アガるハードロックと能天気なギャグ、奇想天外なタイムトラベルを盛り込んだSFコメディ『ビルとテッドの大冒険』(1989年)。グランジ・ロックの台頭直前に公開され、アレックス・ウィンター(ビル役)とキアヌ・リーブス(テッド役)のお気楽高校生キャラが世界中のファンから愛された。そして続編『ビルとテッドの地獄旅行』(1991年)から29年、ファン待望のシリーズ第3作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』が、2020年12月18日(金)にいよいよ日本公開となる。
中年になってもノリはあのまんま! ビルとテッドは世界を救えるか!?
「50代になったアレックスとキアヌが、ビルとテッドを“あのノリ”で再演して大丈夫だろうか……?」と要らぬ心配をしてしまったが、映画開始10分で「二人とも全然変わってない! 最高!」とすんなり物語の世界に入っていけたので、それは杞憂に終わった。彼らの息の合った掛け合いとキメのエアギター、シリーズゆかりのキャラクターの再登場も楽しいし、筆者的にはテッドの娘ビリーを演じたブリジット・ランディ=ペインが、テッドの所作を完コピしていたのが嬉しかった。
第1作では高校の研究発表のため、第2作は<バトル・オブ・ザ・バンド>で優勝する(+未来の悪党デ・ノモロスを倒す)ため、タイムトラベルしたビルとテッド。今回は「世界を滅亡の危機から救う音楽を完成させる」という重大なミッションが課せられるものの、「だったら未来の俺たちから出来上がった曲をもらってくればいいじゃん?」と、いつものように短絡的な発想で時空を駆け巡る。さらに結婚生活の危機を感じた彼らの妻と、父の曲作りを助けたい娘たちもタイムトラベルを敢行。過去、現在、未来、地獄を舞台にハチャメチャな展開が繰り広げられる中、クライマックスでは観客をまさかの感動のドラマへといざなっていく。
アメリカのインディー・ロック界からエクセレントな面々が続々参加!
『ビルとテッド』シリーズは、シャーク・アイランドやエクストリーム、スティーヴ・ヴァイ、KISSなどハードロック系ミュージシャンが楽曲提供したサウンドトラックも人気が高い。今作『ビルとテッドの時空旅行』では、音楽監督のジョナサン・リーヒー監修のもと、アメリカのインディー・ロック界で活躍するミュージシャンが多数参加している。
ビッグ・ブラック・デルタとカルチャー・ウォーズのエレクトロ・ロック勢にはじまり、若手のアレック・ウィグダルやエモ・ラップ界の新星POORSTACYら次世代アーティスト、そしてフィドラー、コールド・ウォー・キッズ、ブレイム・マイ・ユースが新曲を提供。これらのフレッシュな楽曲からは、「久々の続編だからといって、懐古趣味的な映画にはしない」というリーヒーの並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
また、実力派ヘヴィメタルバンドのラム・オブ・ゴッドとマストドンは、刑務所での乱闘シーンや地獄からの帰還シーンで爆音ギターを響かせる。
エンディングテーマ「Beginning of the End」を歌うウィーザーは日本の洋楽リスナーにも広く知られているが、彼らはバンドのファーストギグでドッグスター(かつてキアヌが在籍していたロックバンド)と共演したことがあるという。
ワイルド・スタリオンズの「世界を救う曲」と「ダメな曲」も必聴!
さらに、本作のソングコンピレーションアルバム(デジタルダウンロードのみのリリース)にはビルとテッドのバンド、“ワイルド・スタリオンズ”の曲が2曲収録されている。
「フェイス・ザ・ミュージック」は映画のクライマックスで流れる“世界を救う”曲。時代も人種も言語も文化も異なる人々がひとつになれる音楽とは、どういうものなのか? その答えがこの曲の中にある。インスト・メタル・バンドのアニマルズ・アズ・リーダーズ(※注1)が演奏を手掛け、鬼才ジャズ・トランペッターのクリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーが「ルイ・アームストロングのトランペット演奏」を担当している。
そしてもうひとつは、冒頭の結婚式シーンでビルとテッドが披露していた「時を超える絆:愛の化学的・物理的・生物学的性質 意味の意味を探して パート1」のフルバージョン。劇中では大不評だったが、テルミン、バグパイプ、ホーメイなどを駆使して、彼らなりに「世界の音楽をひとつにしてみました」感を出した、なかなかの力作ではないかと思う。
「笑わせる音楽」ではなく、「共に笑い、感動を分かち合う音楽」
本作のスコアを作曲したのは、『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)でアカデミー賞作曲賞にノミネートされた実績を持つマーク・アイシャム。トランペッターとしてデヴィッド・シルヴィアンやヴァン・モリソンらのレコーディングに参加し、自身のソロアルバムも多数リリースしている才人である。本作以前にもキアヌが主演を務めた『ハートブルー』(1991年)と『陽だまりのグラウンド』(2001年)の音楽を手掛けている。
ディーン・パリソット監督とアイシャムは、本作の音楽について「真剣にやるべきだと思う」という考えで一致した(※注2)。つまりビルとテッドを笑い者にするのではなく、彼らと共に笑い、驚き、感動を分かち合うような音楽を目指したのである。その結果、ドタバタSFコメディにもかかわらず、本作のスコアはオーケストラに電子音を組み合わせた正統派アドベンチャー音楽に仕上がった。ビルとテッドが爺さんになった自分たちや死神(ウィリアム・サドラー)と対面するシーンは、アイシャムの音楽によって、ユーモラスでありながら心温まる名場面となっている。
本作は曲作りの際に新型コロナウイルス感染症拡大の影響をモロに受けており、アメリカ国内のオーケストラを使えなかったアイシャムは、ブダペストで活動する<インスパイアド・シンフォニー>の演奏をリモートでレコーディングしてスコアを仕上げたという。そういう意味では、ビルとテッドたちと同様に、彼もまた「遠く離れた場所にいる人々をひとつにする音楽」を作曲したと言えるだろう。
文:森本康治
※注1:アニマルズ・アズ・リーダーズのギタリストのトーシン・アバシは、本作でビルとテッドのエアギターの演奏も担当。ただしエンドクレジット後のオマケ映像で彼らが弾いているギター曲は、元スマッシュ・マウスのリロイ・ミラーが演奏している。
※注2:『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』プレス資料より
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』は2020年12月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
「ビルとテッドの音楽が将来、世界を救う」そう予言されていた伝説のロックバンド“ワイルド・スタリオンズ”。曲作りに励み、待ち続けること30年。人気も年月と共に落ち込み、今や応援してくれるのは家族だけ。そんな2人のもとに未来の使者が伝えにきたことは、残された時間が77分25秒しかないという衝撃の事実。一秒でも早く曲を完成させないと、世界は消滅してしまうというのだ。ビルとテッド、そして彼らの娘たちは「世界を救う音楽」を作るため、モーツァルトやルイ・アームストロング、ジミ・ヘンドリックスなど、伝説のミュージシャンたちを集めて歴史上最強のバンドを結成しようと、過去へ未来へ時空を駆け巡る! どうなる地球、どうなるビルとテッド! 果たして、この世界を<音楽>で救うことはできるのだろうか!?
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年12月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開