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いま面白い海外アニメ映画!『整形水』『ベルヴィル・ランデブー』『カラミティ』『クー! キン・ザ・ザ』まで目白押し

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ライター:#谷川建司
いま面白い海外アニメ映画!『整形水』『ベルヴィル・ランデブー』『カラミティ』『クー! キン・ザ・ザ』まで目白押し
『クー!キン・ザ・ザ』© CTB Film Company, Ugra-Film Company, PKTRM Rhythm / 『整形水』©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

豊作! 海外アニメ映画の秋

日本が世界的に見てずば抜けたアニメ天国であることは今さら指摘するまでもないが、2021年のお盆(8月15日)時点で日本中の映画館にて上映中のアニメ映画は、『映画おしりたんてい スフーレ島のひみつ』『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』といった(表向きには)子供向け作品、明石家さんまプロデュースの『漁港の肉子ちゃん』、細田守監督の話題の新作『竜とそばかすの姫』など、50作品にも及ぶのだという。

それらのほとんどは日本製アニメだが、中には海外で製作された逸品もある。今回は、現在上映中および9月公開のアニメ作品の中からオススメ作品をいくつか紹介したい。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

アカデミー賞ノミネート『ベルヴィル・ランデブー』

カンヌ国際映画祭のアニメーション部門から独立したアヌシー国際アニメーション映画祭があることからもわかるように、フランスは日本同様にアニメ愛の熱い国。そのフランス製アニメとして、史上初めてアメリカのアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた名作『ベルヴィル・ランデブー』(2002年)が、18年振りにスクリーンで上映されている。

『ベルヴィル・ランデブー』Blu-ray 発売中
価格:5,170円(税込)
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© Les Armateurs / Production Champion / Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet

ギャングにさらわれた自転車競技選手の孫を助け出すために、小柄なおばあちゃんが独りで大都会へ乗り込んで大活躍する、という意外性のある物語に加えて、キャラクターたちのデフォルメの仕方が日本のアニメとは全然異なるのが、何ともユニークで面白い。

『ベルヴィル・ランデブー』© Les Armateurs / Production Champion / Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet

日本のマンガやアニメだってキャラクターが突然三等身になる様な極端なデフォルメはあるけれど、フランス人監督シルヴァン・ショメのデフォルメの仕方を見ると、「そうか、フランス人は人間をこういう風に見ているのか」と、その着眼点の違いにハッとさせられる。

『ベルヴィル・ランデブー』© Les Armateurs / Production Champion / Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet

とりわけ、誘拐される孫のシャンピオンの、青年になってからの鼻の描かれ方が「サイボーグ009」の002ことジェット・リンクよりもさらに尖っていたり、自転車選手ゆえの太ももとふくらはぎの筋肉の発達具合がものすごい様子などは、「そこまでデフォルメするものなのか」とビックリする。

『ベルヴィル・ランデブー』© Les Armateurs / Production Champion / Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvain Chomet

もう一点、冒頭に出てくる1920年代の著名な踊り子ジョゼフィン・ベーカーなども、おっぱいも露わに踊る性的な消費対象として描かれ、「なるほど、こういう存在と認識されていたんだな」と目からうろこの感じだ。

ジェンダー的視点でアニメのヒロイン像を考えさせる『カラミティ』

フランスが製作国に名を連ねている例だと、他にも一匹の犬の辿る数奇な運命を描いたルーマニア/フランス/ベルギー合作アニメで、女性監督アンカ・ダミアンによる『マロナの幻想的な物語り』(2019年)が、「もしかしたら犬には人間がこんな風に見えているのかも」と思わせるような不思議な世界観が圧倒的だった。9月以降もまだ上映されている地域はあるが、DVD&ブルーレイも発売されたから、未見の方はぜひ!

フランス/スペイン/ベルギー合作の『ジュゼップ 戦場の画家』(2020年)もまた公開中だが、監督を務めたフランスのイラストレーター、オーレルによるグラフィック・ノベルのようなタッチの画と、主人公であるジュゼップ・バルトリ自身の遺した線画スケッチとで構成されるこのアニメは、ある意味で日本以上にアニメという表現手段を芸術そのものと位置付けている、フランスの面目躍如たるアート作品で素晴らしかった!

これから公開の新作だと、フランス/デンマーク合作による『カラミティ』(2020年)も、なかなか日本には無いタイプのアニメ映画だ。タイトルとなっている“カラミティ”とは、古い映画ファンならばジーン・アーサーやジェーン・ラッセル、そしてドリス・デイが演じたことを覚えているだろう、アメリカ西部開拓史上に名高い男勝りのカラミティ(=疫病神)・ジェーンのことで、その最もアメリカ的な女傑の物語をヨーロッパのアニメーターたちが描いていて、台詞が全部フランス語なのが、最初のうちはやや違和感がある。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

でも、レミ・シャイエ監督が描こうとしていたのは実は遠い昔の有名な女ガンマンなのではなく、いつの時代にもどこにでもいる普通の女の子であって、ただし「女の子は女の子らしくお淑やかでいなさい」というジェンダー的な強制に違和感を覚え、「男の子にできることなら私にだってできないはずはない」と信じ、いくら周囲から異端視されようとも自分の思うように生きたいと願う少女が自己実現していくまでの成長物語なのだ。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

その容姿もけっして美人でも可憐でもなく、日本のアニメでいったらどちらかというとヒロインの友人(例:「魔法使いサリー」のよっちゃん、「サザエさん」の花沢さん)として設定されるような地味めの顔立ちの主人公。ということ自体が、昨今の「容姿で人を判断することへの批判」のムーブメントをアニメ映画で実践している趣でもある。

面白すぎる韓国製アニメの怪作『整形水』!

