『哭声/コクソン』とは無関係! むしろこっちが先!!
よほどの韓国映画マニアでもない限り、國村隼が◯◯で◯◯するナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』(2016年)のパチもん映画か? と勘ぐってしまいそうなタイトル! しかし、本作『ヨコクソン』は1986年の韓国時代劇ホラー映画『女哭声(ヨコクソン)』のリメイク作品。むしろ本国では『哭声/コクソン』上映時に「『女哭声』と何か関係あるの?」と話題にあがったんだそう。
舞台は朝鮮における三国時代。と、いきなり若干のとっつきにくさは否めないものの、このあたりはほとんど説明がないのでざっくり“大昔”でOK。ちなみにNetflixの韓国ゾンビドラマ『キングダム』(2020年~)が李氏朝鮮を舞台にしているので、そのさらに大昔ということになります。で、そんな大昔なので一夫多妻制は当たり前。ということで、普通の民間人であるオク・ブン(ソン・ナウン)はシン氏夫人(ソ・ヨンヒ)の息子の、3番目の嫁になるために「両班(ヤンバン)」と呼ばれる支配階級の屋敷へとやって来た。
しかしこの屋敷、なにやら関係者の怪死が続くいわくつき物件のようで、オク・ブンの新郎は初夜にいきなり死亡! しかし、オク・ブンはその初夜での子作りで妊娠! ほかの妻たちからいじめられるが、家を出るにも出られない。そんな状況の中、何かを察知した巫堂(ムーダン)と呼ばれるシャーマンは、オク・ブンに一刻も早く家から逃げ出すことを勧めるが……。
「この恨み、晴らさでおくべきか!」な禍々しい恐怖
主演は韓国のアイドルグループApinkのメンバーとして人気を誇るソン・ナウン。『パッチギ!』(2004年)のときの沢尻エリカを思わせる、力強さのある初々しさが眩しいのですが、迎え撃つのは 『ビー・デビル』(2010年)での鬼気迫る演技がいまだ語種となっているソ・ヨンヒ。本作でまたも狂乱の演技を披露するわけですが、そのキャスティングが匂わす通り、本作は『ビー・デビル』にも共通する「この恨み、晴らさでおくべきか!」という魔太郎ムービーとなっている。<強い怨念を持った悪霊に取り憑かれた家>というホラー映画の定番を踏襲しているので、時代背景や用語の説明がほとんどなくても、わりとすんなり観られる……はず。
本作の原作となるオリジナル版『女哭声』は、1986年という製作年を考えると愛おしくなるほどのチープな特撮が目を引く逸品。フィルム合成による謎の光線や、盛り盛りの特殊メイクをほどこした焼け爛れた顔面ドアップは朝飯前、ここぞ! というシーンには真っ赤なライティングを多用しまくるなど、可愛いげすら漂う力技が満載だ。
いっぽう本作は、時代劇だというのに心霊ドキュメンタリーチックな赤外線映像やサイレン音も平気で使う自由奔放さ。それでいてオリジナル版もけっこう本気でリスペクトしていて、随所にオマージュを散りばめながら、もはや伝説となっているオリジナル版禁断のグロシーンもしっかり再現! 人によっては耐性がないと◯◯吐きかねないので、劇場へはエチケット袋を持参しておくことをおすすめします。
文:市川力夫
『ヨコクソン』は2021年8月6日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開