アップル』のネオナチ男アダム役で知られるウルリク・トムセンがカールに扮し、新たな謎に挑む。
文:齋藤敦子
『特捜部Q 檻の中の女』はU-NEXTで配信中、『特捜部Q 知りすぎたマルコ』は2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月24日(木)よりシネ・リーブル梅田で開催「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映
『特捜部Q 檻の中の女』好評配信中
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『特捜部Q キジ殺し』好評配信中
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『特捜部Q Pからのメッセージ』DVD好評発売中/好評配信中
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『特捜部Q カルテ番号64』DVD好評発売中/好評配信中
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『特捜部Q 知りすぎたマルコ』
過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の部署「特捜部Q」。
ある事件の逮捕直前に犯人の自殺を目の当たりにした警部補・カールは、6週間仕事から離れ休養するように指示されていたが、早々に現場に復帰していた。カールと相棒のアサドは、小児性愛者の疑いのある公務員・ヴィルヤム・スタークの失踪事件を調査していた。ある日、デンマークの国境警察により、スタークのパスポートを所有する少年・マルコを拘束したと連絡を受け、駆け付けることに。しかしマルコは口を閉ざし警察に話そうとしなかった。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月24日(木)よりシネ・リーブル梅田で開催「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映
『特捜部Q 檻の中の女』
ある捜査で失態を演じ、殺人課から古い事件の資料を整理する特捜部Qに左遷された刑事カール。5年前の女性議員失踪事件の資料内容に違和感を抱いた彼は、助手のアサドと再捜査を開始する。やがて、自殺したと片付けられた彼女をめぐる意外な事実を掴む。