『ベルヴィル・ランデブー』のジョゼフィン・ベーカーの描かれ方は、「#Me Too」運動が広がりを見せている2010年代後半ではちょっとアウトな感じもするが、いまどきの映画界ではヒロインが美人でスタイル抜群に描かれるだけで批判の対象となってしまう可能性のある、クリエイターにとっては危険な時代に突入したようにも思う。

『整形水』©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

そんな中、「容姿で人が判断されること」への妄執なのか迎合なのか、ともかく非常に美意識の高すぎる整形大国として知られる韓国からも、「容姿で人を判断することへの批判」の立ち位置からアニメ市場に参戦があった。チョ・ギョンフン監督によるホラー・アニメ映画『整形水』(2020年)という怪作だ。

『整形水』©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

ホラー映画としてのオチ(ネタばれ回避のため、ジャック・ニコルソンがマゾヒストの歯痛患者役を怪演したとある昔のホラー・コメディのオチとちょっと似ている、とだけ言っておこう)には好き嫌いもあるだろうし、論理的説明を求めたところで詮無きことなので批判はしないが、「4倍に薄めて20分顔を浸せば、自由自在に好みの顔に変えられる」という奇跡の美容溶液<整形水>というアイディア自体が抜群に面白い。

『整形水』©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

加えて、幼い頃から容姿にコンプレックスを抱いて生きてきたヒロイン=イェジが過去のトラウマから整形水にすがろうとする心理、容姿に悩む娘を抱える父母の葛藤、イェジが裏方として関わっている韓国エンタメ界の深い闇の部分、ネット上での誹謗中傷に喜びを見出す人々など、「あるある」な感じについつい頷きながら見入ってしまうのだ。まさに怪作と呼ぶに相応しい作品で、筆者も珍しく二度続けて見たほどだ。

カルト映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』奇跡のアニメ化!

『ジュゼップ 戦場の画家』もそうなのだが、日本のアニメではまだまだ少ない、大人向けというか、日本だったら「何もアニメ映画にしなくてもいいんじゃないの?」とアニメ化に際して見向きもされない様な題材のアニメ映画が、海外では結構作られている。

たとえば、2020年に劇場公開されたカナダ製の長編アニメ映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』(2018年)は、日本では村上春樹による翻訳で知られるレイモンド・カーヴァーの短編「シェフの家」をベースにした大人の映画。主人公たち――詩人であり過去に縛られるアル中の夫と、未来を見つめるその元妻――の、思い出の地でやり直そうとするものの、やはりうまくいかない関係を淡々と描いている。墨絵のような背景の単純な美しさの中の、男と女の愛を巡る感情のすれ違いという普遍的なテーマに観終わって余韻の残る作品だ。

現在全国で順次公開中のロシア製アニメ映画『クー! キン・ザ・ザ』(2013年)もまた、「よくぞこれをアニメにした」と喝采を送りたくなるような作品。言うまでもなく、この作品の元になったのは、ソ連時代のモスフィルムで作られ、日本でも当時、ソ連映画専門館として気を吐いていたセゾングループ系のキネカ大森で1989年に単館ロードショーされたカルト映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』(1986年)だ。

この新作のアニメ版は、前作の監督ゲオルギー・ダネルヤ自身が、親子ほども歳の違う女性アニメーション作家タチアナ・イリーナと共に前作を解釈し直し、イリーナによって現代の観客に合うよう改訂された新たな脚本で、単なる名作実写映画のアニメ化というのではなく、パワーアップしたリ・ブート版という感じに仕上がった。

『クー!キン・ザ・ザ』© CTB Film Company, Ugra-Film Company, PKTRM Rhythm

日本だったらどの辺りの作品に例えて言えば良いのかよく判らないが、大人向けのアニメ映画の企画が通って作品が作られるということは、それを観ようと思う大人の観客がしっかりいるということには違いない。そういう意味では、日本は文化受容の成熟度という点でまだまだだなと思う。

アニメをスパイスに使った日本発ドキュメンタリーの“毒”加減

もちろん日本のアニメ映画も、アニメーションというものを単純に表現のための一手段と捉えれば、例えばドキュメンタリー映画などの中でも毒気を利かせるスパイスとしてアニメが用いられることがある。

現在公開中の『パンケーキを毒見する』(2021年)は、このたびの自民党総裁選に不出馬を表明した菅義偉内閣総理大臣の実像に迫るべく製作された「政治バラエティ」と自称するドキュメンタリー映画なのだが、監督の内山雅人は作品のメッセージ性を深めるために、『パンパカパンツ』シリーズ(2014年ほか)などで知られるアニメーション作家べんぴねこに、劇中の要所要所に挿入するアニメを作成してもらっている。

『パンケーキを毒見する』©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会

そのアニメは、まんま『サウスパーク』(1997年~)の子供たちが教師に対して国会での首相答弁を模倣するとか、地獄で鬼に舌を抜かれてもまた生えてくる二枚舌の官僚たちとか、リアル怪物くんっぽい青白い菅首相らしき人物が重荷を引き摺っているとワクチンを載せた船が到着して救われるとか、国民を飼いならされた羊に例えて、文句を言わない羊たちを凍死・餓死させても意に介さない牧場主とか、デジタル蝶(庁)という名前の物珍しい新種の蝶にはしゃぐ子供、といった皮肉なイメージを付加していて、映画全体に「毒気」を与えている。

『パンケーキを毒見する』©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会

ひと口にアニメと言ってもその手法、コンセプト、志などは実に様々であり、実は観る側のリテラシーこそが試される分野なのかもしれない。

文:谷川建司

『ベルヴィル・ランデブー』『クー! キン・ザ・ザ』は全国順次公開中
『カラミティ』『整形水』は2021年9月23日(木・祝)より全国公開

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