世界の映画祭で戴冠!『ばるぼら』待望の日本公開
稲垣吾郎と二階堂ふみが、W主演した映画『ばるぼら』の公開記念舞台挨拶に登壇。監督の手塚眞とともに、全国65館の観客へ向けて生中継で熱い思いを語った。
2020年11月21日(土)、東京・千代田区の神楽座で行われた舞台挨拶は「全国の皆さんに会いに行きたかったんですけれども、今日はライブビューイングという形で、楽しいひと時を過ごせたらなと思っています」と稲垣が挨拶したように、新型コロナ対策のため無観客で行われた。司会進行は、東京国際映画祭作品選定ディレクターの矢田部吉彦氏。『ばるぼら』は2019年の東京国際映画祭のコンペティション作品に選出されており、1年間、世界の映画祭をまわり、ようやくの公開となった。
原作は、監督の父である手塚治虫が1973年から1974年にかけて「ビッグコミック」(小学館)で連載した大人向け漫画。耽美派の人気作家、美倉洋介(稲垣)が、自堕落な少女ばるぼら(二階堂)と出会ったことで、愛と芸術と狂気の迷宮にはまりこんでいくというストーリー。撮影監督に香港を拠点にするクリストファー・ドイルを迎え、美意識が全編に漲るこの作品について、稲垣たちが饒舌に語ってくれた。NHKの朝ドラ「エール」(2020年)の撮影を終えた二階堂ふみは髪をバッサリ切って登場し、小悪魔“ばるぼら“とはまったく違う爽やかな印象だ。
「お二人がいなかったら、この映画は出来上がっていなかったかもしれない」
―稲垣さん、二階堂さんとは初共演ということですが、共演されていかがでしょうか?
稲垣吾郎(以下、稲垣):嬉しかったですね。二階堂さんのデビュー作から映画をずっと観させて頂いていて、「なんだこの女優さんは、すごい!」と思っていたので、いつかご一緒させていただきたいなと、ずっと思っていました。“ばるぼら”という役を演じるのは難しかったと思うんですけれど、二階堂さんが本当にもう“ばるぼら”としてそのまま存在していてくれたおかげで、僕も演じることができました。美倉洋介にとって彼の才能がさらに開花していくのは、“ばるぼら”との出会い、“ばるぼら”がミューズだったわけですけれども、最後まで僕が役をまっとうすることができたのは、二階堂さんのおかげです。この作品において、僕にとって、二階堂さんはミューズです。本当にありがとうございました。
二階堂ふみ(以下、二階堂):(稲垣さんは)私が物心ついたときから、やはりモンスターと言いますか、トップで活躍されている方。でも、そういった面も含めて、稲垣さんの持っていらっしゃる聡明さであったり、すごく博学な部分であったりとかが、このキャラクターにとって魅力的になるだろうなっていうのは、現場に入る前からすごく感じておりました。実際に現場で学ばせていただくことが本当に数多くあって、とても貴重な経験をさせていただけたなと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
手塚眞(以下、手塚):これから皆さん(映画を)ご覧になるんですが、内容的には非常に難しい場面も結構ございまして、ところがこの二人とも非常にプロフェッショナルで、全く躊躇なく様々な場面をこなしていただき、監督としてはもう感謝の気持ちしかありません。そして先ほど稲垣さんがおっしゃっていたように、二階堂さんの存在自体がこの映画のミューズとして現場に存在していてくれたなと思います。お二人がいなかったら、この映画は出来上がっていなかったかもしれない。本当に二人には感謝しています。
「言語が違えど作っているものはひとつ。色々な背景を持った方々が集結して、同じ方向を目指してひとつの作品を作った」
―非常に国際色が豊かな撮影現場で、イギリスなど海外からのスタッフも多かったそうですが、海外のスタッフとの共同作業はいかがでしたか?
稲垣:楽しかったですね、初めての体験だったので。クリストファー・ドイルさんは僕も大ファンで、好きな作品がいっぱいありますし、手塚監督の『白痴』(1999年)も大好きで、20代の頃からいつかご一緒させていただきたいなと思っていて、その夢も叶ったので、もう夢のような現場でした。
手塚:ドイルさんは英語と中国語をお使いになります。日本のスタッフとは英語で、ご自分が連れて来たスタッフとは中国語なんですよ。だから、英語、中国語、日本語が飛び交う現場でしたね。時々、ドイルさんから英語でも演出されたんじゃないですか?
