本屋大賞受賞作は実写化されるが……
本を読んで、お喋りするだけ、という美味しいラジオの仕事を11年間続けていたので、本屋大賞にはずっと注目していた。年を重ねるごとに受賞作発表会に押し寄せるメディアの数が怖くなるくらい増えてき、下手すりゃ芥川賞、直木賞よりも扱いが大きなイベントになった。こういう賞を思いつき、実施まで持っていった方々の無茶な働きには頭を下げるしかない。
私も毎年受賞作を予想していたのだが、一度も当てたことがない。そんな本があったの? という作品を全国の本屋に勤める書店員さんが、新刊の小説をいつ寝てんだろうというくらい、ひたすら読みまくり、その投票で大賞を決めるのだから、これ以上民主的な選考はない。まあ「民主的だから良い作品」だと言うつもりはないが、結果的に受賞作は爆発的に売れるし、必ず実写化されるという騒ぎになるので、本が売れないと言われて久しい時代に輝く星が出現したことは確か。
2021年本屋大賞 1位
— 本屋大賞 (@hontai) April 14, 2021
『52ヘルツのクジラたち』
町田そのこさん、おめでとうございます!
予防に努めながらも、今年は受賞者を迎えて開催することができ、本当によかったと思う、あたたかな発表会でした。
今日から書店がクジラで賑わいますね。まだまだ楽しみはつづきます🐳
(Twitter実況担当、礒部) pic.twitter.com/QHrhEBGUWc
小説の面白さに「絶対」はないので、これが大賞かい、と首を捻った作品があることは仕方がない。また、実写化されて、あれま、と呟いたこともある。それも仕方がない。ただ、それは本屋大賞に限ったことではない。でも、読み応えも後味も素晴らしいとしか形容できない小説は、素晴らしい映画、あるいは見応えのあるテレビドラマになって欲しいと望むことも自然なことである。
ということで今回は、どんな映画になるんだろう? と、私が勝手に想像していた本屋大賞受賞作原作の作品について。
2019年本屋大賞のすべての順位はこちら。
— 本屋大賞 (@hontai) April 9, 2019
1位「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ/文藝春秋
2位「ひと」小野寺 史宜/祥伝社
3位「ベルリンは晴れているか」深緑 野分/筑摩書房
4位「熱帯」森見 登美彦/文藝春秋
5位「ある男」平野 啓一郎/文藝春秋#本屋大賞
出演者を知ってクラッときた
瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は2018年に出版され、2019年の本屋大賞をかっさらった。全く知らない作品だったので、不明を恥じてすぐに本屋に走った。ああ、いい話しだ、うまいね、こういう作品にきちんと光が当たることは日本の文芸界に爽やかな風を送ることになる。俺にもこんな小説が書ければいいのに、とちょっとまともなことを思った後、最後に全く無駄な感想を抱いた。
バトンね、バトンってなによ。読む分にはいいけど走るのは絶対に嫌だ、という人も安心してページをめくってください。誰も走りません。バトンは大事なもの、大切に次のランナーに希望を託して渡すもの。もうなんかいい話っぽいでしょ。
さて、数ヶ月前、映画『そして、バトンは渡された』の試写の案内をいただいた。監督の前田哲さんから直接メールが来た。前田さんの作品は全部観ているわけではないが、大好きな作品が多い。2008年公開の『ブタがいた教室』を見て、出演する小学生と一緒になって“どうすりゃいいんだろう”と頭を抱えて、命について考えた。妻夫木聡がとても良かった。
2018年に公開された『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』では、重い障害を抱えながらクソわがままな、「生きる」ことに貪欲な男に腹を立てながらも深く頷いた。大泉洋にしか演じることのできない主人公だった。
2019年公開の『ぼくの好きな先生』のタイトルは、もちろんRCサクセションからかっぱらったものだが、ドキュメンタリーだった。私の美術の先生がこの作品の美大教授のような人だったら、今頃私は間違いなく絵描きになっていた。そんな前田監督が撮ったのが、この『そして、バトンは渡された』である。
試写の案内を見て「ヒェー」と声をあげた。私が勝手に頭の中でキャスティングしていた役者が一人も入っていない。そんなことは珍しくもないのだが、驚くほどベタだったのである。悪い意味ではない。が、いい意味でもなく、こんな豪華キャストを前田監督が使っちゃって大丈夫か、アイドル映画を撮るんじゃないだろう。いや、永野芽郁が主人公である限り、それだけでアイドル映画と分類されてもしょうがないか。ちなみに私は永野芽郁さんが大好きなので、誤解なきよう。
それにしても田中圭、石原さとみ、岡田健史、大森南朋、市村正親と並べてしまって、前田監督が撮りたいように撮れるのか。おかしなことになってないだろうな。
※以下はネタバレを含みますので、映画を観ていない方はご注意下さい。
泣いたけど、なにか?
主人公は永野芽郁ということでいいのかな。実はこの作品では出番の多い少ないはあるのだが、何人もの主人公がいると言っても間違いではない。
永野芽郁が演じる優子の母親は彼女が幼い時に亡くなってしまっているが、大森南朋が演じる父親はあろうことか、超絶美人だが調子がいいだけ、家事テキトー、子供を育てることができるのか、とただただ不安になる魔性の女、梨花(石原さとみ)と再婚する。ところが父親が「ブラジルで事業を」と夢のようなことを言い出し、単身で地球の裏側に行ってしまい、離婚。優子は、なんと梨花が引き取る。そして梨花は田中圭が演じる森宮と再婚。
ややこしい。大丈夫ですか? ついてこれてる? そして……と話はバトンが渡されるように続いていく。
前述した通り、ある意味ベタな出演陣なのだけど、それが皆さんピタリとハマっていて、心地良い。特に石原さとみが登場すると、全ての景色が変わるくらい華やぐ。突出していることがプラスに作用している。超絶美人を選ぶと、こういうことになるのかと驚いた。
展開は原作にかなり忠実なので、ストーリーは頭の中に入っており、次にどうなるかもわかってもいるのだが、あと1年で高齢者となる私は途中から泣いちゃった。老人がこういう映画で泣くというのはどういうもんかと、泣きながら思ったりもしたんだが、一旦泣き出すと止まらない。たまに泣くと良いものだ。なんだかスッキリした気分になれたが、泣いたことがバレると死にたくなるくらい恥ずかしいので、うつむいたまま急いで試写室を出た。
コロナのせいもあるが、最近なーんか気鬱だった私は、ああ、良い日になった、不要不急の外出は避けよ、とうるさく言われているのを聞かなかったことにして、出てきて大正解、こんな日が続くと嬉しいな、と鼻歌を鳴らして帰宅したのであった。映画が当たるといいな。
文:大倉眞一郎
『そして、バトンは渡された』は2021年10月29日(金)より全国公開
『そして、バトンは渡された』
血の繋がらない親に育てられ、4回も苗字が変わった森宮優子は、わけあって料理上手な義理の父親、森宮さんと2人暮らし。今は卒業式に向けピアノを猛特訓中。将来のこと、恋のこと、友達のこと、うまくいかないことばかり……。
一方、梨花は、何度も夫を替えながら自由奔放に生きている魔性の女。泣き虫な娘のみぃたんに目いっぱい愛情を注いで暮らしているようだったが、ある日突然、愛娘を残して姿を消してしまった。
そして、優子の元に届いた一通の手紙をきっかけに、まったく別々の物語が引き寄せられるように交差していく。「優子ちゃん、実はさ……」。森宮さんもまた優子に隠していた秘密があった。父が隠していたことは? 梨花はなぜ消えたのか? 親たちがついた〈命をかけた嘘〉〈知ってはいけない秘密〉とは一体何なのか。
2つの家族がつながり、やがて紐解かれる《命をかけた嘘と秘密》。物語がクライマックスを迎え、タイトルの本当の意味を知ったとき、極上の驚きと最大の感動がとめどなく押し寄せる─。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年10月29日(金)より全国公開