コロナ禍以降、海外の映画、特にハリウッド作品を見る機会が極端に少なくなった。それを補っているのがNetflixやディズニープラスなどの配信サービスだが、今回はその中でも、過去にBANGER!!!で紹介した『2分の1の魔法』や『ウルフウォーカー』、『ソウルフル・ワールド』(すべて2020年)に次ぐ第93回アカデミー賞長編アニメーション部門ノミネート有力候補、『ウィロビー家の子どもたち』を紹介したい。
Netflixオリジナル作品、つまり独占配信ということもあって知名度は低いかもしれないが、ピリっと皮肉の効いたブラックな笑いは大人が楽しめるハイレベルなもので、予測のつかないストーリー展開に、一気に最後まで持って行かれてしまう作品だ。
「ウィロビー家」の子どもたち
高層ビルが建ち並ぶ大都会の一角にある古色蒼然たる大邸宅こそが、先祖代々続くウィロビー家。当代のウィロビー夫妻は深く愛し合っているものの、4人の子ども―長男のティム、長女のジェーン、双子のバーナビー(AとBと呼ばれている)―に全く頓着しないどころか、時には虐待としか思えない時も。名門の家に生まれながらも不遇としか言えない子どもたちのもとに、ある日、門の前に置き去りにされた赤ん坊がやってくる。
もちろん、子どもが大嫌いな両親は即座に捨てるように言うが、それに反抗するジェーンは兄弟を引き連れ、赤ん坊と共に外に飛び出す。さまよう彼らが虹の根元を目指して歩き続けると、たどり着いたのはキャンディ工場。ティムはそこに赤ん坊を捨ててさっさと帰ろうとするものの、立派な将軍服の工場長(メラノフ)の立派な口髭を見て(“髭”が持つ意味に注意)、理想の家長、両親であると感じる。そして、家に戻ったティムはある恐ろしい計画を思いつく。それは、両親に二度と戻れない危険な旅行を勧めることだった……。
「めでたし、めでたし」で終わるファミリームービーではない
映画の冒頭で「めでたし、めでたし で終わるようなファミリームービーをお望みなら、お勧めできない」という捻ったナレーションが入る。確かに、見かけはコメディタッチの“カートゥーン”ではあるものの、そのストーリーは決して子ども向けではない。
原作はアメリカの女流作家ロイス・ローリー(1937年~)が2008年に著した大人の童話とも言うべき「The Willoughbys」(原題:日本未翻訳)という小説だが、現代社会の親子関係を風刺に富んだ眼で示唆している。特に最後の強烈なオチには、親と子の関係をしっかり考えさせられるものがある。繰り返しの視聴に耐えうる作品なので、時間があれば英語版と日本語字幕、吹き替え版と英語字幕など複数パターンで見てみてはどうか。
製作はあの『ジョーカー』のブロン・スタジオ
『ウィロビー家の子どもたち』を監督したのはクリス・パーン。カナダで生まれた彼はFOXアニメーションで働いた後、カナダに戻りテレビの仕事をしていた。その後、2003年にソニー・アニメーションから声がかかり、L.A.で仕事を再開、2013年に『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』で監督デビューしたが、『ウィロビー家の子どもたち』のために再びカナダに戻ることになる。なぜカナダかというと、この作品を製作したのがバンクーバーにあるブロン・スタジオだったからだ。
このブロン・スタジオ、日本では全くの無名だが、実は躍進著しい映画スタジオである。映画ファンなら、デンゼル・ワシントンの『フェンス』(2016年)やクリント・イーストウッドの『運び屋』(2018年)、ヒュー・ジャックマンの『フロントランナー』(2018年)、シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー競演の『スキャンダル』(2019年)、リブート版『チャイルド・プレイ』(2019年)などの制作会社と言えば思い当たるだろう。
しかし、何と言ってもハリウッドにブロン・スタジオの名前を知らしめたのは、第92回アカデミー賞で11部門にノミネートされ4部門を制覇した『ジョーカー』(2019年)だ。この作品で一気に有名になったブロン・スタジオは、2021年公開予定のアレサ・フランクリンの伝記映画『リスペクト(原題)』や『ゴーストバスターズ/アフターライフ』、2022年以降に『ロボコップ』の再リブートを制作することになっている。
