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『007』サウンドを確立した『ロシアより愛をこめて』 マニアックなバージョン違いや大胆転用などをみっちり解説!

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ライター:#早川優
『007』サウンドを確立した『ロシアより愛をこめて』 マニアックなバージョン違いや大胆転用などをみっちり解説!
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

マニアックなバージョン違いや作品をまたいだ大胆転用が行われたワケ

<Part 1>に続いて、ここでは『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)の主題歌・挿入曲を含むトリビアを紹介しよう。

まず、主題歌「ロシアより愛をこめて」は劇中に2回流れるが、実は両者のボーカルは別のテイク。タイトル後の映画冒頭、ボンドがガールフレンドのシルビア・トレンチとドライブ・ピクニックを楽しんでいるシーンでカーラジオから流れるのは、サウンドトラック・アルバムに収録されているバージョン。ベネチアのゴンドラにボンドとタチアナが揺られるエンディング・シーンで流れるのは、英パーロフォンや米リバティ、そして日本のオデオン等、当時のシングル盤でリリースされたバージョンである。両者の聴き分けポイントは開始から45秒の「From Russia with Love~」の「love」の部分。情感を込めて音程を下げるのがアルバム、軽やかに上げて歌うのがシングルだ。歌い出しの「From」と「Russia」の間も、シングルは溜めが気持ち長いので、是非聞き分けてみて欲しい。

現在聴けるCDの殆どがアルバム・バージョンを収録しており、肝心のエンディングに流れるシングル・テイクが聴けるのは、バリーのコンピレーション「Themelogy The Best of John Barry」(英・コロムビア)など、ごく一部となっている。配信でSingle Versionとの記載になっているものも、確認したもの全てがアルバム・テイク。ジョージ・マーティンの6枚組アンソロジー「Produced By George Martin -50 Years In Recording-」もアルバム・テイクになっているのだが、左チャンネル側にボーカルの定位を寄せた、英国流ステレオ・バランスで聴けるCDとして貴重な存在である。

ジョージ・マーティン・ボックス・セット

また、この主題歌をよく聞くと、イントロから1分4秒の地点、歌詞「But, oh」の裏に極々小さくキュルキュルという早回しの人声ノイズが乗っている。シングル、アルバムどちらのバージョンにも入っているため、カラオケに入り込んでしまった異音であることが分かる。作業時に同じ卓に繋がれていたテープレコーダーでテープの早送りか巻き戻しを行った際の音が混入してしまったと思われる。

THEMEOLOGY

さて、サウンドトラック・アルバムでは、実際の本編中に使用されている音楽と異なったものが収録されているケースがある。幾つかの理由があるが、代表的なものはサントラ盤が映画のプロモーションの役割を果たすために、公開と同時期に店頭に並べるため、どうしても映画の本番の音楽録音とは異なったスケジュールで作業を行う必要があるから。アメリカの大作映画では映画本編用のテイクとは異なるセッションをレコード用に別途行うことも多かった。ボンド映画では基本的に映画本編用の音楽をレコード化している。そのため、『サンダーボール作戦』では録音の最中にレコードを出すことになり、当初のLPにはクライマックスの音楽が全く入らなかった。ユナイト・レコードではVOL.2を出すことを想定したが、これは叶わず、後年のCDリリースまで待たなければならなかった。

本作のアルバムでいえば、タイトル・バックに流れる「オープニング・タイトル:ボンド・カムバック~ロシアより愛をこめて~ジェームズ・ボンドのテーマ」が映画本編とはテイクの異なることが、昔からボンドファンの間で語り草となっていた。映画では演奏にジャズ・オルガニストのアラン・ヘブンが奏する電子オルガンのアド・リブが加わっており、これがタイトル画面のベリーダンサーの煌びやかな動きとマッチして印象に残るのだ。だが、アルバムに収録されているテイクにはオルガンが入っていない。おそらく、これはリテイクが間に合わなかったというよりは、数種類のテイクが録音された中で、あえて映画ダビング用と異なるテイクをアルバム収録曲に選んだのだと思われる。事実、前述のエンバーの自作自演のセッションにもお蔵入りしていたオルガン入りのテイクが存在し、後に日の目を見ているのだ。

もう1曲、ジプシー・キャンプのシーンでジプシー娘が踊るシーンに現実音として用いられた「ライラのダンス」も、本編とアルバムで異なっている。これは、撮影時のダンスに使用された曲とは別の音楽を後からバリーが作曲・録音したものが、撮影時の音楽の方がシーンとしてはリアルであるとの理由で残されたものと推察される。

これら、『ロシアより愛をこめて』のサウンドトラック盤は、1976年4月の『ドクター・ノオ』テレビ放映版に大量に使用されている。基本的に音楽の入っていないシーンに選曲されているが、カーチェイスのくだりの「ボンドとボンゴ」、エンディングの「ゴールデン・ホーン」など、作品に推進力を加える効果を上げていた。

まさかの「エヴァ」元ネタの可能性も!? おおらかな時代が生んだ奇跡

最後の最後に一つ蛇足ながら、有名な「新世紀エヴァンゲリオン」(1995~1996年)の特務機関NERVの作戦遂行時の有名なテーマ音楽(「DECISIVE BATTLE」)のアイディアの基になっているのは、本作の「007」であると筆者は考えている。ヒントは、庵野秀明が「これを観ていなかったら『エヴァンゲリオン』は全く違う形の作品になっていた」と語るSFテレビシリーズ「謎の円盤UFO」(1970~1973年)。同作はイタリアでは数本を編集・伊語に吹き替えて劇場公開されたのだが、その際に劇中の音楽の大半が『ロシア~』のサントラ盤からの選曲で賄われたのである。

日本で初めて「謎の円盤UFO」が映像ソフト化されたのが、こともあろうにこのイタリア版。1987年にパック・イン・ビデオから「謎の円盤UFO 月面基地破壊計画」「~地球侵略作戦」「~シャドー攻撃命令」の3作がVHSのビデオ・ソフトでリリースされたのだが、これを観た時は仰天したものだ。しかしながら、ジョン・バリーの「007」に乗ってUFOを迎え撃つ迎撃機インターセプターが発進するシーンの躍動感は、バリー・グレイのクールな英国オリジナル版、掟破りの「サンダーバード」(1964~1966年)のエンドタイトル曲を当ててしまった日本テレビ版に引けをとらないカッコ良さだった。念のため、公式的には「007」と「DECISIVE BATTLE」との相関関係は認められていないことを追記しておく。

以上、つらつらと『ロシアより愛をこめて』の音楽について語ってきた。筆者にとって一連のボンド映画のサントラは、映画音楽愛好への扉を開いてくれた魂の故郷のような大切な存在である。まだまだお話ししたいことは作品毎に山ほどあるが、それらについては、また別の機会に。

文:早川優

『007』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送

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