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三月のパンタシア・みあ、“叶えられない恋”に憧れる?「人とAIの友情や恋愛、そこで生まれる葛藤を描いてみたい」

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ライター:#加賀谷 健
三月のパンタシア・みあ、“叶えられない恋”に憧れる?「人とAIの友情や恋愛、そこで生まれる葛藤を描いてみたい」
三月のパンタシア みあ

Amazon Audibleオリジナルスクリプト作品『アレク氏2120』(監督:堤幸彦)の企画・プロデューサー白井太郎をホストに、各界から招いたクリエイターとともに映像表現や新しいオーディオ作品のあり方について考えていく本対談企画。第二弾となる今回は、現在配信中のオーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートよりも甘い』の原作を手がけた人気音楽ユニット「三月のパンタシア」みあとの対談インタビューを前後編でお届けする。

<▼前編を読む>

三月のパンタシア

『ミステリリカルな手紙はチョコレートより甘い』

―みあさんの一連の小説的な世界、言葉を使う仕事としての楽曲がある一方で、白井さんが製作されているオーディオ作品での言葉と音の関係はまた違うものになってくると思うのですが、いかがでしょうか。

白井太郎(以下、白井):まず、みあさん原作のオーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートより甘い』(以下『ミスリリ』)、とても楽しく拝聴させていただきました。物語を紡いでいく時、その一言を言わせたいけど、台詞をリリカルにすると立ちすぎてしまう怖さがあって、その点『ミスリリ』は素晴らしかったです。一言一言がリリカルで台詞として刺さるものになっているにもかかわらず、浮かずに、自然にスッと耳に入ってくる。それから「行間」の使い方の巧さですね。

小説で言うと行間の部分って、読んでいる人それぞれのテンポで感じられますよね。自分の気持ちの良いテンポで。でも、音の物語の行間や空白、つまり「無音」の箇所は、作り手側の感覚でしか決められないんです。当たり前のことなのですが。

『ミスリリ』は、そこが素晴らしかった。やはりアーティストとして音と言葉の感覚がとても研ぎ澄まされているからなのでしょう。無音が本当に気持ち良いというか、ここで来て欲しい、ここは止まって欲しいみたいな、痛くて気持ちの良い“ツボ”をずっと押されているような感覚で拝聴しました。

三月のパンタシア・みあ(以下、みあ):実際、無音にはかなり拘っています。編集にも立ち会わせてもらいました。実は、アフレコは4人の登場人物を別撮りしています。声優さんは皆さんプロなので、別々に録っても“受け”のお芝居をうまく表現されるんですが、会話と会話のちょっとした間については、自分でもしつこいかなと思うくらい編集で細かく調節していただいて。かなりこだわった部分でもあるので、気づいていただけて嬉しいです(笑)。

白井:オーディオファーストの作品では、やはり大切なポイントですよね。

みあ:小説から脚本に起こす作業は脚本家の方にやっていただきましたが、映画やアニメと違って画がないので、どうしても説明をしなければいけないところはあります。でも『アレク氏2120』を聴いていて、よくこんなに複雑な物語をうまく説明を省きながら展開されているなと感心して聴いていました。それがないと成立しないような説明台詞を、声優さんがお芝居で巧みに表現されていたと思います。オーディオ作品は耳だけでリスナーに想像してもらう豊かさがある一方で、作り手としてはどうしたら画が見えやすくなるのか、今回チャレンジして最も難しかったところです。

白井:私も声優さんの表現力には本当に感動しました。日本の声優さんたちは、日本がこれから世界のコンテンツと戦っていく中で、本当に大事な方々なんだなと痛感しました。

みあ:本当は言いたいのに上手く言葉にできない、その感覚を三月のパンタシアのテーマ性として表現しようとすると、台詞に「……」が頻出してしまうんです。今回のオーディオドラマの脚本にも多くありました。この「……」をオーディオ作品でやると表情も見えないし、画もありませんから、どうやって表現するんだろう? と思いながら、ラブレターを渡す気持ちで声優のみなさんに委ねたんです。アフレコ現場に立ち会うのは今回が初めてでしたが、声優さん方が細かい息づかいや“間”で「……」の部分も見事に表現されていて、どんな特殊な訓練を積んだらこんなことができるんだろう! と思いました。

白井:それにしても『ミスリリ』は、声優さんも豪華ですよね。(※雨宮天、村瀬歩、島﨑信長、伊藤彩沙)

みあ:そうですね。私の希望で、みなさんにお受けいただけました。

白井:Podcastは、アニメと違ってご自身の声だけが主人公になるので興味を持っていただける部分もあると思います。自分の声“だけ”がキャラクターに命を吹き込んでいくプロセスが魅力的なのかもしれません。

―白井さんの製作された『アレク氏2120』は、コンセプトとしては「聴く映画」作品でしたが、みあさんにとってのオーディオ作品はどのようなものでしょうか?

みあ:このコロナ禍では、NetflixやAmazon Prime Videoなどの“見る”コンテンツが人気ですよね。今回、初めて“聴く物語”としてコンテンツを発信した時に、登場人物が4人いて、その4人を実写で想像する方もいたと思います。そこで自分の好きな俳優さんの顔を思い浮かべたり、アニメーションだったり。でも、それぞれが好きなカタチで物語を空想できることに、このコンテンツの豊かさがあると思いました。自分の内側だけで物語が膨らんでいくという、オーディオ特有の感覚。これからは耳で聴く時代が来ると勝手に思っています。

―それは白井さんもやはり同様にお考えでしょうか?

白井:そうですね、その時代が来るように努力したいです。『アレク氏2120』や『ミスリリ』が、より多くのオーディエンスの元に届き、そして聴く物語の文化がもっともっと広がっていって欲しいですね。

三月のパンタシア みあ

「人とAIの友情や恋愛、そこで生まれる葛藤を書いてみたい」

―『ミスリリ』は、みあさんにとってオーディオドラマという新しい表現の試みとなったかと思いますが、また作ってみたいとは思いますか?

みあ:AIがパートナーとなって事件を解決する『アレク氏2120』の世界は、全人類の夢だと思うんです。AIが登場する物語は面白いなと思っていて。そこで思い浮かんだのは、AIが当たり前にある世界で、仕事のパートナーになり、証券を取引します。音楽業界では「そのフレーズは前の曲でも使っていましたよ」といったアドバイスをしてくれるAIと一緒に作業をしていく中で、プライベートな話もしていき、インプットされていない会話もできるようになり……。

『アレク氏2120』

私は、人とAIの友情や恋愛を書いてみたいんです。AIと普通に会話もできて、“好き”という恋愛感情を抱いたとしても、絶対に叶わないじゃないですか。AIに恋をするという点に、どれだけ説得力を持たせられるかが肝になると思いますが、何かそういった“葛藤”を描いてみたいです(笑)。

白井:AIとの恋愛だと『her/世界でひとつの彼女』(2013年)というスパイク・ジョーンズ監督の映画がありましたね。

みあ:あの映画はスカーレット・ヨハンソンがAIの声を演じていますから、それだけでもう本当に魅力的な女性だなと、声だけで感じられますよね。私の個人的な嗜好としても“叶わない恋”というテーマがあります。

白井:それを嗜好と言えるのはすごいですね。僕にとっては苦痛です(笑)。

みあ:叶わないというより、叶えられない、でしょうか。ともすれば、ほんとうは出逢い方さえ違えば結ばれていたかもしれないのに、運命のせいで結ばれない、その切なさにものすごくエモーションを感じるんです。そういう恋愛ものをオーディオドラマでやってみたいです(笑)。

白井:とても良いと思います。私は10代の、それこそ“17歳”真っ最中の方々の心に届く物語が作りたいです。文化として何かがバズるときも、やはりその層からですしね。

みあ:おそらく私が書くものは、プロットだけ読むと面白くないかもしれません(笑)。日常的な話だったり、誰もが経験する青春時代の恋愛ばかりテーマにしているので。でもその中で、どれだけ“今の時代の感覚”を自分らしい文体で書けるか、ということもひとつテーマにしています。

三月のパンタシア みあ

白井:企画というものは、「二行で書いても面白さが伝わるけれど、もっと掘り下げたら色々な奥行きが出てくるよね」というものが理想だと思っています。とはいっても、それって難しいですよね。僕も伝わらないことが怖くて、企画書に長々と説明を書いてしまいます。やはり恋愛や青春を新しい視点で、音だから描けるものとして、企画のギミックを考えてみたいのですが。

