オーストラリア映画の魅力を世界に知らしめた傑作シリーズ
2015年6月に日本公開されたジョージ・ミラー監督、トム・ハーディ主演の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。オリジナルはもちろん1979年から1985年にかけて同じジョージ・ミラー監督、メル・ギブソン主演で3本製作された『マッドマックス』シリーズで、オーストラリア映画の素晴らしさを世界に知らしめるきっかけを作った。あれから35年あまり経た今、オリジナルで興奮した世代も、まったく知らない世代も、改めてこの歴史的傑作シリーズを楽しんでみてはいかがだろう。
すべてはここから始まった! シンプルかつ古典的ながら度肝を抜く壮絶カーアクション
記念すべき第1作は、“今から数年後”が舞台。警官を殺し、MFP(暴走族専門の特殊警察)から改造V8を奪って逃走したナイトライダー(ヴィンス・ギル)を追い詰め、事故死させたマックス・ロカタンスキー(メル・ギブソン)は、ナイトライダーの仲間トーカッター(ヒュー・キース=バーン)率いる暴走族から狙われる身となる。
彼らに妻と子を殺され、復讐に燃えるマックスは、本部から600馬力にチューンナップされた黒いV8を持ち出し、トーカッター一味と対決する。
妻子を殺されて悪に立ち向かう警官といえば、どこかで聞いたことがある設定だし、暴走族一味が鉄道駅に棺を受け取りに行く場面などはまるで西部劇(『白昼の決闘』[1946年]とか)である。このようにストーリーはシンプルで古典的ながら、度肝を抜かれるのはアクションの迫力だ。オーストラリアのどこまでもまっすぐなハイウェイをフルスピードで走り続けるカーチェイスの爽快さは無類のものである。
『マッドマックス2』(1981年)からマックスの経歴を除いてコンセプトが一新され、最終戦争後の未来が舞台となる。
相棒の犬を連れて砂漠を放浪するマックスは、愛車の黒のV8がガス欠になり、小型のジャイロコプターで空をさすらう男(ブルース・スペンス)から石油精製所のありかを聞き出す。凶悪なヒューマンガス(ケル・ニルソン)率いる暴走族から狙われ、脱出を計画していた精製所のリーダー、パッパガロ(マイケル・プレストン)と、ガソリンと引き替えにタンクローリーを探し出すと約束したマックスは、パッパガロたちを助けて、襲いかかるヒューマンガス一味と対決することになる。
第3作『マッドマックス/サンダードーム』(1985年)は、前作からさらに砂漠化が進んだ終末世界が舞台。
飛行機に乗ったジェデダイア(ブルース・スペンス)親子に襲われ、ラクダと財産を奪われたマックスは、砂漠に残された唯一の町バータータウンで、女支配者アウンティ(ティナ・ターナー)に会い、盗まれた財産を返すよう訴える。代わりに目障りな裏の支配者マスター/ブラスターを倒すよう求められたマックスは、球形の檻サンダードームでブラスターと闘うことに。しかし、相手を倒したものの、彼の正体を知ってとどめを刺すのを躊躇したマックスは、砂漠に追放される。瀕死のマックスを救ったのは、子供だけの村から来たサバンナ(ヘレン・バディ)だった。伝説のウォーカー機長に間違われたマックスは、子供たちが夢見る“明日の国”を目指すことになるが……。
やっぱり『2』が最高? 35年を経てファンタジー映画としての魅力に気づく『サンダードーム』の魅力
『マッドマックス2』は、迫力あるカーチェイスの連続で構成された傑作で、シリーズ中もっとも評価が高い。それに比べて『サンダードーム』は、ハリウッド進出を果たし、歌姫ティナ・ターナーを迎えて客層の拡大を狙った大作で、クライマックスにならないとカーチェイスが登場しない。そのため、公開時にがっかりしたファンが少なからずいたのは事実だ。
しかし、35年を経た今の目で見ると、登場人物とストーリーの絡みがしっかり作られていて、ファンタジー映画として面白い。ティナ・ターナーのアマゾネスぶりも見事だし、頭は老人、体は子供の怪人マスター/ブラスターを始めとする奇怪な人物や、砂漠を疾走する二輪、四輪の乗り物の造型。これらのコンセプトは、そのまま『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に引き継がれており、今なお色あせていない。ジョージ・ミラーの才能の凄いところだ。
蛇足ながら、『マッドマックス』で初めてスクリーンに登場するメル・ギブソンの顔がまるで別人なことに、誰もが驚くに違いない。この後ハリウッドに進出し、『リーサル・ウェポン』(1987年)などで大スターとなるのだが、成功に比例して顔の皺が深くなり、飲酒や差別発言が増え、ハリウッドの問題児化していく。そんな先のことなどまだ何も知らない、当時23歳のメル・ギブソンの皺一つない横顔が、悲しいほど初々しい。
文:齋藤敦子