稲垣:でもドイルさん、けっこう日本語で話しかけてくれて。日本がすごい好きって感じで。とても気さくな方で、現場のムードを作ってくださいました。あとドイルさんは本番のカットがかかったあと、良い時と悪い時がすごく分かりやすいので、彼が喜んでくれると、監督もそうですけども僕らも手応えがありました。
手塚:そうですね。ドイルさんは3人目の主役っていうような感じがします(笑)。
稲垣:僕にとっても撮影現場で夢のような時間を過ごすことができて、嬉しかったです。作品自体も非現実的なものなので、あれは現実の出来事だったのかなって不思議に思えるような。“ばるぼら”の影響もありますし。
二階堂:言語が違えど作っているものはひとつで、同じ方向を目指して色々な背景を持った方々が集結してひとつの作品を作っているのが本当に素晴らしいですし、芸術のあるべき姿みたいなものを学ばせていただいたなと感じておりました。
「周りが見えなくなるほどの“愛の逃避行”には少し、憧れたりはします」
―稲垣さんにお伺いします。美倉洋介との共通点として、社会的に知名度のある男性という点がありますが、もし稲垣さんが現在のように有名でなければ、何かしたいことはありますか?
稲垣:この答えが見出しになりそうですね。これまで真面目な話ししてるのに、映画のイメージを壊さないようにしないと。わかってるんです、長年の経験から(笑)。海外に行って自分のことを誰も知らない街で歩いたりすると、本当に開放的な気持ちになれますよね。あと、これまでだとマスクをして帽子をかぶって歩いてると、「誰だ、芸能人だろう?」って見られていたんですけど、今はコロナの影響もあって、皆さんがマスクされるので普通の格好になって。なので、不謹慎かもしれませんけど、今まで行けなかったお店に行けたりとか、そういうことはあります。質問の答えになっていないかもしれませんけど(笑)。
―美倉というキャラクターと自分の共通点や、違うなと思うところはありますか?
稲垣:原作のイメージだと、精神的にも肉体的にもちょっとマッチョな、もっと男らしい印象が強かったんですけれども、今のこの時代でこの作品をやるとしたら、そこまで男性的なものはあまり出しすぎないほうが、作品全体としてよく見えるかなとは思いました。あと、美倉洋介の愛に溺れていく感じ、そこまで振り切ることってなかなかできないじゃないですか。もう周りが見えなくなってしまって、二人で愛の逃避行をしていくのは、少し憧れたりはします。実際の僕の方がもっと冷静かもしれないですが。これからどうなるかは分かりませんけども(笑)。
―二階堂さんにお伺いします。“ばるぼら”という少女は、漫画が発売された当時から、実は実在しない芸術のミューズなのではないかと言われていました。二階堂さんが“ばるぼら”を演じるにあたって考えられたことは?
二階堂:本当に実体のないキャラクターなんだろうなというのは、原作からも、脚本においても感じました。普通の人だったらこうするっていうことが通用しないキャラクターなんだなと。なので、あまり自意識を持たないように、毎回現場で考えすぎないようにしなきゃなと思って演じました。
―手塚監督はお父上、手塚治虫先生にもしこの映画をお見せしたら、どんな言葉をかけてくださると思いますか?
手塚:父親は、昔のヨーロッパの映画の雰囲気がすごく好きだったんです。ですから、まず主役の俳優に関しては絶対に美しい人がいいと思っていると思います。このお二人でしたら完璧ですし、父も太鼓判を押すと思います。
もちろん内容については、本人が見たら色々と突っ込んでくると思いますけども、今週、イタリアのファンタ・フェスティバルという国際映画祭で、最優秀作品賞を頂きました。おそらくそのことを僕以上に喜んだのは、父だと思います。自分の原作の映画作品が世界に認められたというところでは、親子共々飛び上がって喜びたい気持ちでございます。11月は父の誕生月なんですけども、そういう記念の時に父親にその賞をプレゼントすることができて良かったと思っております。
「幻想、愛、そして狂気の果てで見えるような美しい景色、芸術を皆さんに堪能して頂ける作品」
~ここで、香港にいるクリストファー・ドイルからのメッセージがサプライズで紹介された。
こんにちは、そしてハロー。クリストファー・ドイルです。現在、香港のホテルで自主隔離中のため、お客様と<チームばるぼら>に参加することができずに悲しいです。今の私はそばでからかってくれたり、私の創造意欲を掻き立ててくれるような現地のばるぼらさえもいません。私にとっての『ばるぼら』は、クリエイティブなエネルギーが、いかに喜びやセックスや自分を解放することから生まれるかを語る映画です。私たちは自らが意識する以上に自分を解放する必要があるのです。我々の映画が、皆さんに創作の自由をもたらすことを願っています。監督、俳優を含む全スタッフは、作品をクリエイトする喜びと名誉を、みなさんと共有したいと願っているのです。私たちが楽しんで映画を作ったように、皆さんにも楽しんでもらえたら嬉しいです。
