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世界にバレた! あの「東映スパイダーマン」誕生の真相は!?『マーベル616』はMCUだけじゃない濃厚舞台裏ドキュメンタリー

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ライター:#傭兵ペンギン
世界にバレた! あの「東映スパイダーマン」誕生の真相は!?『マーベル616』はMCUだけじゃない濃厚舞台裏ドキュメンタリー
『マーベル616』© 2020 Marvel
ディズニープラスで配信中

日本版スパイダーマンはいかにして作られたのか?

ディズニーはもちろん、「スター・ウォーズ」シリーズやマーベルの様々な映像コンテンツが観られることで人気の配信サービス、ディズニープラス。これから配信となるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のドラマ「ワンダヴィジョン」が大きく話題となっているが、今回紹介するのは、2020年11月末から配信となったマーベルの新たなドキュメンタリーシリーズ『マーベル616』だ。

『マーベル616』は、マーベルがコミックからスタートさせたユニバースが、映画/ドラマだけでなく様々な形で文化・社会に与えてきた影響を、8人の監督がそれぞれ違う角度から描く1話完結型のドキュメンタリー。監督のラインナップも『二郎は鮨の夢を見る』(2011年)のデイヴィッド・ゲルブから、Netflixオリジナルシリーズ「LOVE」(2016~2018年)の主演ジリアン・ジェイコブスや「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」(2017年~)の主演アリソン・ブリーなど面白い顔ぶれが集まっている。

そして、おそらく今回の最大の目玉となっているエピソードが、シーズン1の第6話「日本版スパイダーマン」だろう。これは日本では近年ネットミームと化していた、1978年の東映版の特撮ドラマ「スパイダーマン」を紹介する内容となっている。

なぜスパイダーマンが東映でドラマ化が決まり、どのように作られていったのかという流れを、関係者、制作陣、出演者のインタビューを中心に紐解いていく。東映版「スパイダーマン」をマーベルとスタン・リーはどう受け止めたのか、そしてこの作品が後にどんな影響をもたらしたかといった点にも触れられており、この作品を知っていても知らなくても楽しめるはず。日本と比べれば知名度がまだまだ低い海外では、やはり大きな話題となっていたようだ。

マーベルといえばコミック! 日本とは異なる“分業”システムを追った興味深いエピソード

だが、個人的に注目してほしいと思うのはコミック関連のエピソードだ。第1話「より高く、より遠く、より速く」はマーベルのコミックスを支えてきた女性編集者やアーティスト、ライターにフォーカスしている。

彼女たちは、なぜコミックに惹かれ業界に足を踏み入れたのか? インタビューなどを交えながら、彼女たちが作り出した作品/キャラクターがいかに女性読者や業界にポジティブな影響を与えたかが語られていく。また、コミック業界の歴史において男性たちが女性クリエイター/編集者の功績をいかに軽視してきたかも垣間見える作りとなっていて、それが徐々に変わってきていることも伺える。

また第5話「マーベル・メソッド」では、より具体的なコミック制作の流れが説明されていく。マーベル・メソッドとは、マーベルでスタン・リーが1960年代から使っていたライター/編集者が粗筋を伝えて、アーティストが絵を描き、そこに後でセリフを加えていくという手法のこと。

今ではあまり使われない手法なのだが、このエピソードでは、それを今でも使っている作家ダン・スロットが、共同制作者たちとコミックを作っていく様子が紹介される。ダン・スロットといえばマーベルのコミックファンにはおなじみの超人気作家で、10年間にわたって「Amazing Spider-Man」誌を担当し続け(これはかなり長い方)、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)のベースとなったコミックの著者であり、また同作に日本のスパイダーマンとレオパルドンを登場させた人物だ。

アメリカのコミックの制作の舞台裏をあまり知らない人には、日本の一般的なマンガとは異なるその工程や編集者の仕事/立ち位置などに驚かされるのではないだろうか。一方、コアなコミックのファンの間では有名な氏の遅筆っぷりが言及されたり、その結果としてレタラー(吹き出しを用意し、セリフ等を植字する担当)がギリギリな仕事をさせられているというあたりにニヤニヤしてしまうはず。つまり、ダン・スロットのコミックが読めているのは各誌のレタラーの活躍でもあるわけだ。感謝せねば!

マイナー作品発掘、本格コスプレ、おもちゃ展開、高校生によるマーベル公認演劇!

