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高校生が“麻薬密売”で大成功⁉ Netflixドラマ『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』はノンフィクションコメディ

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ライター:#椎名基樹
高校生が“麻薬密売”で大成功⁉ Netflixドラマ『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』はノンフィクションコメディ
Netflixオリジナルシリーズ『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』独占配信中

私は『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』をドキュメンタリーだと思っていた。Netflixではドラッグを扱ったドキュメンタリーがたくさん配信されているので、この色気のない説明的なタイトルを見れば大抵の人が、そう思うのではないか? しかし、友人に「おもしろいよ」と勧められて、このタイトルが連続ドラマシリーズの邦題であることに気がついた。

Netflixオリジナルシリーズ『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』独占配信中

原題は『How to Sell Drugs Online (Fast)』。わざと説明的なタイトルをつけて最後に括弧書きを付け足すことで、これがドキュメンタリーでないことをエクスキューズしているのだろう。括弧書きの効果でお茶目さも加味されていて、高校生を主人公にしたコメディー作品らしさも表現されている。つまり有り体に言ってこの邦題は失敗だ。作品の個性となっている「同時代性」もぶち壊しにしている。「完全自殺マニュアル」が元ネタでしょ? 30年前の本だよ。「括弧書き」がこの作品タイトルの最大のミソなのに取っ払ってどうする。「MDMA始めました(ネットで)」だろ(←もっとダサイ!?)。

モデルはドラッグをネットで密売した引きこもり青年!? 実話ベースの連続ドラマ

改めて『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』はフィクションの連続ドラマである。しかし、実際の事件を元ネタにしている。それは2015年、ドイツの都市ライプツィヒで20歳の男が逮捕された事件。男は2013年からネットを通してドラッグの販売を始め、約400万ユーロ(約5億3000万円)を売り上げた。支払いは仮想通貨(ビットコイン)で受け付けた。男は社会から孤立していて、同居する母親を2年間寝室に入れさせなかった。男の名前はマクシミリアン・Sとのみ公表された。

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男の内面は未成熟であると判断され少年法が適用されたため、少年刑務所に“わずか”7年の禁固刑が判決として言い渡された。男が逮捕されたきっかけは、自宅近所の同じ郵便局を使用していたことだった。逆に言えば、男が構築した暗号化されたドラッグショッピングサイトからは、身元がバレなかったのだ(!)。

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ドラッグ、ネット販売、仮想通貨、引きこもり、高度なプログラミング技術。なんとも現代的な事件である。そんな事件を題材にしているためか、本作はコンピューター技術に関する、現代生活の様子を意識的に多く描いている。

イマドキなドイツの若者の生態が新鮮! マフィアのダサめ選曲などディティールにコダワリあり

オンラインゲーム、Netflix、 インスタ映えばかり意識する9歳の少女、高度にスマホを使いこなす主人公ら高校生たち。ドラッグを主人公たちに提供するオランダのマフィアが乗っている車はテスラである。オランダからドイツに主人公を送る際、マフィアの男は、ハンドルから手を離しシートを倒して自動運転にする。わざとそんなシーンを入れる。

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余談であるが、オランダマフィアが車中でかける音楽が、必ずダサめの実にオランダ的なガバなのは、私的にはツボだった。そんな具合に、ヨーロッパ的な日常が小ネタとして差し込まれているところが、この作品の新鮮さだ。なんと言ってもドイツ産の連続ドラマなのだ。そんなの見るの初めてだ。ドイツ映画ですら記憶にあるのは『es[エス]』(2001年)くらいだ。そういえば、あれも実際の話を基にした時代を映し出す作品だった。

Netflixオリジナルシリーズ『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』独占配信中

『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』には、ドイツの現在の高校生の生態が描かれていて、実に新鮮だ。教室の様子。生徒たち教師たちが着ている洋服。クラブの雰囲気&かかっている曲。高校生のドラッグに対する距離感。ドラマとしてデフォルメされているだろうけれど、今まで見たこともなかったドイツの若者の生態が新鮮に感じる。

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出演する若い女優たちもアメリカ作品には登場しない、ヨーロッパ的な独特なキュートさがある。特にハッカーの少女キーラを演じたレナ・ウルツェンドフスキは、東欧にルーツがありそうな独特なルックスで、今まで見たことがないタイプの女優だ。

現代的な素材をポップな映像表現でラッピングした新しさに溢れたドラマ

作中曲もヨーロッパのヒットチャートを賑わしている、現在のヨーロッパヤングの日常のテーマソング(多分)といった感じで、アメリカドラマとはちょっと違う選曲だ(曲調は似ているけど)。そのアーティストの顔ぶれを見ると、ドイツ、デンマーク、南アフリカなど様々な国のアーティストであることに改めて驚く。私が高校生だった1980年代はネーナの「ロックバルーンは99」が世界的にヒットし、ドイツのバンドがアメリカのチャートに入るのは初めてだなんて騒がれていたのになぁ(遠い目)。

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一般人がドラッグの密売で大金を稼ぐというストーリーなので、本作は『ブレイキング・バッド』(2008~2013年)と比較されることが多いようだ。しかし作品のテイストはまるっきり異なっている。前述したように 『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』はコメディー作品だ。

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主人公が密売に手を染めるきっかけは、彼女のご機嫌を取るためにエクスタシーを入手したこと。物語は恋愛模様を中心に描かれる。事件の実際の犯人は「引きこもり」であったが、ドラマでは普通の高校生である。

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高校生3人で行うドラッグのネット販売はまるで部活動のようだ。ドラッグの供給元のマフィアは、簡単に人を殺す冷酷さであるが、どことなくコミカルに描かれている。『ブレイキング・バッド』のむせるような湿気はない。非常に現代的な素材を今風のポップな映像表現でラッピングした、とてもカラフルで新しさに溢れたドラマである。

文:椎名基樹

『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』はNetflixで独占配信中

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『ドラッグ最速ネット販売マニュアル』

元カノの気持ちを取り戻そうと、自室のコンピューターでドラッグのネット販売を始めたオタク男子。たちまちのうちにヨーロッパいちのドラッグディーラーに。

制作年: 2019
出演: