※このコラムには、映画の結末について触れている記述があります。予めご了承の上でお読み下さい。
『バード・ボックス』それを見たものは、死を選ぶ
サンドラ・ブロック演じる主人公のマロリーは子供を身ごもっていた。しかし、彼女には一緒に育てる夫がおらず妹のジェシカが病院に付き添いで行っていた。ある日、いつものように健診のため病院へ行くと、マロリーは豹変した患者が自殺をする場面に遭遇。ニュースで報じられていたヨーロッパやロシアで広まった謎の集団自殺が、ついにアメリカでも起きていることを察する。パニック状態の街を車で逃げる二人だったが、ジェシカが運転中に“あるもの”を見てしまいマロリーを残して自殺する。マロリーは近くの家に逃げ込み、そこに立てこもっていた人々とサバイブしていくのが映画の本筋である。
籠城戦で最も重要なのは、一緒に立てこもるメンバー
本作でも従来のシチュエーション・ホラーで愛用される籠城戦が取り入れられており、そこに欠かせないハートフルで個性的なキャラクターたちが登場するのも魅力的だ。
マロリーを救ったことで妻を失ったダグラス、そして謎にイケメンなトムに、太っちょのスーパー店員チャーリー、マロリーが救った妊婦のオリンピアに、警察になることを夢見る女子とジャンキー青年。
本来であれば絶対に恋に落ちることのない警察官女子とジャンキーの間で、恋(というか性愛)が生まれるシーンも面白い。よく映画の中に(特にホラー映画で)、世紀末なのに何故かセックスをはじめるバカップルが出てくると思う。そして彼らがいちばん最初に、そして大体行為中に、殺されたりするんだけど、彼らがセックスをするのにも深い本能的な理由がある。
というのも、人間の性欲は「第一性欲」と「第二性欲」の2種類がある。この、「第二性欲」が性交を実施する部分と言われているのだが、男性はこれが視床下部の「背内側核」にあることで、生命の危機(例えば飢餓とか)になると「子孫を残さなきゃいけない」と思って性欲が高まるようになっているからだ。どうか彼らを非難しないでやってほしい。
何故「その人達」は世界を直視できるのか
そして面白い設定なのが、大多数が目隠しをしないと死ぬという世界の中で、目隠しをせず世界を見ることができる人達がいる、というもの。その人達は異常者だったことが明かされる。マロリーたちが立てこもっていた家に、そのうちの一人が紛れ込んできて、生存者たちを躊躇なく殺していくわけだが、彼は何かに取り憑かれたかのように“あるもの”の絵を書いていた。ちなみに“あるもの”=その人達が最も恐れるもの、というぐらいしかわからない。また、後にマロリーが川を下っている時に出会ったこの種の男は「目を開けてこの美しい世界をよく見て!」などと訴える。
何故、異常者がこの異常な世界を受け入れられたのか。おそらく、彼らは毎日自分が最も恐れるもの、つまり「闇」に向き合ってきた。そして、その闇である自分の“あるもの”が目の前に具現化している光景は、他人から「イカれている」と思われていた彼らにとって一種の自己肯定となるのではないだろうか。
例えば「怖いピエロが襲ってくるんだ!」と叫ぶ男がいたとして、実際周りにそんなものはいないから彼が精神異常だと認識される。しかし、その異常な世界ではそのピエロがちゃんとそこに実物として存在するのだ。すると、彼は「ほら、本当にいたじゃないか」となる。自分は間違っていなかった、と思える異常な世界は彼らにとって“美しい世界”なのかもしれない。だからこそ、人に見せたいのかもしれない。自分の“正しさ”を証明するために。
マロリーの母性が目覚める過程を描く
本作は、シチュエーション・ホラーというジャンルの中で、主人公マロリーの母性が目覚める過程を描いている。立てこもっていた家で一緒に暮らし、出会った頃は同じく妊婦だったが、マロリーとともに母親になったオリンピアとの出会いが重要なポイントとなる。ある日、親しくしてたオリンピアが突然現れたサイコ野郎に殺され、彼女の娘も育てなければいけなくなるマロリー。彼女は自分の息子やオリンピアの娘に名前をつけることもなく、「ボーイ」「ガール」と呼ぶ。そして、外出を禁じられている子供たちは絵本などで青い空や草木、小鳥などに思いを馳せるが、マロリーは子供たちを厳しく叱る。こんな世界で希望を持たせても無駄だと、ある種、彼女自身が未来に諦めていたからだ。
そして、そんなマロリーが安全な場所へ逃げるため子供たちと川を下るシーン。目隠しをして何も見えない中で、急流を恐れながら、それでも自分の力とは別の、“運命”という力によって船は進む。止まれない。これは、手探りではじめる子育て、そして不安を抱きながらも女が母になる過程を表している。
マロリーは途中まで、いざとなったら自分の息子「ボーイ」を守り、オリンピアの娘「ガール」を犠牲にしようとしていた。しかし、それが間違っていることだと気づき、もう二度と子供たちの手を離したりするもんかと、二人の手を強く握った。それが、子供たちを育てる覚悟を決めた瞬間だった。失敗を繰り返しながらも子育てに向き合う姿に共感できた。