稲垣:嬉しいですね。わずか3週間の出来事だったんですけれども、でもずっと灯みたいなものが、僕の中で消えないでいて。そういう意識があると、またどこかで再会してご一緒できるんじゃないかなって僕は勝手に思っています。
二階堂:ドイルさんはとても楽しい方で、本当にいつまでも元気で作品をクリエイトする大先輩として、映画界をこれからも引っ張っていっていただけたらなと思います。
手塚:嬉しいです。クリスの愛を感じますね。この映画に対して、そして我々スタッフ、出演者全員に対する強い愛を感じます。それは何よりも、彼が映画という創作物をすごく愛してるからなんだろうなと思いました。クリスさん、ありがとうございます。
~さらに主演の二人へ、手塚監督が彼らのイメージに合わせて選んだ花束が贈呈された。稲垣吾郎へはオフホワイト、二階堂ふみには大人っぽい赤のアレンジ。SNSで美しい花の写真をアップすることが多い稲垣は、特に喜んでいた(いつかアップしてくれるのかしら?)。最後に3人からのメッセージで、舞台挨拶は締めくくられた。
稲垣:今日は、全国の皆さん、劇場にお越しくださいましてありがとうございました。この『ばるぼら』は2年前に撮影して、そこから世界は激変してしまったんですけれど、こうして無事に公開日を迎えることができて、本当に皆さんのおかげです。本当に嬉しく思っています。この作品は、ひとつの大きな答えが用意された娯楽作品とはちょっと違うところにあるんですけれども、この映画のテーマでもある、幻想、愛、そして狂気の果てで見えるような美しい景色、美しい芸術を皆さんに堪能して頂ける作品に仕上がってると思います。もし気に入っていただけたら、こういった抽象的な作品ですから、観る時の気持ちとか環境によって違った受け止め方、感じ方ができる作品だと思いますので、何度でも観ていただけると嬉しく思っております。本日はどうもありがとうございました。
二階堂:本日はありがとうございました。稲垣さんもおっしゃっていたように、すごくアート性の高い作品になっていますけれども、そこから、こういうものもあるんだなとか、繋がりがどんどん出来ていく作品だなと感じております。全国に足を運べなかったのが残念だったんですけれども、全国に配信することができて、とても良かったと思っております。また、劇場で堪能していただいて、ぜひお友達や家族と共有していただけたらなと思います。ありがとうございました。
手塚:この映画はお二人と、それ以外にも素晴らしいキャスト、個性的なスタッフで作りあげた渾身の作品です。ただ映画を作るのは私たちですが、映画を完成させるのは、これをご覧になる皆さんだといつも思っております。今日これから作品をご覧になって頂いて、皆様一人一人の『ばるぼら』を作りあげて帰って頂きたいと思っております。そしてもしお気に召したら、お近くのお知り合いやお友達などにもぜひこの映画を推薦してください。これは本当に皆さん方の気持ちや心によってどのような作品にもなっていくものでございますので、ぜひともお気に召したら、この作品をより素晴らしいものに作り上げていって、育てあげていって頂きたいと思っております。今日は観に来てくださり、本当にありがとうございました。
――『ばるぼら』は、ファンタ・フェスティバルに続き、プエルトリコのUSCA国際ファンタスティック映画祭でも監督賞に輝いた。映画はハマり役である稲垣、二階堂だけでなく、ばるぼらの母役の渡辺えりをはじめ、渋川清彦、石橋静河、美波ら脇を固めるキャストも禁断の世界を盛り上げている。大物作家役で、9月に亡くなった藤木孝も顔を見せている。R15+の妖艶な大人向けファンタジーは、舞台「ロッキー・ホラー・ショー」などで活躍した怪優、藤木の終幕に捧げるにふさわしい作品と言えるだろう。
取材・文:石津文子
『ばるぼら』は2020年 11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開
『ばるぼら』
芸術家としての悩みを抱えながら、成功し、名声を得、それを失い、破滅していく人気小説家-美倉洋介。アルコールに溺れ、都会の片隅でフーテンとして存在する、謎の少女-ばるぼら。
ある日、美倉洋介は新宿駅の片隅でホームレスのような酔払った少女ばるぼらに出会い、思わず家に連れて帰る。大酒飲みでだらしないばるぼらに、美倉はなぜか奇妙な魅力を感じて追い出すことができない。彼女を手元に置いておくと不思議と美倉の手は動きだし、新たな小説を創造する意欲がわき起こるのだ。彼女はあたかも、芸術家を守るミューズのようだった。
その一方、異常性欲に悩まされる美倉は、あらゆる場面で幻想に惑わされていた。ばるぼらは、そんな幻想から美倉を救い出す。魔法にかかったように混乱する美倉。その美倉を翻弄する、ばるぼら。いつしか美倉はばるぼらなくては生きていけないようになっていた。ばるぼらは現実の女なのか、美倉の幻なのか。狂気が生み出す迷宮のような世界に美倉は堕ちてゆくのだった……。
制作年: | 2019 |
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2020年 11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開