みあ:『ミスリリ』ではリスナー参加型にして、各話ごとに提示される謎を解かないとメッセージが伝わらない形式にしたりと、様々な工夫をしています。確かに、どうしたらリスナーの興味を惹いて物語に入り込んでもらえるかな? と考えていますね。難しいところですが、ぜひまたオーディオドラマをやってみたいと思っています。

白井:例えば、文章は国語の授業などで書かされるので誰もが執筆過程を経験したことがあると思いますが、音楽の場合は脳内を具像化するなどしないかぎり、僕のような素人には制作過程は全くわかりませんよね。コンポーザーの頭の中で、どうやってメロディーが生まれているのか? それは映像では描きづらいものですが、オーディオならば描ける気がします。そうしたらキャッチーなログラインも作れるし、中身も掘り下げていけるし、アーティストにもご参加いただける。そして、そこに10代の恋愛や青春を掛け合わせたり……。

みあ:私自身はそこまで精緻に描けないのですが、コンポーザーの皆さんと話していると、最初に音が鳴る人もいるし、映像が鮮やかに浮かぶ人もいたりと様々ですね。頭の中の世界を“音だけ”で表現するというのは、今パッと想像してみても面白いなと思います。

白井:なるほど、メロディが生まれる瞬間を具現化できたら面白くなる気がしますね。脳内でメロディーがどんなきっかけで生まれるのか、聴いてみたいんです。

みあ:それが“途切れる”こともあると思いますしね。

白井:何かの雑音がメロディーに聴こえる瞬間があるのか、それとも理詰めと感覚で生まれてくるものなのか、そうした様々なものが合致して楽曲が生まれたり……。

みあ:確かに、それがL/Rで鳴っていると、日常と頭の中の世界がミックスされて面白そうです。

「“夏の終わり”が好きです、切なくて」

白井:そういったギミックに、「バクマン。」のような楽曲を作る才能と歌詞を作る才能を別にしてしまい、恋愛を裏テーマで入れたりもできますね。何か新しい形のものを、みあさんと作ってみたいですね。

―この対談の意義は、このようにしてPodcastプロデューサーの白井さんとアーティストの方が新しいオーディオのあり方を考えていき、新しい作品を生み出していくような側面もあります。

白井:せっかくなら、三月に何かご一緒にオーディオ作品を製作したかったです(笑)。三月の次に好きな季節はありますか?

みあ:夏です。夏の終わりが好きです、切なくて。

白井:カーディガンを羽織り始めるか悩む季節ですよね。僕も好きです。二学期って行事もたくさんありますし。好きな学校行事はなんでしたか?

みあ:後夜祭です。私の高校時代には、優勝したら告白するというならわしがありました。色んなところから物語が生まれやすいですよね。

白井:後夜祭、いいですね。色んな事件が起こりそうです。何かアイデアを考えていきましょうか(笑)。

みあ:みあにできることがあれば、ぜひ(笑)。

三月のパンタシア みあ × 白井太郎

<前編を読む>

取材・文:加賀谷健
撮影:本永創太

オーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートより甘い』配信中
主題歌「君をもっと知りたくない」は2021年3月10日(水)00:00から各配信サイトにて配信スタート

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オーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートより甘い』

“聴く謎解き”ד青春群像劇”をテーマに制作された今作は、三月のパンタシアのボーカルみあが書き下ろす原作を元に、松丸亮吾氏が代表を務める謎解きクリエイター集団「RIDDLER」監修の謎解き要素を組み合わせたリスナー参加型のオーディオドラマ。

恋人にフラれ傷心の大学生・カナを元気付けるため、同じシェアハウスに暮らすタイヨウ、にゃーちゃん、アキの3人はホームパーティを開催する。最近このシェアハウスで流行っている「謎解き」などに興じながら楽しい時間を過ごしたカナだが、慣れないお酒を飲み過ぎてしまい翌朝自室のベッドで目を覚ます。怠い身体を起こすと足元にはらりと舞い落ちる封筒。不可解に思いながらも①と書かれたその封筒を開くと、写真が一枚。もう一度あたりを見回すと数字だけ書かれた同じような封筒があと二通。

「封筒、解けたら一通ずつ開けてください」

封筒の中の写真は、どうやら謎解きのようだ。いったい何のメッセージ? 誰が置いた? なんで謎解き? 戸惑いながらもカナは謎を解き始め……

「謎」が示すその先へ――4人の学生たちの想いと、彼女たちを繋ぐ、甘酸っぱい青春の結末は果たして。

制作年: 2021
脚本:
声の出演: