絶対に泣ける戦国映画は?
私は子供の頃から、かなりの泣き虫だった。五つ上の兄と私の二人兄弟。末っ子ということもあり、いつもメソメソ泣いていた。兄に虐められて泣き、母に叱られて泣き、先生に怒られて泣きと、とにかく泣いてばかり。家族で夏の旅行に南紀白浜ワールドサファリ(現:アドベンチャーワールド)へ行った時も、私がゴム製のシャチのおもちゃをねだったが買ってもらえず、ぶんムクれていたら母に叱られ、撮った写真の殆どが泣きべそ顔の写真。兎に角、しょっちゅう泣いていた。
そこで昭和の男の子の教育方針らしく、「男の子はそんな簡単に泣かないの!」と常に言われ続け、そんな教育のおかげで、大きくなるにつれて人前では絶対に泣かない、見事なやんちゃ坊主に成長していった。悪さをして先生に怒られ、職員室の前に一日中立たされても絶対に泣かない。学校の先生から両親に連絡が入り、家に帰ってからこっぴどく怒られ、玄関の外に晩飯抜きで夜9時ごろまで立たされても、全く泣かなかった。
そしてそのまま、泣かない大人へとなっていった。だが、今年で48歳になった私は、ここ近年また元の泣き虫になってきている。可愛い犬や猫の動画はもちろん、若者たちの青春ドキュメント番組なんかにはめっぽう弱い。見始めて5分もせずに泣いている。
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ある時などは、バイクに跨がり信号待ちで止まっていた交差点の角にあった、老舗の寿司屋の玄関を、坊主頭の十代の若い子が開店前にホウキで掃除をしているのを見て、「この子は田舎から東京に出てきて、厳しい修行に耐えながら一人前の板前になることを夢見て頑張っているんじゃないかなぁ……」と勝手な想像をして、号泣している時がある。決して情緒不安定ではないのだが、どうかしていると自分でも思う。
だから泣ける映画を観る時は、おもいっきり泣く。映画館だろうが自宅だろうが、恥ずかしげもなく、鼻水がズルズルになるほど泣くのである。そこで今回は、絶対泣ける戦国映画を選んでみた。それは『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)だ。
え、クレヨンしんちゃん!? と思う方もいるだろうが、これが名作なのだ! 何回観ても必ず泣いてしまう。というか、この映画は大人が観て泣く映画なのだ。
しんちゃんたちが戦国時代にタイムスリップ! 野原一家を巻き込んで大戦が始まる
この映画は2002年公開だが、前年の2001年に公開された『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』を、伊集院光さんから「絶対に泣ける映画だから」と勧められ、正直、心の中で「いやいや、ただでさえ泣かない俺様が『クレヨンしんちゃん』で泣くわけがないだろう」と鼻で笑っていたのだが、これが映画を観終わったら大号泣! というか、映画の中盤から泣きっぱなしだった。そして翌年に公開されたのが、今回おすすめの『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』だ。
物語は野原家の家族全員が、昔の格好をしたキレイな女性が出てくる夢を見るとこから始まる。その後、犬のシロが庭の穴から掘り起こした、しんちゃん自身が書いた手紙を見つけ、なぜかそこから天正2年(1574年)の戦国時代真っ只中にタイムスリップしてしまう。
ちなみに天正2年は武田信玄の息子、武田勝頼が遠江(現在の静岡県)の高天神城を攻め落とし、織田信長が長年苦しめられた伊勢(現在の三重県)の長島一向一揆を壊滅させた年。そんな戦国時代の真っ只中でしんちゃんが出会う武将が、井尻又兵衛。この侍がまたカッコイイ! 戦さにはめっぽう強くて、主君の春日和泉守(かすがいずみのかみ)からの信頼もあるが、想いを寄せる姫、春日廉(かすがれん)の前ではモジモジしてなんとも頼りない。しかし、そこがまたイイ。お互い想いを寄せ合っているのに、身分の違いから気持ちを打ち明けられずにいるところも、なんだか切なくて泣けてくる。
そんな時、隣国の大大名・大蔵井高虎(おおくらいたかとら)が2万の兵を率いて攻めてくる。兵力で劣る春日家だが、又兵衛を筆頭に迎え撃つ。野原一家をも巻き込んでの大戦! さあ果たしてしんちゃん一家はどうなるのか!?
当時の盾は竹製だった!? 現代の米陸軍も注意喚起する“竹”の意外な防弾効果とは
この作品に出てくる武将やお城は架空のもので実在はしないのだが、子供向けアニメとは思えないほど、イクサのシーンが適当なチャンバラに描かれてはおらず、戦国バカも納得のリアルなシーンとなっている。
例えば、大蔵井の軍勢が春日城に攻め寄せる場面。鉄砲から撃ち合うのだが、これは戦国時代の常とう手段で、距離を取っての戦いからイクサが始まるのだ。さらに、この場面で鉄砲を打った後、次の弾を込めるまでの間に弓矢(防ぎ矢)を放つところもリアル。
さらに、攻め手の側の盾が竹束(たけたば)なのも素晴らしい! 当時、盾は厚めの板を使っていたが、鉄砲が伝来して戦場で使われるようになると、板では鉄砲の弾が貫通してしまう。そこで、どこでも入手簡単な竹を束にして盾として用いたのだ。
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おいおい、竹なんて簡単に鉄砲の弾を貫通しちゃうでしょ? とお思いの方もいらっしゃるだろうが、結論から言うと、簡単に貫通するのである。ただ竹を束にすることで鉄砲の弾が真っ直ぐ貫通せず、弾の軌道が左右にそれて貫通するのだ。当時の鉄砲の弾は、現代のライフル銃のように弾頭が尖っていない、まん丸の鉛玉。その弾が束にしてある丸い竹に当たることで、貫通してもまた丸い竹に当たる。それが繰り返されることで鉛の玉は真っ直ぐ進まず、左右のどちかにそれていく仕組みなのだ。
現代で言うと、パチンコの玉が細い釘に当たってどっちに転がって行くか分からない様なもの。ボーリングの玉を力の弱い人が投げると、ピンに当たっても真っ直ぐ奥のピンまで当たらないのと同じ。例えはあんまり上手くないが、兎に角、貫通力の弱い当時の鉄砲の弾は、竹の束を真っ直ぐ貫通できないのである。
ちなみにこの竹束を発明したのが、甲斐武田の家臣、米倉丹後守重継(よねくらたんごのかみしげつぐ)。彼が考案した対鉄砲防具は大ヒット商品として、戦国時代実戦で幅広く使用されたのだ。
さらに余談ではあるが、アメリカ陸軍の教本には、「竹藪に向かって発砲すると跳弾が発生しやすく危険」と書かれているそうだ。
他にも攻城戦のシーンで、大きく膨らませた母衣(ほろ)を背中に背負った、「佐久間権兵衛」という武将が、場内に一番乗り(一番槍)を果たした時、大きな声で自分の名を叫ぶシーンがある。これは自分の手柄をはっきりと明確にするためにやる行為なのだ。これを同じ戦場にいる軍目付(いくさめつけ)という役職の人が、自軍の兵士の勤務状況を記録し恩賞が貰える。ただ、この映画の中では佐久間権兵衛は井尻又兵衛に討ち取られてしまうのだが、そこは心配ご無用。佐久間権兵衛の家族には、ちゃんと一番乗り(一番槍)の恩賞が与えられる仕組みになっている。
まだまだこの映画の戦闘シーンには、槍衾(やりぶすま)や投石部隊、攻め櫓に焙烙火矢(ほうろくひや)などなど、戦国バカが話したいことが山ほどあるのだが、それくらい、このお子様向けとされている本作の中にリアルなイクサが描かれているのだ。もちろん、こんな戦国雑学を全く知らなくても充分楽しめるので、まだ観ていない方、いい映画を観てほろっと泣きたい方には、是非ともオススメの戦国映画である。
文:桐畑トール(ほたるゲンジ)
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』はAmazon Prime Videoほか配信中
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』
春日部で平和に暮らしていたしんのすけが、何故か突然戦国時代へとタイムスリップ。そこでひょんなことから、歴史上討たれるはずだった侍を救ってしまう。歴史を変えてしまうわけだが、そんなことはどこ吹く風とばかりに、しんのすけは政略結婚に巻き込まれたり、戦で戦ったり、と戦国時代でも大暴れ。そして、後から何とか車で(?)追っかけてきたひろしたちとも再会をするものの、歴史の荒波は一家を大きく変えていく……。果たしてしんのすけたちはどうなってしまうのか? そして、変えられてしまった歴史はどうなるのか?
制作年: | 2002 |
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監督: | |
声の出演: |