年収50万の夢追いダメ夫! ……を容赦なく罵る妻!!
映画『喜劇 愛妻物語』は、『百円の恋』(2014年)や『こどもしょくどう』(2018年)の脚本で知られる足立紳の監督デビュー作だ。濱田岳が年収50万の売れないダメ脚本家・豪太を、水川あさみがそんなダメ夫を支える毒舌で酒好きの妻・チカを演じ、文字通りガチンコ勝負を繰り広げる本作。序盤から、娘のアキ(新津ちせちゃん可愛い!)が両親の顔色を伺って色々と我慢してそうな姿に切なくなってしまうかも?
ヒモ夫の豪太は浮気できるような甲斐性もなく、なんとかチカとの“夜の営み”のために奮闘する。しかし、毎度そのフラグを次々とへし折り、豪太のダメさ加減を鋭く突いてブチのめすチカ。あ~、こういう夫婦いるよね、早く別れなよ! と誰もが思うシチュエーションだ。幼い子どもがいなければ、こんなダメ夫は速攻で捨てられてもおかしくないだろう。既婚者でなくとも夫婦喧嘩のシーンはキツいし、思わず「もう早く別れて……」と祈ってしまう。
しかし、そんな一家の生活を(良い方向に)激変させかねない“幸運”が転がり込んでくる。豪太のプロットが認められ、四国を舞台にした物語を台本化するよう依頼されたのだ。それと同時に、以前書き上げたホラー映画の脚本もほとんど採用というところまでこぎつけていた。豪太はここで勝負に出て、四国への取材も兼ねた家族旅行を提案。旅行先でチカとのセックスを画策するが、なぜか事態はどんどん悪化してゆき……。
夫婦だからこそ生まれる絆! それでも共に生きてゆく“令和版「おもろい夫婦」”
濱田岳がボンクラを演じたらピカイチなのは、ドラマ『釣りバカ日誌』(2015年~)の浜崎伝助役で証明済み。とはいえ、これほどのクズ夫はハードルも高かったはずだが、それを愛嬌でカバーしつつ自然に演じてみせたのはさすがである。そして特筆すべきはチカ役の水川あさみだ。
所帯じみた格好で酒をあおる毒舌妻を見事に演じ、口喧嘩シーンでは濱田を食う勢いで空間を支配する。水川自身は2019年に結婚したばかりだが、なりふり構わず育児と仕事に奮闘するリアルなママっぷりは、子を持つ女性であれば共感必至だ。そして、この夫婦のバトルを正面から受け止めつつ一人っ子の孤独を醸し出し、ときおり寂しげな表情を見せる新津ちせの演技も印象的だった。
後半、豪太の仕事は次々と窮地に追い込まれてゆき、密かに夫の才能を信じてきた妻は誰よりもショックを受ける。悲しみ嘆く妻と、それを受け止めようとする夫、不器用な家族の再生……。序盤の“別れればいいのにモード”から一転、本気でこの夫婦を応援したくなってくるから不思議だ。
ひと昔前には、ダメ夫を全力で罵る夫婦漫才で人気を博した「唄子・啓助のおもろい夫婦」(1969~1985年)なんてトーク番組もあったが、いつの時代も変わらない“支え合う夫婦”を描いた本作は、令和版「おもろい夫婦」とも言えるだろう。……豪太はマジでヤバイので心を入れ替えた方がいいとは思うが。
『喜劇 愛妻物語』は2020年9月11日(金)より全国公開
『喜劇 愛妻物語』
売れない脚本家の豪太は、大学で知り合ったチカと結婚して10年目。5歳の娘のアキがいるが、脚本家としての年収は50万円程度で、もっぱら生活費はチカのパートに頼っている。若い頃は豪太の才能を信じて支えてくれていたチカも、今では豪太の情けなさに呆れ果て、口を開けば罵倒の言葉が飛び出す毎日だ。しかし豪太のさしあたっての問題は、チカと3ヶ月セックスしていないこと。夫婦仲はほぼ冷め切っているが、日夜タイミングを見計らい、チカのご機嫌を取り、あらゆる手段を使ってセックスに持ち込もうとするのだが拒絶され続けている。そんな折、豪太は取材旅行と称して四国への家族旅行を提案し、旅行中になんとかセックスしようと画策するのだが……。
制作年: | 2019 |
---|---|
監督: | |
出演: |
2020年9月11日(金)より全国公開