他にも、マーベルで活躍する国際色豊かなアーティストの仕事だけでなく、日常生活などの様子も見せる第4話「アメージングなアーティストたち」、コミックの超マイナーなヒーローチーム“ブルート・フォース”をアニメ化してみようというモキュメンタリー風企画の第2話「ロスト・アンド・ファウンド」で、コミックのいろいろな舞台裏が掘り下げられていく。

そして、コミックだけではないマーベルの文化に触れるエピソードも用意されている。第3話「スーツ・アップ!」ではマーベルのキャラクターになりきるコスプレ文化、第8話「アンボックス」はマーベルのおもちゃ文化が紹介される。

後者では、日本でも90年代に大きく流行りアメコミの知名度を上げたアクション・フィギュアが、マーベルの歴史を語る上では欠かせないものであることを知ることができる。特に、当時のファンとしては衝撃だったTOY BIZのマーベル・レジェンドと、それを引き継いだハズブロ版マーベル・レジェンド誕生の経緯が語られ、その制作現場が見られるのは激アツ!

メーカー側の歴史だけでなく、近年SNSなどで大きな話題となっている、工夫を凝らしてフィギュアの写真をカッコよく撮影する“オモ写”(海外では“トイ・フォトグラフィー”と呼ばれる)文化に触れられているところも、知らなかった人には興味深いはずだ。

ちょっと異色なのは第7話の「スポットライト」で、こちらは高校生が演劇の授業でマーベルのスーパーヒーローたちを主人公とした舞台に取り組んでいく姿を追うという内容。マーベルがどうこうというよりも、高校生たちが悩んで学んで演劇に没頭していく内容なのだが、それはそれで良い話であり、マーベルが学生向けの劇を制作しその上演権を(かなり安く)提供していることは知らなかったので新鮮であった。

MCU新作待機中にも最適! コアなコミックファンもMCUファンも楽しめるドキュメンタリー

といった具合で、マーベル関連ということを軸としながらも各エピソードでかなりバラバラなテーマを取り上げているシリーズとなっているのだが、それぞれが約1時間ほど、合計8話というコンパクトな作りで、テーマが変わっていくからこそ飽きさせない作りになっている。

また、ムスリムの若きスーパーヒーローであるミズ・マーベルことカマラ・カーンや、黒人のスパイダーマンであるマイルズ・モラレスのような多様なキャラクターたちがいかに読者の共感を得て、希望を与え、ポジティブな影響を残しているかというところも繰り返し語られており、マーベル・ユニバースの魅力を再確認させられる。

一方で、全体的に当たり障りのない作りであることも否めず、あくまでマーベルのプロモーションを兼ねている感じが強い。そのため、Netflixが展開しているような尖ったドキュメンタリーを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。

スタン・リーと伝説的コミック・アーティストであるジャック・カービーの間の確執や、今では大成功しているマーベルがかつて倒産した経緯など、ドキュメンタリーとして取り上げる価値のあるであろう内容はほとんどスルーされている(後者はディズニープラスで配信中の別のドキュメンタリー『マーベル75年の軌跡 コミックからカルチャーへ!』の中で少し触れられているが)。もちろん、そういった内容がマーベル側からは非常に出しづらいというのは理解できるので、そこは他のメディアに期待したいところだ。

また、多様でしっかりとした内容なのだが毎週配信ではなく、一挙配信にしたため各エピソードが大きな話題とならず若干埋もれてしまった感じが否めないのは、非常に勿体ない気もする。ここは、もしシーズン2をやるのであれば戦略を再検討して欲しい。

とにかく、マーベルの大ファンだという人はもちろん、マーベルは映画やドラマでしか知らないという人も楽しめる内容のシリーズなので、「ワンダヴィジョン」や(なんと丸々1年ほど公開が延期となってしまった)『ブラック・ウィドウ』を待つ間にも、かなりオススメなシリーズだ!

文:傭兵ペンギン

『マーベル616』はディズニープラスで独占配信中

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『マーベル616』

『マーベル616』はマーベル・ユニバースが文化的、社会的、歴史的に、我々に与える影響と、日常生活と交差する瞬間を探るアンソロジー・ドキュメンタリー・シリーズである。各エピソードはそれぞれ違う監督によって製作され、各々のマーベルに対するヴィジョンが明確に反映されている。個性溢れる多様な作品が、マーベルがいかに我々の生活に影響を与えているかを物語るタペストリーを織り成している。

制作年: 2020