“あのシーン”、こういう展開の方がアツかった(妄想)
さて、話題がオリンピアの娘「ガール」になったところで、あのシーンについて取り上げたい。それは彼女がマロリーや「ボーイ」とはぐれて、一人森のなかで目隠しを取ろうとしたシーンだ。マロリーは必死に、遠くから「目隠しを絶対取っちゃダメぇ!」と彼らに叫び続ける。
すると、彼女の元にやってきた「ガール」。カメラのショットは彼女の足元から、徐々に顔を写す。この時、私は一瞬ゾッとした。
というのも、「ガール」が目隠しをとってマロリーの元にやってきたのだと私は信じていたからだ。そうすることで、「ガール」は実の母親オリンピアを失い、マロリーにも我が子のようには愛してもらえないと思い、「ガール」の中で密かに「闇」が育っていて、闇と向き合いこの世界を受け入れられるようになったと思ったからだ。しかし、そんな状況もマロリー自身は目隠しをしているから、気づけない。っというシーンだったら、ぐうの音も出なかったんだけど!実際は、本当に目隠しをしたままマロリーの叫び声を頼りに「ガール」が戻ってきたという平和な展開だった。厭な映画ばかり最近観ている自分を反省。いや、実は目隠し外してないかな?(妄想)
危険な行為が流行!バード・ボックス・チャレンジ事件簿
そして、配信開始と共に世界は本作に夢中になり、2018年12月21日の配信日からわずか1週間で4,503万7,125のアカウントから鑑賞されるという成績を残した。この数字は配信後7日間という条件の中で、サービス史上最も多くのユーザーに鑑賞された作品ということを意味する。
しかし、配信が開始されてから約1ヶ月が経った2019年1月末も、本作の人気は衰えるどころか「バード・ボックス・チャレンジ」という社会現象を巻き起こしているのだ!このチャレンジというのが、鑑賞者が本作に真似て目隠しをしながら何かをする姿を撮影し、SNSにアップするものだ(もちろん、投稿には#birdboxchallengeを添えて)。
だいたいは、目隠しをしながらケーキを作ってみる!みたいな「アホだなあ」と笑って見ていられるものだ。しかし、中には目隠しをした状態で運転するという、本当に危険なものも少なくない。実際、17歳の女子が16歳の女子を助手席に乗せた状態で車を運転中に、バード・ボックス・チャレンジをして追突事故を起こした。幸いにも、怪我人は出なかったようだけど全く笑えない!Netflixの公式ツイッターも、こうした事態を受けて以下のように注意換気をしている。
Can’t believe I have to say this, but: PLEASE DO NOT HURT YOURSELVES WITH THIS BIRD BOX CHALLENGE. We don’t know how this started, and we appreciate the love, but Boy and Girl have just one wish for 2019 and it is that you not end up in the hospital due to memes.
— Netflix (@netflix) January 2, 2019
「こんなことをわざわざ言うなんて信じられませんが、どうかバード・ボックス・チャレンジで怪我をしないようにしてください。何故このようなものが始まったのか我々は把握していませんが、作品が愛されていることには感謝しています。しかし、ボーイとガールへ、2019年の第一の願いとして、鑑賞者の皆さんがミーム(SNSでバズるネタのマネ)のためにチャレンジに挑んだ結果、病院で目を覚ますことにならないよう祈っています。」
みなさん、くれぐれもバード・ボックス・チャレンジは「目隠しをしながらピアノを弾いてみた」くらいにしてくださいね。
『バード・ボックス』に続編の可能性はあり?なし?
本作は、マロリーが複数の“その人達”に追いかけられる中で、ついにセーフシェルターである聾唖学校“バード・ボックス(鳥かご)”に到着したところで終わる。まさかの生存コースのハッピーエンドだ!この終わり方は、続編の可能性を匂わせて仕方ない。
2019年1月末の時点ではNetflixからの正式なアナウンスはないが、実は本作の監督であるスサンネ・ビアがすでに続編の可能性について話していることが英メディアEXPRESSによって報じられている。また、それがスピンオフという形をとる可能性も話されているのだ。成績としては大成功を収めた『バード・ボックス』。関連作品が発表される日は、そう遠くないかもしれない。
文:アナイス
『バード・ボックス』
謎の闇に突き動かされた者たちが相次々と命を絶ち、人口が激減して5年。ここまで生き延びてきた母親が2人の子供を連れて、安住の地を目指す危険な旅に出る。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
脚本: | |
音楽: | |
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