今回は、そんな桂さんに「人生」と「映画」というテーマでインタビューを敢行。フェイバリット映画を5作挙げていただきつつ、幅広い世代に愛される桂作品が生まれた背景や影響を紐解くべくお話を伺いました。
「これを観て『電影少女』の全体のイメージが湧いた」
5:『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985年)
ちょっとこれだけ毛色が違いますけど、たまたま友達が映画情報誌かなんかで知ったんでしょうね。「評判いいんで観に行こう」って。
僕は何の知識もなく観に行ったんですけど、とても面白くて。それまで僕は、こんな感じの(他に挙げたような)エンタメ映画しか観てなかったので、新鮮だったんですよね。何が新鮮だったかというと、この作品に出てくる女の子。とても少年ぽい女の子です。この子が鮮明に僕の中に印象が残って。最後に女の子っぽくなって終わるっていうところも含めて、すごく感動した映画ですね。
主人公の彼には悲しい事柄しか起こらないんですけど、作品のトーンがそれを感じさせなくて。時折お母さんと少年が海辺で、なんの真似をしているのか分からないんだけど、彼がこうやって(後ろ向きに)でんぐり返しするシーンが何回か出てくるんです。そういう懐かしさとか悲しさみたいなものが出てくるんですけど、とても愛すべき作品なんですよね、僕にとって。これを観て『電影少女』の全体のイメージが湧いたというか。
「ボーイッシュってこういうことだ!」
連載の前に、読み切りで『ビデオガール』っていうのを描いてるんですけど、それも今まで描いたことのない女の子のパターンで。ボーイッシュな感じの子を描きたいっていうのが僕の中にあって、それで読み切りにもボーイッシュな子が出てくるんですけど、『電影少女』の天野あいほどボーイッシュじゃなかったんですよね。で、これを観て「あ、ボーイッシュってこういうことだ!」と思って。あと、主人公の彼の髪型は『電影少女』の主人公(弄内洋太)の髪型に非常に影響を受けてますね。
すごく印象に残ってるのは、その彼女。ヒロインって言ったら良いのかな? 女の子として成長していくことにすごい抵抗してるんですよ。胸を見ろ、膨らんできてるって言って、「これ取るにはどうしたらいい?」みたいなことを相談してるんですけど(笑)。そういう感じ……なんだろう、あの年頃の感性というか、瑞々しいというか初々しいというか。今回挙げた作品の中でも、僕の核になってる作品のひとつですね。
「僕の核になってる作品のひとつ」
この作品に出会って、他の様々な要因もあって、『電影少女』っていう作品を連載していく中で、人間の業とか情とか、そういう部分を掘り下げていくきっかけになったというか。この映画がとっかかりとしてありますが、歌詞とかポエムとかをすごく読み漁ってた時期でもあって。僕はそのへんの、具体的には描かれてない文面の裏側の感情を読み解くのが好きだったりするので、そういうのが全部『電影少女』に反映されています。この詩はどういう意図で書かれてるんだろう? っていうのを考えて、自分なりに解釈して作品にフィードバックさせるというか。直接は入っていないけど、こういうことを言ってるんだろうな、と。どうにか自分の作品に反映させたいなあと思っていた時期ですね。
もうストーリーはぼんやりで忘れかけてますけど、彼(主人公)は何でこんなに明るかったんですかね?(笑)。でも僕は、彼の「ロシアの人工衛星に乗せられた犬よりはマシ」っていう、あの考え方が、なんか非常に悲しい話なのに、それをあんまり感じさせない感じが……とっても印象的だったんですよね。