無関係な他社作品も巻き込む殺人ピエロ・ホラー第二弾
『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』というホラー映画が、2019年に公開された。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)の後編で、スティーヴン・キングの原作小説「IT」から、いわゆる大人パートのみを抜き出しつつリメイク版の完結編として製作されたこの映画は、中盤の思い出探しの長さと、クライマックスでそれはもうボコボコにされる殺人ピエロ“ペニーワイズ”の姿、そして主人公の一人リッチーの突然のカミングアウトあたりが特に印象深い作品だ。
一方、日本では往々にして『シャークネード』シリーズ(2013~2018年)と『メガ・シャーク』シリーズ(2010年~)のイメージだけで語られがちなアサイラム社もまた、同時期にピエロ映画をリリースしている。その名も『THAT/ザット ジ・エンド』(2019年)。原題は『CLOWN』だが、なぜか『THAT/ザット』(2016年)というこれまたパチモン臭い名前の作品と併せて“人気シリーズの第二弾”ということにされている。
ちなみに、その『THAT/ザット』の原題は『BEDEVILED』でアサイラム社とはまったく無関係の単独作、おまけにその内容はピエロやサーカスではなく、スマホアプリを題材にしたホラー映画だという。驚きの風評被害ぶりである。
かつて虐殺を生き延びたサーカス団の少年が連続殺人ピエロとして蘇る!
時は1994年。ネバダ州ヒドゥンデザートに、ガスパリ・ファミリーというサーカス団がやってきた。が、その土地の司祭が住民を扇動し、サーカス団を皆殺しにせんとする。哀れ悪魔の化身とみなされ一方的に嬲り殺しにされていくガスパリ・ファミリーだが、ただ一人、ピエロの少年ソスだけは暴徒と化した住民の手から逃れ、そして反撃に移るのであった。
それから25年後。音楽フェスに向かっている最中だという若い男女のグループが、いまやゴーストタウンにまで落ちぶれていたヒドゥンデザートのびっくりハウスに迷い込む。しかしそのびっくりハウスには、様々な殺人トラップが仕掛けられていた。実は25年前のあの日から狂気の連続殺人鬼として覚醒したソスが、家族が遺したサーカス跡を拠点に、新たな獲物を待ち構えていたのだ。「あなたは特別な子」「私が死んでもサーカスを続けて」という母の遺言をいびつに解釈したソスは、殺人ピエロとして若者たちを虐殺するが……。というのが本作の概要である。
監督はエリック・フォースバーグ。普段は主に脚本家として、パニック・ホラー系の低予算映画を数多く手掛けてきた人物だ。監督作としては、ほかに『メガ・ピラニア』(2010年)があり、あの人気サメ映画『ゴースト・シャーク』(2013年)の原案も担当している。
Wi-Fi完備! 充実のハイテク機器!! ホスピタリティ抜群な“あれ”のアジト
ピエロのソスは幼い頃に辺境の町ヒドゥンデザートで孤児となり、両親を殺されてしまったがゆえに発狂。その後びっくりハウスに住み着くと、近くを通りがかった人間を度々襲うようになった連続殺人鬼である。つまり、およそまともな教育は受けられなかったであろうと推測されるが、にもかかわらず彼がアジトにしているびっくりハウスには、“クラウンチャイルド”という名でWi-Fiが完備されている。
それどころかコントローラーひとつで一度に複数体を操作することができる大量の殺人ロボットや、スチール製の壁が動く迷路、その他数々の電動ギミックが、古ぼけたびっくりハウスの中で問題なく稼働している。言葉の通じないシリアル・キラーを装いながらも実は裏で業者と普通にやり取りしているのか、それとも彼がすべて技師として独学で自作・加工・用意した上でメンテまで行っているのかは定かではないが、その辺り少々気になるところだ。
だがそんな細い疑問点以上に、本作は全体的な画面の暗さとスラッシャー演出の地味さが気にかかる。なまじ撲殺・焼殺・その他びっくりハウスのトラップを犯行に用いるなど、殺しのバリエーションはそこそこ豊富で脚本面はシンプルだけに、殺人シーンそのもののチャチさ物足りなさが浮き彫りになってしまっている格好だ。また、序盤にそれらしく仄めかされたすべての元凶たる教祖の存在がいつの間にかうやむやにされているなど、色々ともったいない点は多い。
なにはともあれ、いつものアサイラム作品らしい、なんだかんだ不満は多いながらもそれなりにはまとまっている一本だ。
文:知的風ハット
『THAT/ザット ジ・エンド』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年2月放送
『THAT/ザット ジ・エンド』
1994年、ネヴァダ州の砂漠地帯ヒドゥン・デザートにサーカスの一団がやってきた。だが彼らを悪魔の化身とみなす司祭の扇動で、町の住人たちはサーカスの団員を皆殺しにしてしまう。それから25年後。フェスに向かうサリーたち9人の男女が、休憩のためヒドゥン・デザートに立ち寄るが……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年2月放送