デ・ニーロ×アン・ハサウェイ
ナンシー・マイヤーズ監督の『マイ・インターン』(2015年)は、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイ共演によるハートフル・コメディ。アメリカでも日本でも思いがけないスマッシュヒットとなった。
引退生活を送っているベン(ロバート・デ・ニーロ)は、3年前に妻に先立たれて以来、誰もいない家で一人暮らしの寂しさにうんざり。70歳ながら、心も体も健康そのもの、好奇心いっぱいの彼は、スーパーの掲示板でシニア・インターン募集のチラシを目にする。その会社は女社長のジュールズ(アン・ハサウェイ)が立ち上げた新興のファッション通販サイトで、社員は若者ばかり。しかし、何もかも自分でやらなければ気が済まないジュールズは朝から晩まで仕事で手一杯。そんなジュールズの直属の部下として配属されたベンだが、シニアに偏見のある彼女から、なかなか仕事を任せてもらえない。
積極的なベンは自分から雑用を買って出たり、若手の相談にのったりするうちに、社内の人気者に。あるとき、飲酒を目撃した運転手の代わりにジュールズを自宅に送ったベンは、仕事をやめて主夫役に回った夫のマット(アンダーズ・ホーム)や一人娘のペイジ(ジョジョ・クシュナー)を知り、ジュールズの家庭の事情も分かってくる。彼女もベンの有能さと暖かな人柄に気づき、次第に打ち解けていくが、ジュールズは急成長した会社の常として、経営を外部のCEOに任せてはどうか? という提案に揺れていた……。
あり得ない理想を描いたっていい
監督は、プレイボーイのジャック・ニコルソンが、恋人の母親ダイアン・キートンと大人の恋に落ちる『恋愛適齢期』(2003年)、イギリスの田舎に住むケイト・ウィンスレットとロサンゼルスで予告編製作会社を経営するキャメロン・ディアスがクリスマス休暇の間、お互いの家を交換するラブコメディ『ホリデイ』(2006年)で知られるナンシー・マイヤーズ。脚本家出身だけあって、ストーリーの細部までよく目が行き届いている。
ジェネレーション・ギャップを、台詞だけでなく、古い世代をハンカチやヴィンテージの鞄、若者世代をスマホやSNSといった小物使いで表現するところに説得力がある。悪漢も出てこないし、ラブストーリーでもない(デ・ニーロとレネ・ルッソの大人のお付き合いはあるにしても)、いわば“普通”のコメディ映画を、ここまで心地よく、楽しく描いていく手腕はさすがだ。
主演のロバート・デ・ニーロは1943年8月17日ニューヨーク生まれ。言うまでもないアメリカを代表する名優で、この時は70歳という役の設定より少し年上の73歳だった。対するアン・ハサウェイは1982年11月12日ニューヨーク生まれの31歳。幼い頃から女優を志し、10代でテレビ・シリーズ『ゲット・リアル』(1999~2000年)の主役に抜擢され、すぐ『プリティ・プリンセス』(2001年)で映画デビュー。その後、順調にキャリアを伸ばしてきた優等生だ。アカデミー賞主演女優賞に初ノミネートした『レイチェルの結婚』(2008年)がヴェネツィア映画祭に出品されたとき、監督の故ジョナサン・デミが努力家の彼女のことをとても誉めていたことを覚えている。そして『レ・ミゼラブル』(2012年)で念願の初アカデミー賞(助演女優賞)を手にしたのはご存じの通り。主演女優賞を獲る日は近いだろう。
アン・ハサウェイの名を決定的にしたのは、メリル・ストリープ演じる鬼編集長のアシスタントを演じた『プラダを着た悪魔』(2006年)だ。今回の『マイ・インターン』では立場が逆転、今度はアシスタント(インターン)を使う側の役に出世して、ちょうど対になっているのが面白い。ただし、アシスタントでも社長でも、悩みの多い役どころなのは共通だ。
会社でも隣近所でも、世代の違う相手と付き合うのは難しいもの。確かに人生経験豊かで気遣いもバッチリなシニア、素直な若者たちなんて、実生活ではありえない。理想である。でも、映画だから理想を描いていいのだ。それが面白ければ。
文:齋藤敦子
『マイ・インターン』はCS映画専門チャンネルムービープラスで2021年11月放送
『マイ・インターン』
華やかなファッション業界で成功し、結婚してプライベートも充実、現代女性の理想の人生を送るジュールズ。そんな彼女の部下にシニア・インターンのベンが雇われる。最初は40歳も年上のベンに何かとイラつくジュールズだが、いつしか彼の的確な助言に頼るように。彼の“豊かな人生経験”が彼女のどんな難問にもアドバイスを用意し、彼の“シンプルな生き方”はジュールズを変えていくー。そんな時、ジュールズは思わぬ危機を迎え、大きな選択を迫られることに!
制作年: | 2015 |
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CS映画専門チャンネルムービープラスで2021年11月放送