ヒット作連発の売れっ子プロデューサー降臨!
いまハリウッドで最も勢いのあるプロデューサーは誰か? その質問に多くの映画関係者、映画ファンは、こう答えるだろう。「ジェイソン・ブラムだ」と。2000年、ブラムハウス・プロダクションズを設立した彼は、怪奇現象をドキュメンタリー風の映像で描いた『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)の大成功をきっかけに、次々とヒット作、話題作を提供。おもにホラーやスリラーを中心に、基本的に低予算で製作した作品でハリウッドを席巻している。
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デイミアン・チャゼル監督の『セッション』(2014年)、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(2018年)と、プロデュース作品で3度のアカデミー賞作品賞ノミネートを達成。キャリアが低迷しかけていたM・ナイト・シャマランを『ヴィジット』(2015年)で大復活させるなど、その手腕は誰もが認めるところだ。
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「他のハリウッドのスタジオより、監督に与えるアドバイスの量は多い」
ジェイソン・ブラムの送り出す作品は、どれも独創的な魅力で観客を惹きつける。2021年4月9日(金)より公開される新作『ザ・スイッチ』も、女子高生と凶悪な殺人鬼の肉体が入れ替わってしまうという、これまた予想不能のセンセーショナルな展開。プロデューサーとして、製作の決め手を次のようにブラムは語る。
ブラムハウスでの映画化のポイントは、まず何よりオリジナリティ。次にホラーなら、とても怖いこと。そして製作費を安く抑えられるかどうか。それらをクリアしたうえで、僕か、会社の他の重役が心から気に入ればゴーサインを出すことにしている。『ザ・スイッチ』の場合は、企画を読んだ時点でホームランの作品になると確信した。脚本を書き、監督を務めるのが、これまで6回も仕事をしたクリス(クリストファー・ランドン)だったので、信頼感も大きかった。彼はホラーとコメディを融合させる最高の才能をもっているからね。
そのクリストファー・ランドンも語っているように、ブラムハウスは一度ゴーサインを出したら、すべて監督に任せ、余計な口出しをしないというのがポリシーのようだが……。
それはちょっと違うね。クリスの場合は、何度も仕事をしているので、そう感じているのだろう。僕らはクリエイティブ面に関して、作り手にいっぱいアイデアを与えている。ただし、そのアイデアをどこまで活用するかを監督に任せているんだ。10のアイデアを聞いて、半分採用する監督もいれば、ほとんど使わない人もいる。今回の『ザ・スイッチ』でもクリスに追加のシーンを提案したけど、彼は撮らなかった。それでいいのさ。そういう環境だから、逆に作り手の側が僕らに気軽にアイデアを求めてくるようになった。その結果、他のハリウッドのスタジオより、与えるアドバイスの量は多い気がするな。
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監督とのこうした関係性を築く理由は、ジェイソン・ブラムがかつて部下として働いていた、あの大物プロデューサーの影響によるものだという。それはミラマックスのハーヴェイ・ワインスタイン。アカデミー賞に絡む作品を多く手がけつつ、近年は#MeToo運動の標的となった悪名高きプロデューサーだ。
ワインスタインは、いちいち女優の衣装の色にも文句をつけたり、膨大な無駄な時間を使って、作品をすべて自分でコントロールしようとしていた。その姿を現場で見ながら、いつか僕が幸運にも自分の製作会社を設立できたら、これとは逆のやり方をしようと心に決めていたのさ。
「期待どおりに仕上がった。すでに続編を作りたい気分」
おそらく多忙であろう日常を尋ねると、「だいたい週に25〜50本くらいの企画をチェックする。その中から年間で映画なら約10本、テレビドラマは合計で100時間分くらいを目処に、製作に移すことにしている。たしかに忙しいけど、しっかり休みも取るよ。2020年は東京オリンピックに行くためにスケジュールを空けたくらいだ。ホテルはもちろん、寿司屋まで予約済みだったので残念だよ」と、笑いながら告白するジェイソン・ブラム。
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そのブラムがホームランを予想した『ザ・スイッチ』。完成した作品について「期待以上というより、むしろ期待どおりに仕上がった。その意味で大満足。すでに続編を作りたい気分だ」と語るように、『ザ・スイッチ』は「ドキドキするけど楽しい」という、エンタメの基本を押さえた快作になっている。
肉体が入れ替わるという、いわゆる“ボディスワップ”映画は、これまでも『フリーキー・フライデー』(1976年)、『フェイス/オフ』(1997年)、日本映画でも『転校生』(1982年)、『君の名は。』(2016年)など多数作られてきたが、その中でも『ザ・スイッチ』のインパクトが強いのは、殺人鬼の中年男と女子高生という、ジェンダーも含めて何から何まで真逆のキャラが入れ替わるから。
入れ替わりに気づくサプライズから、相手の肉体に慣れるプロセス、さらに慣れてからの暴走っぷりまでが、いちいち痛快なのだ。基本はコミカルな設定のためか、その分、バイオレンス描写は強烈を極める。このコントラストが効果的で、ジェットコースターのような作品のノリを加速させていく。しかも犠牲となる人物が、かなり腹黒い言動を繰り返しているので、因果応報という妙なスッキリ感も味わえてしまうのだ。
そしてボディスワップ、殺人といった極端な要素が詰まったわりに、全体的には青春ムービーという印象も強いのが、『ザ・スイッチ』の特徴。主人公の女子高生ミリーは、学内でのヒエラルキーを実感しながらも、親友2人(そこにゲイ男子が1人いるのも絶妙)との日常シークエンスはとことん楽しく、思わず共感を誘う作り。ミリーが母子家庭という設定が、思わぬシーンで感動を誘いそうになったりも……。母とミリー、姉の3人家族が女子パワーを結託させる展開も、今どきの映画らしい。
いずれにしても観た後に、他の映画とは一味違う、清々しさや爽快感が味わえてしまうのは確実。そのあたりが、プロデューサーのジェイソン・ブラムが太鼓判を押す『ザ・スイッチ』の独創性なのかも!
取材・文:斉藤博昭
『ザ・スイッチ』は2021年4月9日(金)より全国公開
『ザ・スイッチ』
ミリーは、片思い中の同級生にも認識されない地味な高校生。親友たちと普通の学校生活を送っていたが、ある13日の金曜日、連続殺人鬼“ブッチャー”に襲われ謎の短剣で刺されてしまう。
間一髪、命は取り留めたミリーだが、次の朝目覚めるとミリーとブッチャーの身体が入れ替わっていた。
女子高生姿のブッチャーが虐殺計画を進めるなか、中年男姿のミリーは24時間以内に身体を取り戻さないと一生元の姿に戻れないことを知り……。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年4月9日(金)より全国公開