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吉永小百合の医療ドラマ『いのちの停車場』 成島出監督が明かす豪華キャスト集結の奇跡と吉永との撮影秘話

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ライター:#SYO
吉永小百合の医療ドラマ『いのちの停車場』 成島出監督が明かす豪華キャスト集結の奇跡と吉永との撮影秘話
『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

吉永小百合が導く“命との向き合い方”

人命について、それぞれの中で“重み”がまるで変わってしまった2020年以降。そんななか、ある1本の映画が公開を迎える。吉永小百合が主演を務める医療ドラマ『いのちの停車場』(2021年5月21日公開)だ。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

救命救急センターの医師・白石咲和子(吉永小百合)はある事件をきっかけに、故郷の金沢へと戻り、在宅医療専門の医師として働き始める。院長の仙川徹(西田敏行)、訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)、咲和子を慕い、追いかけてきた前の職場の青年・野呂聖二(松坂桃李)といった仲間を得て、様々な患者と出会い、在宅医療の現場を経験することで、咲和子は新たな“命との向き合い方”を見つけてゆく――。

尊厳死や安楽死といった重厚なテーマもはらんだ原作を映画化したのは、吉永と『ふしぎな岬の物語』(2014年)でも組んだ成島出(なるしま いずる)監督。本作では、作品のテーマはもちろん、映像面でも新たなチャレンジを行い、骨太さと繊細さが共存する力作を作り上げた。

今回は成島監督に単独インタビューを行い、吉永の魅力や、細かな演出意図について話を伺った。

成島出 監督『いのちの停車場』

「松坂桃李くんと広瀬すずちゃんは、吉永小百合さんが注目していた」

―吉永小百合さん、西田敏行さん、松坂桃李さん、広瀬すずさんの4人の“輪”が素晴らしかったです。どのようにしてこのキャスティングに行きついたのでしょうか。

東映の岡田裕介会長やキャスティングプロデューサーの福岡康裕さん、そして吉永小百合さんと皆で考えました。西田さんには独特の柔らかさがあるから在宅医療の診療所の院長というキャラクターに合うし、吉永さんとも『天国の駅 HEAVEN STATION』(1984年)など昔から共演している。

桃李くんは、『新聞記者』(2019年)をご覧になった吉永さんがすごく評価していて、僕も彼とはずっとやりたかったのでお願いしました。すずちゃんも、吉永さんが注目していて「若い時の自分に近い」と語っていましたね。売れっ子の4人だからスケジュールが合うかが心配だったのですが、奇跡的に合いましたね。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

―キャスティングの面でも、吉永さんは尽力されたのですね。

吉永さん、岡田会長とは『ふしぎな岬の物語』でもみんなで話し合ってやっていきましたし、毎回ズレないんですよね。『ふしぎな岬の物語』は吉永さんと共同企画だったから、原作探しからキャスティングまで二人三脚でした。今回は役者としてどんと構えていただきつつ、その名残があって色々と相談させていただきましたね。脚本の平松恵美子さんも、吉永さんが山田洋次監督の作品でずっと一緒にやっていたことが縁で、参加してくれましたし。

吉永さんは、「いい作品を作りたい。そのために、自分は何ができるか」を突き詰めている人。プロデューサーとはちょっと違う俳優としての目線で、チームとしてベストなものを作るにはどうしたらよいかを常に考えているように思います。そのうえで、“見抜く”力がずば抜けているんですよね。目利きだからこそ、こんなにも長い間生き残ってこられたんだと思いますし。築地の親父さんたちが、マグロの尾を見ただけで値段がわかるような(笑)、プロフェッショナルな目をお持ちなんですよね。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

「吉永小百合さんは、現場に来た時点で役になりきっている」

―映画を観ている間、4人の空気感がとても良いな、癒されるなと思っていました。どのようにして醸し出すに至ったのでしょう。

おべっかではなくて、座長である吉永さんが引っ張っていってくれたと感じています。ああだこうだ言うタイプでは全くないけれど、彼女の背中を桃李くんもすずちゃんも見て、追いかけていたんじゃないかな。高倉健さんが亡くなって、最後のスターじゃないけど、吉永さんが座長としていることで締まる、といったところはあったように思います。

西田さんは、アドリブ大王で有名じゃないですか(笑)。僕は基本的にあまりアドリブをやらない監督だから、撮影前は困ったなと思っていたんだけど(苦笑)、吉永さんがカメラテストの1回目からセリフを完璧に入れてくるもんだから、西田さんもアドリブをする隙がないのは面白かった(笑)。吉永さんは、現場入りした時点で完璧にできているし、なりきっているんです。様々な面で助けられましたね。

―さすが吉永さん、と思わされるエピソードですね。そんななか、成島監督としてはどういったところに注力して、全体的な作品作りを行っていったのでしょうか。

今回の作品は何人かの患者にまつわるエピソードを描くので、オムニバスに近い構造なんですよ。ただ、業界用語でいう「団子の串刺し」(複数のエピソードを意味なく連ねてしまう悪例)になってはいけない。かといって、ひとりの患者を主軸に据えるのも違う。どうやったら良い塩梅で1本の映画として成立するかは、一番気を遣ったところですね。

―登場する患者さんの年代も幅広く、様々な人物が登場するので、非常に観やすかったです。

それらが一つひとつぶつ切りにならないように、どう“うねり”をもたらすかは悩みましたね。そこでひとつ取り入れたのは、音楽の付け方です。萌ちゃん(佐々木みゆ)のシーンで流れた音楽が、そのまま宮嶋さん(柳葉敏郎)のセリフにもかかっている。普段だったら、僕はそういう演出をしないんですよ。でも今回は、「繋ぐ」という意識が強かったので、そういったような仕掛けを色々と組み込みました。

シナリオの構成も、一つのエピソードが終わって次のエピソードに行く、といったものではなく、それぞれが交錯するように作っています。それで映画が力を持てばいいなと思っていました。

成島出 監督『いのちの停車場』

人間関係の深さを描くための、「昭和」というキーワード

―画的な演出でも、様々な要素に一貫性を感じました。例えば、印象的なシーンで切り取られる風景が正方形になりますよね。両脇に柱などがあって、切り取られた正方形の中で人物が佇んだり、動いたりしている。非常に印象に残りました。

ありがとうございます。あれは……趣味です(笑)。画角を変えること自体はあまり好きじゃないから、シネスコ(シネマスコープサイズ)の中でサイズをスイッチしていく感覚ですね。

冒頭だけ画角が広がりますが、あれは「事故現場を映したドライブレコーダー」のイメージで入って、記録映像が現実の映像にスライドするという意図で作っています。そこから始めたのは、「あなたの身にも起こる話です」という要素を強めたかったからです。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

―また、「青」と「赤」の色彩が、全体的に使われていますよね。青は死に向かうイメージ、赤は生に向かうイメージなのかなと思いました。

そういった「死と生」をどう出すかは、今回のテーマのひとつでしたね。カメラマンの相馬大輔と相談しながら作っていきました。日本の映画って、色がないじゃないですか。どうしてもグレーになりがちだし、今回は白衣の話でもあるから、なるべく色を付けようと話しましたね。

BAR STATIONのシーンの天井の色も、普通だったらあんな真っ赤にはしない(笑)。あそこで安らぐかといったら、現実的にはそうならないかと思うけど、今回はあえて色々なところで赤や、青を使っています。ヨーロッパ映画的な色調を意識していましたね。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

―なるほど! ただ一方で、「昭和のにおい」も取り入れようとしたとお聞きしました。

昭和ってどこかノスタルジーで、人間関係の深さがある。人間ドラマとしては、地方都市の金沢でやることでそういった雰囲気が出てくると思いましたし、あとはやはり「寅さん」じゃないけど、疑似家族的な部分ですね。この4人だけじゃなくて、患者さんや様々な人が繋がっていくようにできればなと思いました。

そもそも「在宅医療」というテーマ自体が、人と人のつながりを描くものですからね。病院とは逆で、医師が患者のもとを訪問する。病院で行う治療を「標準治療」というのですが、あるお医者さんに話を聞いたら「在宅医療は応用問題」だと言うんです。それぞれの家族で幸せの定義が違うから、命のしまい方もまるで異なる。延命治療するのか、しないのか、あらゆることに相談に乗ってあげないといけない。それぞれの家庭とのかかわり方が大事になってくるから、ひとつのニュアンスとして「昭和の空気」を大事にしていました。だから、作品に入る前に昭和の映画を結構観直しました。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

―どのような作品をご覧になったのでしょう?

