まるで70年代な絢爛ネトフリ・ミュージカル
『ザ・プロム』は、まるで70年代のブロードウェイにタイムトリップしたかのような(あくまで想像ですが)気分にさせる、ファビュラスなミュージカルだ。派手な電飾カラーとゴージャスな舞台セットは、『グリース』(1978年)や『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)のような雰囲気。アップテンポなストーリーテリングで、息をつく間もないほど場面が次々に変わり、歌と踊りが披露される。
監督が『食べて、祈って、恋をして』(2010年)や、テレビシリーズ『Glee』(2009~2015年)で知られるライアン・マーフィーと聞けば、ある程度予想はできるが、それ以上の“ザッツ・アメリカン・ミュージカル”といった趣である。
メリル・ストリープ、前人未到の境地に到達!?
味濃い系のキャスト陣には、“マンマ・ミーア”ことメリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、『ワン チャンス』(2013年)で知られるジェームズ・コーデン、『ザ・プレデター』(2018年)のキーガン=マイケル・キー、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)のケリー・ワシントンら、芸達者がずらりと顔を並べる。
なかでも脱帽はやはりストリープだ。この人のファンキーな“なりきり”ぶりには、たとえ最初は違和感を覚えても、見ているうちにそんなことはどうでもよくなる、自分の世界に引きずりこむパワーがある。もはや前人未到の境地であり、観客はそんなストリープを目撃すること自体が、ひとつの楽しみと言えよう。ストリープの前では、さすがのキッドマンもいささか影が薄い。
また、一歩間違えばお笑いコンビのようになりかねないコーデンとストリープのこてこてデュオぶりも、ふたりの才能とバランス感覚がリディキュールになるのを回避している。
ストリープが演じるのは、峠を過ぎたブロードウェイのスター、ディーディー。おそらく、パティ・ルポーンかチタ・リベラあたりをイメージしているのではと思われる。
彼女はコーデン扮する傲慢な人気俳優バリーと新しいミュージカルを発表するも、批評家にこき下ろされ、ふたりともキャリアの危機に瀕する。そんなとき、友人のコーラスガール、アンジー(キッドマン)がインディアナ州の田舎町で、女子高生カップル(ジョー・エレン・ぺルマンとアリアナ・デボーズ)がプロムに参加することを禁じられたと聞きつけ、3人でこれを利用したLGBTQ支援に乗り出すことで、人気挽回を図ろうと目論むのだった。
正統的なミュージカル好きや年末らしい華やかな気分を味わいたい人にオススメ
雰囲気は70年代的でも、テーマは現代的だ。しかも女子高生カップルは異なる人種、ディーディーのファンで彼女に気に入られる校長も白人にはしていないなど、このあたりの新鮮なカップリングも、世相を反映してしっかりポリティカリー・コレクトな印象がある。
さらにクライマックスの<非排他的>プロムには、さまざまなカップルが合流して、歌とダンスの狂宴が繰り広げられる。
さすが資金潤沢なNetflixらしい、豪華さあふれる往年のミュージカルへのオマージュ。隅々まで“頑張りました”感があるのは好き嫌いを分けるかもしれないが、正統的なミュージカルが好きな方や、年末らしい華やかな気分を味わいたい人にオススメしたい。
それにしても本作といい、スピルバーグが制作中の『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年公開予定)といい、しばらくは再びミュージカル・ブームが続きそうだ。
文:佐藤久理子
『ザ・プロム』はNetflixで独占配信中
『ザ・プロム』
インディアナ州の田舎町で、同性の恋人とプロムに行きたい女子高生を応援するために、落ち目のブロードウェイスターたちが町に乗り込んでくる。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |