“あの計画”で育成された暗殺者はボーンだけじゃない!
CS局や配信サイトで見られるドラマシリーズには、『マンダロリアン』(2019年~)や『コブラ会』(2018年~)など人気映画のスピンオフ、番外編的な作品も多い。『トレッドストーン』もその一つだ。
タイトル通り、モチーフはマット・デイモン主演、『ボーン・アイデンティティー』(2002年)から始まった『ボーン』シリーズに登場する、トレッドストーン計画である。正確に言えば、『ボーン』シリーズの原作であるロバート・ラドラムの小説に登場する組織がベース。
訓練とともに非人道的な洗脳で暗殺者を育成、世界各地に<スリーパー>として潜伏させるトレッドストーン計画。ジェイソン・ボーンは現実に目覚めることになったが、他にも洗脳され、過去を失った暗殺者はいる。『トレッドストーン』が描くのは、その“ボーン以外”の面々のドラマだ。
ある写真を見た途端、なぜか体が動いてその人間を殺そうとする。ケンカに巻き込まれたら、習った覚えもない格闘術で相手をなぎ倒してしまう――自分に何が起きているのか、自分はいったい何者なのか。スリリングな陰謀と、その謎を追う物語は世界規模で展開していく。
ジェイソン・ボーンの“世界同時多発”状態! じっくり腰を据えて向き合いたいシリーズ
過去に気づいてしまった殺人者と、彼に接触するCIA捜査官、愛する妻が握る秘密。ヨーロッパでは女性ジャーナリストが謎のさらに奥にある陰謀に迫る。インパクトが大きいのは、暗殺者として覚醒してしまった北朝鮮の主婦だ。夫と息子を愛するピアノが得意な彼女が、わけもわからぬまま軍部の高官を暗殺させられ、火の粉を払うように闘いの渦中に飛び込む。
いわばジェイソン・ボーンの“世界同時多発”状態。作中、スリーパーたちは「セミ(蝉)」と呼ばれる。地中で何年も眠り、目覚めたかと思うと役目をはたしてすぐに死んでいく。大掛かりな陰謀サスペンスというだけでなく、その悲劇性がドラマをより色濃いものにしている。
世界各地の出来事が同時進行で描かれるのに加え、ドラマは過去と現在を行き来する。『トレッドストーン』のもう一つの舞台は1970年代、冷戦下の東ドイツだ。東側の捕虜となりスリーパーにさせられかけたアメリカのエージェントが、身内からも疑惑をかけられながら真相を探っていく。
すべてが同時進行だから目まぐるしく、油断できない。のんびり見るには向いていないかもしれないが、緊張感のあるスケールの大きな展開は連続ものならではとも言える。じっくり腰を据えて向き合いたい作品だ。
文:橋本宗洋
『トレッドストーン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年12月ほか放送
『トレッドストーン』
映画『ボーン』シリーズのスピンオフドラマ。ジェイソン・ボーンの物語をヒントに、CIAの“トレッドストーン計画”を描くアクションスリラー。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月ほか放送