ブロン・アニメーションの可能性
ブロン・スタジオは、ハリウッドで注目されているインデペンデント系スタジオ<A24>(『エクス・マキナ』[2015年]、『ムーンライト』[2016年:アカデミー賞作品賞ほか]、『レディ・バード』[2017年]、『ラスト・ムービースター』[2017年]、『ミッドサマー』[2019年]など)に近いものがあるかも知れない。ただ、両社の大きな違いはアニメーションだ。
ブロンは『Mighty Mighty Monsters in New Fears Eve』シリーズ(原題:2013年~)、『Henchmen』(原題:2018年)といった日本未公開作品のあとに、アニメ版『アダムス・ファミリー』(2019年)を制作、そして今回の『ウィロビー家の子どもたち』となるのだが、それほどアニメーションの実績がないのにもかかわらず、『ウィロビー~』は第48回アニー賞で作品賞にノミネートされ、第93回アカデミー賞でもノミネート有力候補となっているのは、作品のテーマ選びのセンスがあるからだろう。
第93回アカデミー賞長編アニメーション賞の行方
2021年の第93回アカデミー賞ノミネート作品は3月15日に発表されるが、有力候補となっているのはピクサー制作の『ソウルフル・ワールド』と『2分の1の魔法』(配給:ディズニー)、ディズニーの大黒柱アニメーターだったグレン・キーンが監督した『フェイフェイと月の冒険』(2020年:Netflix)、韓国製の『白雪姫の赤い靴と7人のこびと』(2019年:ライオンズ・ゲート)、ハンナ・バーベラ・プロダクション作品のリメイク『弱虫スクービーの大冒険』(2020年:ワーナー)、アードマン・アニメーションズの『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』(2019年:北米未公開)、劇場版『スポンジ・ボブ:スポンジ・オン・ザ・ラン』(2020年:パラマウント)、ドリームワークスの『トロールズ ミュージック★パワー』と『ザ・クルーズ:ア・ニュー・エイジ(原題)』(2020年:ユニバーサル)、アイルランドのカートゥーン・サルーンの『ウルフウォーカー』(Apple Inc./GKIDS)、そしてこの『ウィロビー家の子どもたち』が有力とみられている。
その中で、『ソウルフル・ワールド』と『2分の1の魔法』、『フェイフェイと月の冒険』、『ウルフウォーカー』のノミネートはほぼ確実視されており、残りの一枠を『トロールズ ミュージック★パワー』『ザ・クルーズ:ア・ニュー・エイジ』、そして『ウィロビー家の子どもたち』が争そっている状況。ドリームワークスは認知度が高く有利と見られているが、もし『ウィロビー家の子どもたち』がノミネートされれば快挙であり、ブロン・アニメーションがディズニー、ピクサー、イルミネーション、ドリームワークスに次ぐ第5の極になる可能性が生まれる(もちろん、ジョン・ラセターがCEOに就任したスカイダンス・プロダクションもだが)。
ちなみに、日本からも『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)、『ルパン三世 THE FIRST』(2019年)、『アーヤと魔女』(2020年)、『音楽』(2019年)『きみと、波にのれたら』(2019年)、『泣きたい私は猫をかぶる』(2020年)の6本が候補となっているが、実際にノミネートされるのはかなり難しいだろう。強いて可能性があるとしたら『アーヤと魔女』だろうか。日本人の期待を一身に担っている『鬼滅』については、途中からはじまり、途中で終わっているシリーズ作品を何の予備知識を持たない外国人が理解するのは至難の業。日本作品のアカデミー賞ノミネートは、細田守監督の新作『竜とそばかすの姫』(2021年夏公開予定)まで待つことになりそうだ。
文:増田弘道
『ウィロビー家の子どもたち』はNetflixで独占配信中
『ウィロビー家の子どもたち』
愛してくれない身勝手な両親なんてこっちから願い下げ。人生から親を消し去り自分たちだけで生きていくために、兄妹4人が力を合わせてある計画を実行するが……。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
声の出演: | |
吹替: |