R18指定間違いなし!? アニメ『チェンソーマン』
ヤバいマンガがアニメ化される。少年ジャンプ史上もっとも闇が深いと言われるダーケスト(Darkest)なファンタジー作品、『チェンソーマン』である。不条理でミゼラブル(悲惨)としか言いようがない主人公デンジを取り巻く魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界に凄惨なスプラッター要素が加わったこの作品は、まさにダーケスト。しかも、その『チェンソーマン』がアニメ化されるというのだ。地雷だらけの原作を忠実に表現すれば、R18+(18禁)間違いなし。果たしてアニメ化は可能なのか? 未だに半信半疑であるが、こんな物騒な作品を一体誰がアニメ化しようと思ったのだろう。
ジャンプの黄金律に当てはまらない『チェンソーマン』
ジャンプのダーク・ファンタジーと言われて、思い浮かぶのは『鬼滅の刃』『約束のネバーランド』『呪術廻戦』だが、それらの作品と『チェンソーマン』が決定的に違うのは“ジャンプ黄金律”、つまり「友情・努力・勝利」があるかないか。
『鬼滅~』から『呪術~』までは見方によっても違うだろうが、目標に向かって共に闘う仲間という黄金律が感じられるものの、『チェンソーマン』にはそれが見えない。というか「友情・努力・勝利」とは真逆のストーリーが展開されるのだ。一言で言えば「救い」がない。それがジャンプ史上もっともダーケストなファンタジーと言われる理由であろう。
「進撃の巨人」が押し開けた不条理ダーク・ファンタジーのトビラ
最近、ダーク・ファンタジーがひとつの領域になりつつある。少年ジャンプ(とその系列雑誌)はもともとその系統の作品が少なく、1974年に諸星大二郎の「妖怪ハンター」が連載を開始して以来2010年代まで、目に付く人気を得たのは「北斗の拳」(1983年)、「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」(1988年)、「GANTZ」(2000年)、「D.Gray−man(ディーグレイマン)」(2004年)「魔人探偵脳噛ネウロ」(2005年)程度だが、それが2010年代になって増えはじめるのは明らかに「進撃の巨人」(2009年)の影響であろう。突然出現した巨人によって理不尽な世界へ追いやられる人間を描いたこの作品は、不条理なダーク・ファンタジーへのトビラを開いたのである。
ひとつの領域になったダーク・ファンタジー
「進撃の巨人」以降、堰を切ったようにダーク・ファンタジー・マンガが描かれ、アニメ化された。制作の主要作品は以下の通りであるが、やはり時代を捉えるのが上手いジャンプ系の作品が圧倒している。
「アカメが斬る!」(「月刊ガンガンJOKER」2010年~)
「東京喰種」(「ヤングジャンプ」2011年~)
「終わりのセラフ」(「ジャンプスクエア」2012年~)
「亜人」(「good!アフタヌーン」2012年~)
「いぬやしき」(「イブニング」2014年~)
「かつて神だった獣たちへ」(「別冊少年マガジン」2014年~)
「鬼滅の刃」(「少年ジャンプ」2016年~)
「約束のネバーランド」(「少年ジャンプ」2016年~)
「アンデッドアンラック」(「少年ジャンプ」2019年~)
「呪術廻戦」(「少年ジャンプ」2018年~)
「地獄楽」(「少年ジャンプ+」2018年~)
「チェンソーマン」(「少年ジャンプ」2019年~)
「ぼくらの血盟」(「少年ジャンプ」2020年~)
このラインナップを見て感じるのは、表現がどんどん過激になっているということだ。昔から「鬼」の出現は、例えば新型コロナウイルスのような理不尽としか言いようのない疫病によって引き起こされる、社会的不安が大きな要因であるとされている。その意味で、過激度が増すダーク・ファンタジー表現の裏にあるのは、見通しがつかない未来社会に対する不安であるのかもしれない。
大人気ダーク・ファンタジーをアニメ化するのは<MAPPA>