山田洋次監督や、木下恵介監督の作品などですね。『二十四の瞳』(1954年)も改めて観直しました。

「答えがないからこそ、映画で描く必要性がある」

―もう一点お伺いしたかったのは、美術の作り込みの部分です。老老介護で家がゴミ屋敷化してしまっているところなど、リアリティがすさまじかったのですが、制作過程についてぜひ教えてください。

BAR STATIONの部分は虚構性もあるのですが、こちらに関しては徹底してリアリズムを追求しています。美術部がすべてシミュレーションして、上の方にあるゴミと下の方にあるゴミを作り分けて、画面に映らない部分も細かく設定してくれました。

美術でいうと、咲和子の実家は、実際に画家の方が住んでいた家を使わせてもらったんですよ。ロケハンに行って非常に気に入って「撮影に使わせてもらえないか」と相談に行ったら、家主の方が咲和子の父・達郎(田中泯)と同じく画業を志している方だったんです。画面内に映る絵画は全部、家主の方が描いたものを使わせていただきました。

―そうしたリアリティにも通じるかと思いますが、本作で描かれる“命”というテーマは、コロナ禍でより一層痛切に響く気がします。成島監督としては、どのように受け止めていますか?

世界的に、「命って何なんだ?」ということを考えざるを得ない状況になっていますよね。戦争で亡くなった以上の命が失われているわけですから。同時に、「会えない」という問題もあります。遺骨で帰ってくるといった状況もあって……。そういったなかで、「死と向き合う」という内容も含んだこの映画をどう描けばいいのかは、吉永さんや岡田会長、プロデューサー含めてとにかく話し合いました。

本作は、最終的に非常に重いテーマを扱っています。最愛の人がそういった状況に陥ったときに、何を選択するのか……。国や個人でもそれぞれ考え方が違うし、正解も答えもない問題でもある。しかし、だからこそ映画で描かなければと強く思っています。

『いのちの停車場』©2021「いのちの停車場」製作委員会

取材・文:SYO

『いのちの停車場』は2021年5月21日(金)より公開

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『いのちの停車場』

東京の救命救急センターで働いていた、医師・白石咲和子(吉永小百合)は、ある事件の責任をとって退職し、実家の金沢に帰郷する。これまでひたむきに仕事に取り組んできた咲和子にとっては人生の分岐点。久々に再会した父(田中泯)と暮らし、触れあいながら「まほろば診療所」で在宅医として再出発をする。

「まほろば」で出会った院長の仙川徹(西田敏行)はいつも陽気な人柄で患者たちから慕われており、訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)は、亡くなった姉の子を育てながら、自分を救ってくれた仙川の元下で働いている。ふたりは、近隣に住むたった5名の患者を中心に、患者の生き方を尊重する治療を行っており、これまで「命を救う」現場で戦ってきた咲和子は考え方の違いに困惑する。そこへ東京から咲和子を追いかけてきた医大卒業生の野呂聖二(松坂桃李)も加わり「まほろば」のメンバーに。野呂は医師になるか悩んでおり、そして麻世もまた、あるトラウマに苦しんでいた。

様々な事情から在宅医療を選択し、治療が困難な患者たちと出会っていく中で、咲和子は「まほろば」の一員として、その人らしい生き方を、患者やその家族とともに考えるようになってゆく。野呂や麻世も「まほろば」を通じて自分の夢や希望を見つけ、歩みはじめた。

生きる力を照らし出す「まほろば」で自分の居場所を見つけた咲和子。その時、父が病に倒れ……。父はどうすることもできない痛みに苦しみ、あることを咲和子に頼もうとしていた―。

制作年: 2021
監督:
出演: