『本気のしるし』(2019年)など話題作への出演で、さらなる活躍が期待される土村芳(つちむら かほ)。主演最新ドラマ『ライオンのおやつ』(NHK BSプレミアム)が2021年6月27日(日)より放送中だ。
小川糸による同名の原作(ポプラ社刊)は、2020年の本屋大賞で第2位となった人気小説。ホスピス<ライオンの家>で生命の終わりを迎える人々がリクエストするおやつから、それぞれの人生のエピソードが紡ぎ出される……という物語だ。
土村は、若くして余命宣告される海野雫役をどのように演じたのか? 質問のひとつひとつを真摯に考えながら答える人柄や、まったく作為を感じさせない自然体の発言が印象的なインタビューとなった。
「“心”に重きを置いていることのほうが多いかもしれない」
―土村さんが『ライオンのおやつ』で演じる海野雫は、癌の最終ステージで余命宣告されホスピスにいるという役です。最近のドラマでは直接的に描かれることが少なくなった“死”に立ち合い、元気なシーンでも影を感じさせなくてはならない大変な役だと思いました。特にどういったことを意識して演じられていますか?
雫は、化学療法を止めて少し経ってからライオンの家に来るので、物語を経ていくにつれてだんだんと身体が動かなくなってしまいます。撮影は順撮りではないので、シーン毎に自分で病気の進行段階を確認しながら、自分なりに間を埋めながらやっているような感じです。実際に癌が進行するとこういうふうになっていくんだということを勉強して、わからないところは監修の先生に確認させていただきつつ演じています。
でも、“心”に重きを置いていることのほうが多いかもしれないですね。雫の心の成長というか、閉ざしていたものが、ライオンの家で色んな人と触れ合うことによって少しずつ広がっていく様子、徐々に雫自身の心が自由になっていく様子を、なるべく繊細に伝えられるようにしたいなと意識しています。
―撮影中、特に苦労された点は?
いま現在まだ撮影中ではあるんですけれども、雫の場合、やっぱりつらい場面もたくさん訪れるのですが、苦労したのは父に電話するシーンですね。彼女は親に伝えずに(ライオンの家に)来てしまっているわけです。家族に対して雫が最後にどういう選択をするのか、それを伝えるシーンはつらかったですね。雫なりの言葉で、どのように伝えるのかな、ということを考えながら。すごく慎重になっていたかもしれないですけど。
―現在、撮影は何話くらいまで進んでいますか?
先日、初めて第1話の完パケを見させていただきました。撮影自体は、1話から8話の最終話までをランダムに撮っている状態です。
「『ライオンのおやつ』には毎回、印象に残るシーンが絶対にあります」
―脚本を読ませていただいたのですが、原作と比べてもかなりリアルに描かれている印象でした。原作の雫は、育ての親である叔父が結婚したことで距離を感じてしまい、叔父の家族とは没交渉という設定です。一方、ドラマでは叔父の家族と一緒に過ごすシーンも描かれていますね。
そうですね、どうして雫が一人でいるのか? という部分が後に回想で表現されるのですが、家族と一緒にいるシーンの中でのちょっとした違和感というか、自分に対する異物感というものを感じてきたのが雫だと思います。なので、そういった些細なところでのちょっとした違和感は感じていただけるかなと思います。
―逆に演じやすかったシーンはありますか?
雫の場合、誰かと対峙している時と一人でいる時で心の状態が違うというか……人と接しているときは、どこか常に一枚フィルターが間にあるような感覚っていうんですかね。いつも相手のことばかり気にしてしまう性格で、“無理している部分”が少しずつ演じている私の中でも蓄積されていたので、一人のシーンになったときに溢れてくる感情をちょっと解放するというか、そういうところは演じやすかったですね。これが“演じやすい”というのが正しいかどうかは分からないんですが、そこで吐露できるというのは、現場で雫として何かずっと抑えている部分を自分の中で溜めていけたからできたことなのかなあと思います。
―では、特に心に残ったシーンはどこでしょうか?