『チェンソーマン』のアニメ化における大きな見所は、担当スタジオが<MAPPA>ということだ。設立から10年も経っていないため一般的な知名度はそれほどではないが、『鬼滅~』の<Ufotable>と並んで今、一番勢いを感じるこのスタジオが手掛けた作品は、『残響のテロル』(2014年)であり、『神撃のバハムート GENESIS』(2014年)、『うしおととら』(2015年)、『賭ケグルイ』(2017年)、『いぬやしき』(2017年)、『ゾンビランドサガ』(2018年)、『どろろ』(2019年)であると聞けば、なるほどと思うであろう。
さらに、『チェンソーマン』原作者の藤本タツキがアニメ化に際し、「『ドロヘドロ』と『呪術廻戦』のパクりみたいな『チェンソーマン』を、『ドロヘドロ』と『呪術廻戦』のアニメ制作会社がやってくれるんですか!?」と言っているように、このダーク・ファンタジーには最適のスタジオであることが分かる(ダメ押しのようなものだが、2020年12月から『進撃の巨人 The Final Season』の制作を前任の<WIT STUDIO>から引き継いでいる)。
MAPPAの名を一躍高めた『この世界の片隅に』、そして『ユーリ!!! on ICE』
しかし、MAPPAというスタジオはダーク・ファンタジーばかり手掛けているわけではない。MAPPAのデビュー作は2012年の深夜アニメのゴールデン枠「ノイタミナ」で放映された『坂道のアポロン』。1960年代に音楽に魅せられた青春群像をみずみずしく描いた名作であるが、スタッフには監督に渡辺信一郎、キャラクターデザインに結城信輝、音楽に菅野よう子という日本のアニメ界の至宝が参加している。
そして、MAPPAのこの名作路線の最高峰が2016年の『この世界の片隅に』なのである。日本のみならず世界中の映画祭で圧倒的な支持を受けたこの作品は『火垂るの墓』(1988年)と並ぶ不朽の名作となった。さらに、同じ年に放映された『ユーリ!!! on ICE』によってスタジオとしてのMAPPAの評価は決定的になり、それ以降、次々と野心的な作品を放つようになったのである。
MAPPA躍進の秘密と『チェンソーマン』
先ほど10年足らずの歴史と述べたMAPPAであるが、実は創立者の丸山正雄は55年のキャリアを誇るアニメ業界の大ベテランなのだ。宮崎駿、富野由悠季、りんたろう、芝山努などと同じ1941年生まれの丸山は、手塚治虫の<虫プロダクション>から1972年に独立、永らく<マッドハウス>の代表を務め、2011年に満を持してMAPPAを設立した。
その丸山のプロデュース力はアニメ業界No.1と誰しもが認めるところであるが、ずば抜けているのは人材の才能を見抜き、起用する力であろう。彼がピックアップして世の中に送り出した才能としては、今敏、細田守、片渕須直らがいる。また、かなり早い時期に湯浅政明(『ケモノヅメ』[2006年]『カイバ』[2008年])、磯光雄(『電脳コイル』[2007年])などに監督のチャンスを与えている。現在MAPPAの主力監督として活躍している境宗久(『ゾンビランドサガ』『恋とプロデューサー~EVOL×LOVE~』[2020年]『ゾンビランドサガ リベンジ』[2021年])、朴性厚(『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』[2020年]『呪術廻戦』[2020~2021年])や、マッドハウス時代の直弟子である山本沙代(『ユーリ!!! on ICE』)も丸山に才能を見出された人間である。この丸山の名伯楽としての能力がそのままMAPPAのパワーの源泉であり、躍進の秘密なのだ。
そのMAPPAが地雷表現の宝庫とも言える原作の魅力を損なわず、どのようにアニメ化していくのか。さらに、原作以上のプラスアルファをどのように見せてくれるのか、非常に楽しみである。
文:増田弘道
いつの間にか #チェンソーマン【公式】Twitterのフォロワーが10万人どころか14万人を突破していました!応援ありがとうございます。 ということで、【フォロワー10万人突破記念】として #デンジ と #ポチタ のアイコンをプレゼント! 次は、15万人突破で新しいアイコンをプレゼントします! pic.twitter.com/FLjipsMxvy
— チェンソーマン【公式】 (@CHAINSAWMAN_PR) February 10, 2021