『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』は、『最強のふたり』(2011年)のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ監督による、実話に基づいた映画だ。
自閉症ケアの難しさとは? ヴァンサン・カッセルが子供たちと真摯に対峙する
ヴァンサン・カッセル演じるブリュノは、自閉症の子供をケアする民間施設<正義の声>を運営している。支援が強く必要な者ほど医療施設に入所を断られてしまう状況があり、そういった子供たちを積極的に受け入れていた。<正義の声>自体は公的な施設から児童受け入れを依頼されるほど地域では信頼される存在になっていたが、国にとっては無認可の施設であり、監査局から閉鎖を命じられる危機にさらされるところから物語は始まる。
自分は“自閉症”という言葉に対して、なんとなくこういうことだろうというイメージを持っていたのだが認識を改めた。この作品に出てくる人物たちだけを見ても、一人ひとりの状況はかなり違っていたからだ。そういった部分にケアの難しさがあることは分かっていながらも、大人数を受け入れるような公的組織ではケアしづらい症状の者を断らざるを得ないことも理解できた。
問題を起こすなどして、いわゆる社会生活が難しくなった若者に対して<寄港>という団体が支援を行っており、運営しているのはレダ・カテブ演じるマリク。<正義の声>にはその若者が手伝いに来ている。児童は若者にケアされることで、また若者はその仕事を与えられることで一つの循環が成立している。それこそ社会だなと思うと同時に、自分は自閉症の人々を支援することが特別なことだと思っていたことに気づかされて、これも改めようと思った。
観客を強引に感動へと誘い込もうとしない演出から滲み出る製作者たちの誠意
日本では1000人のうち3人程度が自閉症と言われているそうだが、どこまでを自閉症とみなすかで大きく変わるという。“自閉症”というのは、人を診断する便宜上の言葉なんだろうと思った。紛れもなく一人ひとりに人生があって、また支え合う人との間にも様々なことがある。ただ近くにそういう存在が居たり、自分から目を向けないと知ることができない世界だなと思ったし、本作ではそういうことが精緻に、一部コミカルにさえ描かれていて、確実に自分の生活と地続きの世界なんだなとすんなり入ってきた。
冷静な視線や過剰な演出が感じられないところは『最強のふたり』と共通していて、とても好みだった。音楽はドイツのGrandbrothersで、こちらも美しいピアノの旋律とミニマルなリズムで全体に冷えた印象を与えていて、観客を強引に単純な感動に誘い込もうとしない誠実さを感じた。
文:川辺素(ミツメ)
『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』は2020年9月11日(金)はTOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー
『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』
ブリュノは今日も朝から大忙し。自閉症児をケアする施設<正義の声>を経営しているのだが、どんな問題を抱えていても断らないために、各所で見放された子供たちでいっぱいなのだ。<正義の声>で働くのは、ブリュノの友人のマリクに教育されたドロップアウトした若者たち。どこから見てもコワモテのふたりだが、社会からはじかれた子供たちを、まとめて救おうとしているのだ。その成果は現れ、最悪の問題児だったディランと、最も重症のヴァランタンの間に、絆が芽生えようとしていた。だが、無認可・赤字経営の<正義の声>に監査が入ることになり、閉鎖の危機に迫られる。さらに、ディランが目を離した隙にヴァランタンが失踪するという事件が起き──。ヴァランタンはどこへ消えたのか? そして施設はこのまま閉鎖に追い込まれるのか? 救いの手が必要な子供たちの未来は──
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年9月11日(金)はTOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー