聖夜に血みどろバイオレンスを！『ただ悪より救いたまえ』ファン・ジョンミン＆イ・ジョンジェの『新しき世界』コンビ再び

映画

2021.12.22

ライター：#大倉眞一郎

聖夜に血みどろバイオレンスを！『ただ悪より救いたまえ』ファン・ジョンミン＆イ・ジョンジェの『新しき世界』コンビ再び — 『ただ悪より救いたまえ』ⓒ 2020 CJ ENM CORPORATION, HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED

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血まみれ韓国作品

映画じゃないけど、Netflix『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』（2021年）を完走して、改めて韓国ドラマ・映画界の層の厚さと必要な時に必要な作品を作るこだわりに深く感じ入り、こうべを垂れておりましたところ、この映画がジャーンと登場するのだから、やっぱり血を見るのなら韓国作品だと確信を得た昨今である。

暴力、殺人、血しぶきというならば、本来アメリカにかなう国はないはず。何しろ四六時中戦争して、世界中で血を流し流されているのだ。しかし、アクション映画というややボンヤリした範疇に入れられ、人がいくら死んでも“どんどんやっつけるなあ”というほどのことしか感じられないのは、「残酷」な描写は控えさせていただきます、ということなのだろうか。あれじゃ、人を殺すという行為にリアリティがなく、抵抗ないよな、と思ってしまう私がおかしいのかもしれないが、殴られても斬っても撃たれても人は血を流し、苦悶し、死んでいくのが人と人とが殺し合うということ。あえて残酷な場面は撮らないというのは「ご覧になる皆様に不快な思いをさせたくない」と配慮しているのだとすれば、人間を描けていないのと同じことである。もしそうしたいのなら、恋愛映画ばかり作っててくれよ。

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そこで、今回公開される『ただ悪より救いたまえ』である。悪人から善人、犯罪者から刑事、怒らせるから泣かせるまで演じる役に節操がなく、しかしいずれの役でも心を震えさせたり楽しませてくれたりするから文句のつけようがないファン・ジョンミンが主役第1号。そのファン・ジョンミンと組んだ『新しき世界』（2013年）で強烈な印象を残したイ・ジョンジェが主役第2号。イ・ジョンジェは『イカゲーム』で主役を演じていて、もはや知らない人は存在しないはずだが、この『ただ悪より救いたまえ』では完全に“あっち側”に行っちゃってて、とても同じ人間とは思えない。本当に“撮影中におかしくなったのか？”と心配するほどである。

もう殺し屋稼業から足を洗うことにしたインナム（ファン・ジョンミン）は最後の仕事で日本のヤクザ、コレエダ（豊原功補）を始末する。これで心安らかに暮らせると思っていたのに、かつての恋人がタイ・バンコクで殺された。しかも自分の娘を残していたと知ってしまっては、やるべきことをやるしかない。

娘を助けるだけでも手探りなのに、とんでもなく面倒なことにコレエダの実弟レイ（イ・ジョンジェ）が恨み骨髄で「絶対にてめえをぶっ殺す」と、どこまでも追いかけてくる。走るし、殴るし、刺すし、撃つし、おまけに爆発させるし、車は爆走。二人とも全身血まみれ。ふ〜。

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予算と時間と役者

今回、舞台は日本、韓国、タイと、もう韓国映画で海外撮影は珍しくないので驚くことはないんだけど、要は金のかけようである。どの国でもじっくり撮っているので、全行程で4ヶ月をかけている。カット割で誤魔化すのが嫌だったそうで、スタントなし、マルチカメラでワンテイク撮影。確か『仁義なき戦い』（1973年）もカメラをあちこちに隠してのワンカット撮影だったはず。長回しなので、役者はその気になっていないとすぐにバレてしまう。

金はかけるが役者にも圧をかける。監督・脚本はホン・ウォンチャン。『チェイサー』（2008年）、『哀しき獣』（2010年）『殺人の告白』（2012年）の脚本に携わり、『オフィス檻の中の群狼』（2015年）で監督デビュー。しかも、その作品でカンヌ国際映画祭に招待されている。今回の作品もいわゆる“アクション映画”ではあるのだが、構えが広く、バックグラウンドに深みがある。製作者にも金と時間をかけているのである。

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クリスマスイブに恋人と

この作品は2021年12月24日（金）公開。クリスマスイブにはピッタリだ。実際に会ったことのない娘を必死で探す父親、兼・元殺し屋。兄の仇をとることしか考えない現殺し屋。バンコクで娘探しに手を貸してくれるショーパブ勤めのトランスジェンダーの韓国人（パク・ジョンミン）。愛だぜ、愛。愛を成就させるためには時として血も流さなければならない。ああ、嫌だー。でも面白い。映画館で手を握り合って、互いの愛を確かめ合うには最適の作品を紹介できて私も心から幸せだ。

スッキリするためにアメリカの“アクション映画”を見に行くのなら、私はこっちの方がよほど質が高いし、得られるものも大きいと本気で思っておりますが、いかがでしょうか。関係ないけど、Netflix日本視聴ランキングでは韓国ドラマが必ず上位10位以内に何本も入っているのに、どうして日本では韓国映画を掛けるスクリーンがこんなに少ないのだろうか。ドラマも確かに優れているが、映画は2時間前後で仕上げるという極めて緻密な仕事なので、つまらないわけがないんだけど、どうでしょうね。もう少し手をあげる小屋があってもおかしくないはずですよ。

文：大倉眞一郎

『ただ悪より救いたまえ』は2021年12月24日（金）よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開

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『ただ悪より救いたまえ』

東京でのミッションを最後に、引退するはずだった暗殺者インナム。ところがかつての恋人がバンコクで殺害され、別れた後に生まれたインナムとの娘が行方不明だと知らされる。

インナムはバンコクに飛び、関わった者を次々と拷問にかけて娘の居所を突き止める。そして、インナムに兄を殺された殺し屋レイも、復讐のためにバンコクに降り立ち、死体の山を築きながらインナムに迫っていた。

絶対に出会ってはいけなかった2人の男の暴走は、どちらかの息の根が止まるまで終わらない―

制作年：	2020
監督：	ホン・ウォンチャン
脚本：	ホン・ウォンチャン
出演：	ファン・ジョンミンイ・ジョンジェパク・ジョンミンパク・ソイーチェ・ヒソ白竜豊原功補

2021年12月24日（金）よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開

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