時代を超えてインパクトを放ち続ける名作
1980年代、“第二次ベトナム戦争映画ブーム”があった。代表作はアカデミー作品賞受賞の『プラトーン』(1986年)。戦争で兵士たちが受けた傷だけでなく、与えた傷も含めて丸ごと“戦場の現実”を描こうとした作品が多かった。
ブライアン・デ・パルマの『カジュアリティーズ』(1989年)、戦闘描写に特化したとも言える『ハンバーガー・ヒル』(1987年)。『グッドモーニング・ベトナム』(1987年)も話題になった。そしてスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(1987年)も忘れられない一本だ。
いや忘れられないというより、時代を超えて最もインパクトを保ち続けているのが『フルメタル・ジャケット』だろう。新兵たちが次々と丸坊主にされていくオープニングから、新兵訓練、ジャングルではなく市街地での戦闘、そして意外な曲でたたみかけるラストとエンドクレジット。
歴史に残るハートマン軍曹の強烈なキャラクター
キューブリックが描く軍隊と戦場は、テーマ以前の問題として目と耳にガッツリ残る。そこがまさにキューブリック。『2001年宇宙の旅』(1968年)の宇宙船とクラシック音楽にしても、『シャイニング』(1980年)におけるジャック・ニコルソンの笑顔にしてもそうだ。それに『時計じかけのオレンジ』(1971年)でのウルトラ・ヴァイオレンスと「雨に唄えば」である。
『フルメタル・ジャケット』の“音”といえば、やはり新兵を訓練するハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)の罵詈雑言だ。
「おフェラ豚」
「そびえ立つクソ」
「パパの精液がシーツのシミになり、ママの割れ目に残ったカスがお前だ!」
もの凄く怖いんだけれども、字面で見るとなんだか面白い。だからこそのインパクトというか、何年経っても耳にこびりついてるし頭に残る。ハートマン軍曹は「ゾンビといえば(ロメロの)あれ」と同じように「新兵訓練」のイメージを強烈に植えつけた。これまた印象深い訓練歌はゲームのCMにも影響を与えたし、『フルメタル○○』というネーミングの作品はいくつも存在する。
つまり『フルメタル・ジャケット』とハートマン軍曹は、『地獄の黙示録』(1979年:フランシス・フォード・コッポラ監督)のキルゴア中佐と並ぶ、戦争映画から飛び出したカルチャーアイコン。映画ファンなら、必ず一度はその罵詈雑言を浴びておくように。これは命令だ、ウジ虫どもが!
文:橋本宗洋
『フルメタル・ジャケット』
徴兵された若者が鬼軍曹による地獄の特訓で戦闘マシーンとして人間性を失っていく様と、命がけの戦闘を描く。
制作年: | 1987 |
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特集:キューブリック没後20年
CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年3月放送
【放送作品】日本初放送ドキュメンタリー「映画監督:スタンリー・キューブリック」、『時計じかけのオレンジ』、『フルメタル・ジャケット』