錚々たるアーティストがロンソンとの思い出を語る
70年代初頭、ジギー・スターダストとしてスターの座に駆け上がるデヴィッド・ボウイを、彼のバンド“スパイダーズ・フロム・マーズ”の一員として支え、その後もソロ活動をはじめさまざまなかたちでロック史にその名を刻んだスーパーギタリスト、ミック・ロンソン。『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』は、1993年に46歳の若さでこの世を去った”ロノ” ことロンソンの人生を、ボウイとの関わりに重点を置いて紹介するドキュメンタリー映画だ。
監督のジョン・ブルーワーはこれまでB.B.キングやジミ・ヘンドリックス、ナット・キング・コールなど数多くのアーティストのドキュメンタリー作品を手掛けて映像業界での地位を築いているが、かつては音楽マネージャーとして活躍し、70年代初頭にはボウイのスタッフとして働いていた人物。そんな経歴の持ち主だけあって、さすがに貴重なインタビューおよび記録映像を集めてきている。
イアン・ハンター、グレン・マトロック、リック・ウェイクマン、マイク・ガーソンらの語りからは、ロンソンと過ごした時間がそれぞれにとって大切な青春の思い出になっていることがわかる。ボウイの最初の妻だったアンジー、チェリー・ヴァニラ、ダナ・ギレスピーら老いてなお生命力あふれる女性たちの姿にも圧倒される。ボウイがジギー・スターダストになる前、南ロンドンでヒッピー文化や地元密着型アートに接近していた時代を知るメアリー・フィネガンの談話もうれしい。そしてこの映画で聞けるボウイのナレーションは、彼が亡くなる3年ほど前に吹き込んだものなのだそうだ。
『ボヘミアン・ラプソディ』で古典ロックにハマった人にもオススメ!
ボウイとロンソン、ふたりが揃ったときのかっこよさはいま見ても惚れ惚れする。1+1+1+1が4でなく100にも無限大にもなるロックバンドという表現形態のパワーが最大を記録した瞬間のひとつだ。しかし、ロンソンはアレンジャーとしてボウイの曲作りにおおいに貢献していたにもかかわらず、レコードにはクレジットされず十分な報酬も受け取っていなかった。
この映画を観れば、亡き夫がもっと認められるようになってほしいというロンソンの妻スージーの願いももっともなことだと納得できるだろう。いまもなおエレガントな彼女はジギー・スターダストのオレンジ色の髪を仕上げた美容師でもあった。
クイーンのロジャー・テイラーもしっかりインタビューに答えているので、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)の大ヒットをきっかけに70年代ロックに興味を持ったかたにもおすすめ。悪い業界人への警戒心を強め、健康診断の大切さを噛みしめ、スターの輝きを浴びよう。
文:野中モモ
『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』は2019年3月8日(金)からロードショー