印象に残るシーンは毎回必ずあるのですが、雫の場合、やっぱりライオンの家にいる人たちとの繋がりでしょうか。(ライオンの家は)がっちりとしたコミュニティではないんですが、心が交差する瞬間があるんです。雫も死にに来ていたわけで、終わりを待つためだけの場所だったはずが、皆との関わりによって自分の中で新しい何かが生まれてくるのを、少しずつ感じていく。それを段階を通して見せていけるところがあるので、本当に毎回毎回、印象に残るシーンが絶対にあります。これまで撮影したシーンで言うと、第3話のもも太郎との会話、第2話のタケオさんとのシーンはすごく印象に残っています。
―タケオさんは、原作ではおやつのエピソードの一つとして豆花を見て泣いているおじいさんでしたが、ドラマではかなり大きな役になっていますね。
物語としての人生も描かれているので、タケオさんの人生を雫が感じることができたことが大きな始まりの一つというか、そんな感じがしています。タケオさんは、私はすごく好きな登場人物でもあるんですけど。
―雫の心情として“家族の中の違和感”とおっしゃっていましたが、土村さんは『本気のしるし』の浮世のように、少し社会から浮いているというか、自分に嘘がつけない人物を演じることが多い印象です。『僕たちは変わらない朝を迎える』(2021年)でも、不器用な人、自分に嘘がつけないと元彼に言われる役でした。そういったキャスティングの理由について、ご自身ではどう思われますか?
あー! でも、いまそのお話をうかがうまで、それぞれの役にそういう共通点があるとは思っていなかったです。言われてみると……そういう考え方も確かにありますね。
―もちろん『MOTHER マザー』(2020年)のようにすごくしっかり者で、むしろお姉ちゃんがちょっとイッちゃってて……みたいな役も演じられているのですが、特に『本気のしるし』が印象的です。
ありがとうございます! すごくうれしいです。
「相手の期待に応えたいという気持ちは理解できる」
―『本気のしるし』で浮世を演じた際には、役作りについてどのようなご苦労がありましたか?
あの作品については原作漫画があって、そこで描かれている浮世さんの顔がすごく印象的だったんですよね。どうしてこの顔でこんな言葉を、この人は言えてしまうんだろう? って。私は原作をヒントに演じさせていただいて、深田(晃司)監督には具体的な相談はあまりしないようにしていました。たぶん監督ご自身にも、私が演じる浮世さんを型に嵌めたくないという思いがあったのかもしれないんですが、演ってみた上でもし違ったら、ここはもうちょっとこういう感じでやってみますか、というやり取りがあったり、その現場ごとに対応していくという部分があったので、本当に自由にさせていただいていたなあという思いがあります。
―現場でのトライアンドエラーがあって。
そうですね。あとは主演の森崎(ウィン)さんと、コミュニケーションを取りつつ演じさせていただいていました。
―オーディションがファミレスのシーンで、その演技がすごくよかったとインタビューで深田監督がおっしゃっていました。土村さんの演技は駆け引きでなく、心の底から本音で作為なく言っているように見えたと。そのときは何か意識していたことはありましたか?
私がそのシーンで受けた印象も、駆け引きではなかったんですよね。そのときは漫画の同じシーンを少し読んでいただけなのですが、浮世はいろんなことが上手な女性ではないという印象がありました。だからそういうアプローチをしたんだと思います。
―『本気のしるし』を観る直前に「ケーキの切れない非行少年たち」(著:宮口幸治)を読んでいたので、浮世は発達障害ではないか? と思ってしまったくらいなんです。悪意で人を振り回しているわけではないんじゃないか、と。そういう浮世が愛ゆえに成長して、あの愚直なまでに地図を潰していくような方法で辻を探すところが、もう大感動でした。
でも浮世さんらしい気がしますよね、テクノロジーなどに頼らずっていう。浮世さんにとっては確実だと思うやり方があれだったんでしょうね。
―浮世や『僕たちは〜』の寧々に共通するところ、自分に近いと思われるようなところはありますか?
浮世さんほどではないにせよ、やっぱりどこか相手の期待に応えたいという気持ちは私にもあります。相手が求めることを求められるがままにといいますか、それが行くところまで行ってしまったのが浮世さんですよね。たぶん、そうすることでしか自分の居場所をつくれなかった女性なのかなっていう印象があります。
取材・文:遠藤京子
撮影:川野結李歌
衣装協力:タンクトップ、ジャケット、パンツ ROSE BUD/シューズ mamian/ブレスレット、リング JUPITER (共にDearium 渋谷スクランブルスクエア)
『ライオンのおやつ』はNHK BSプレミアムで2021年6月27日(日)よる10時より放送中