イップ・マンに敗北したからこそ生まれたカタルシス
『イップ・マン外伝 マスターZ』の主人公チョン・ティンチは『イップ・マン 継承』(2016年)での敵役。しかし子連れの寡黙な武術家はあまりにも魅力的で、このところ出世街道をひた走っているマックス・チャンのカッコよさもあってスピンオフが作られたわけだ。
共演にデイヴ・バウティスタ、ミシェル・ヨー、トニー・ジャー。しかも監督はレジェンドとも言えるユエン・ウーピン。スピンオフ=スケールダウンという感じがまったくしない鉄壁の布陣だ。これで期待するなというほうが無理というもんだろう。
重要なのは、この映画が続編やスピンオフの難しさをきっちりクリアしていること。脇役、悪役、敵役をメイン(級)でクロースアップする際に、万人に好かれるキャラクターにしようとしてしまうことがよくある。「そんないい人じゃなかったはずだろ!」という感じで、キャラとして丸くなってしまうのだ。角があるから、クセが強いから魅力的で、だからクロースアップされたはずなのに。
だが『マスターZ』は、主人公がかつて犯した過ちや“イップ・マンに負けた”という事実から目をそらさない。そこで生まれる葛藤、主人公の負い目こそがドラマの原動力になっている。だからこそ、主人公が「詠春拳、チョン・ティンチ」と名乗る場面のカタルシスが凄まじいのだ。
夢の異種格闘技戦=お祭り映画としても最高!
また『イップ・マン』シリーズは詠春拳vs他流派、多種多様な格闘技という“異種格闘技戦”的な要素もポイント。『継承』ではドニー・イェンvsマイク・タイソンという夢のカードが実現してしまった。
今回はマックス・チャンvsトニー・ジャー(『ドラゴン×マッハ!』[2015年]のリマッチ!)、マックス・チャンvsミシェル・ヨー、マックス・チャンvsデイヴ・バウティスタと、豪華対戦カードが連発。それぞれテイストの違う格闘シーンを堪能させてくれる。映画の中の“夢のオールスター戦”というか、お祭り映画としても『マスターZ』は最高というしかない。
ちなみに格闘シーンの中には、つい先日“キックボクシングの神童”こと那須川天心が使って話題となった技も登場。偶然のシンクロだが、この映画が“時代の最前線”にあることを証明しているんじゃないかと思う。
文:橋本宗洋
『イップ・マン外伝 マスターZ』は2019年3月9日(土)より新宿武蔵野館ほかロードショー
『イップ・マン外伝 マスターZ』
ブルース・リー唯一の師にして、詠春拳の達人イップ・マンの半生を描き、大ヒットした『イップ・マン』シリーズ。その3作目でイップ・マンに敗れた男、チョン・ティンチ。一度は武術を捨て幼い息子と新たな半生を歩みはじめた男がいま、正義のために再び拳を握る!
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |