DCファンドームで『ザ・バットマン』予告解禁!
日本時間の2020年8月23日(日)に開催された「DCファンドーム」において、2021年公開予定の『ザ・バットマン』の一部がついにベールを脱ぎました。「DCファンドーム」とは、DCコミックが今年初めて仕掛けたオンライン・コンベンションで、2021年以降公開されるDC映画(『ザ・スーサイド・スクワッド』等)のパネル(=プレゼンテーション)が配信の形でおこなわれたのです。
どの作品も監督や主要キャストが登壇してのトーク。その中でも一番注目されていたのがこの『ザ・バットマン』でした。出演のロバート・パティンソンのメッセージから始まり、監督のマット・リーヴスが本作についての熱い想いを語ります。そして全世界初お披露目となる『ザ・バットマン』のティザー予告編の解禁となりました。
この予告編が素晴らしく本作への期待がいっきに膨らんだのですが、一方で『ダークナイト』(2008年)に似ているな、とも思ったのです。それはなぜか? まずバットマン映画の歴史を考えると、それは当然のことなのかもしれません。
“ヒーロー路線”と“ダーク路線”を交互に繰り返してきた映画『バットマン』シリーズ
バットマン映画というのは、直前の作品のトーンを否定していくことから始まります。つまり60年代にポップな「バットマン」のTVドラマ(1966~1968年)がありましたが、バットマンはもっとダークでなければならないということで、1989年の映画『バットマン』はヒーロー映画とは思えない暗さが魅力の作品になりました。
ところが、続く『バットマン リターンズ』(1992年)はファミリーが夏休みに楽しむヒーロー映画としては重すぎたとの理由で、路線を変更して明るいトーンのヒーロー活劇である『バットマン フォーエヴァー』(1995年)『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(1997年)が作られるわけです。この『Mr.フリーズの逆襲』は60年代のTVドラマ版バットマンへの回帰を狙った作品とも言われています。
しかし、この2作は興行的に大失敗。もう一度バットマンをダークでクールな路線に戻そうと、クリストファー・ノーランの<『ダークナイト』3部作>が始まります。この3作は大成功を納めますが、ノーランは極力、バットマンをヒーロー物として描こうとしないので、マーベルのようなヒーロー映画を期待するワーナー(DC)にとって、もう一度ヒーローらしいバットマンを登場させたくなります。それが『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)から登場するベン・アフレック演じる、ザック・スナイダー版バットマンです。
『ジャスティス・リーグ』を目指して登場させたバットマンですから、スーパーマンやワンダーウーマンと並んでも遜色のない、ヒーローとして登場させる必要があったわけです。つまり、バットマンは“ヒーロー路線”“ダーク路線”を交互に繰り返してきたので、今度の『ザ・バットマン』は必然的に一つ前のザック・スナイダー版の“ヒーロー路線”バットマンではなく、ノーラン版の“ダーク路線”の継承者になるわけです。
駆け出しの若きバットマンが挑発的なヴィランを追う“探偵映画”テイストになるかも?
上記を頭に入れながらマット・リーヴス監督のコメントと、解禁になった『ザ・バットマン』の予告から本作の内容を推理すると、こういうことになります。
物語の舞台は、すでにバットマンが活躍しているゴッサム・シティ。監督によれば『ザ・バットマン』は、このヒーローのオリジンを描く作品ではないが、彼がヒーローとして駆け出し(2年目くらい)の設定だそうです。街で不可解な連続犯罪事件が起こりますが、いずれも犯人が謎のメッセージを残している。「嘘はもうたくさんだ」みたいなメッセージです。そして、それはバットマン宛に描かれたメッセージ。そう、犯人はバットマンに挑戦するために事件を起こしているようです。
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従ってゴードン警部(今回はジェフリー・ライトが演じる黒人のゴードン)以外のゴッサム市警の目は、なんとなく「バットマンなんているから今度の事件がおこったんだ」的な、白い目で見ている感じです。恐らく、この“謎を出すヴィラン”はリドラーなのでしょうが(今作にはリドラーやペンギンは登場すると言われているが、ジョーカーが登場するとは言われていない)、こういう風にヴィランがバットマンに謎かけをしていく展開って、『ダークナイト』と同じなわけです。あの作品は、ジョーカーがバットマンに「正体を明かさなければゴッサム市民を殺していく」と挑発する話でした。監督のマット・リーヴスは、今回の『ザ・バットマン』を「探偵映画にしたい」とも言っていました。僕の印象の中では、『ザ・バットマン』以前で一番探偵映画っぽかったのは『ダークナイト』なのです。というのも、あの作品はジョーカーの動きを追っていく知恵比べ的ストーリーでしたから。
さらにこの予告編の中で、ピエロのメイクをしたギャング団とバットマンが戦うシーンがあります。(マット・リーヴスの言葉を借りれば、この時のバットマンはまだ駆け出しで血の気が多いから、ギャングの一人をこれでもかというぐらいに殴りつけます)。『ダークナイト』の冒頭にも、ピエロのマスクを被ったジョーカー仕込みのギャング団が出てきましたよね。
『ジョーカー』と世界観を共有している? 『リターンズ』オマージュ濃厚の可能性も!?
一方、今回の『ザ・バットマン』はホアキン・フェニックスの『ジョーカー』(2019)に近い、ないし繋がっているという説もあります。まず、先ほど書いたピエロ団は『ジョーカー』の最後に登場したピエロ・マスクの暴徒の流れを組む者たちである。マット・リーブス監督は『チャイナタウン』(1974年)や『フレンチ・コネクション』(1971年)、『タクシードライバー』(1976年)といった70年代の犯罪映画のテイストを『ザ・バットマン』に採り入れたと言っていたが、『ジョーカー』はまさに70年代を舞台にした映画だった。そして、なによりも映画『ジョーカー』と『ザ・バットマン』のロゴのフォントが似ている……と。
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しかしながら『ザ・バットマン』のメイン・ヴィランはペンギンとキャットウーマンとも言われていたので、それならば『バットマン・リターンズ』へのオマージュ色が強い可能性もあります。
面白いもので、今度の『ザ・バットマン』にはジョーカーが登場しないと言われているからこそ、逆にジョーカーの影を無意識に追い求めてしまって、この予告の中に『ダークナイト』らしさや『ジョーカー』とのリンクを感じてしまうのかもしれません。
『ザ・バットマン』がどのような作品になるのか期待しつつ、もう一度過去のバットマン映画を見直してみたいですね。
文:杉山すぴ豊
『ザ・バットマン』は2021年日本公開予定
第2回「DCファンドーム」は2020年9月13日(日)開催