瑞々しい若手俳優&リアル・スケーターたちが紡ぐ成長物語
トレイ・エドワード・シュルツ監督の『WAVES/ウェイブス』やアリ・アスター監督の『ミッドサマー』(ともに2019年)など、相変わらず絶好調なA24が贈る日本公開最新作『mid90s ミッドナインティーズ』。監督・脚本は、ジャド・アパトー作品などで俳優としてキャリアを積んできたジョナ・ヒルだ。
90年代のLAを舞台に街をスケートで駆け回るのは、若手俳優のサニー・スリッチに加え、実際に昨今のスケートシーンを盛り上げるナケル・スミスやオーラン・プレナットなど、ユースカルチャーを体現するようなキャスティング。16mmフィルムで撮られた映像や文字情報だけパッと見ると、ラリー・クラークやハーモニー・コリン的なものを想像したけれど、実際に見てみると、人間の心の機微が新鮮に描かれていた。
なにより最近の個人的イチオシTOP3の1人、アレクサ・デミーが出てるってことで、これはもう見るっきゃないなと(むちゃくちゃ余談ですが、他2人はダイアナ・シルヴァーズとマーガレット・クアリー)。
思春期にありがちな“背伸び”、徐々に綻んでいく家族との関係……
本作は、13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)が兄のイアン(ルーカス・ヘッジズ)に殴られるシーンから始まる。スティーヴィーは外出中のイアンの部屋に忍び込み、エアジョーダン・シリーズや沢山のファミコン・カセットに羨ましそうに触れたり、ウータン・クランのポスターを横目にCD棚から聴いたことのないCDを取り出してこっそり聴いたりメモしたりしてる。まずここで、スティーヴィーは家庭に問題を抱えていて、大人への憧れや、自分の意識の外側に出ていきたいというテーマを描いていることがわかる。
そしてスティーヴィーは、散歩中に見つけたスケートショップで家庭に事情を抱えたスケーターたちと出会う。彼らとの交流を通して急に大人になったような気持ちになるが、家庭内の摩擦は増えていくばかりだ。
自分自身の思春期を振り返ってみると、背伸びするために嘘をついたり、身の丈に合ってないことを無理にしてみたりってことが、1つや2つあったように思う。それと同じようにスティーヴィーは常に見栄を張って、むりやり自分を大きく見せようとするけれど、当然のようにどんどん綻びを見せていく。
誰かと何かを“メイクする”ということ――映画に込めたジョナ・ヒル監督のメッセージ
出入りし始めたスケートショップで出会ったルーベン(ジオ・ガリシア)にタバコを勧められて、初体験なのに「吸うけど、この種類じゃない」と言ってみたり、エスティー(アレクサ・デミー)との会話では、デートなんてしたこともないのに「去年したよ。しかもフロリダで」とうそぶいてみたり。小さな嘘のディティールを細かくすることで、嘘をより色濃く感じさせてしまうことって、よくある。
驚いたのは、この感覚は全世界のティーンに共通する感覚なんだということ。その微細な心の動きを掬い上げる演出は、俳優として青春コメディから社会派ドラマまで様々なキャラクターを演じてきたジョナ・ヒル監督だからこそのものだろう。観ていてむず痒くなりそうな嘘をつくスティーヴィーだけど、そんな彼がますます愛おしくなってくるのだ。
それは、下っ端作業でも仲間に加われたような気分になって嬉しそうな表情を見せたり、黒人は日焼けするのか? というブラックジョーク的な質問に対して「黒人ってなに?」と尋ねるような純粋さとも無関係じゃない。これはジョナ・ヒル監督のメッセージのような気もしていて、人と何かをメイクしていく時間の尊さや、相手に対してのボーダーレスな尊敬の念を忘れないってことを伝えたいんだと思う。
ちなみに編集のニック・ホウイは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)や『レディ・バード』(2017年)などのグレタ・ガーウィグ監督作品で活躍しているが、本作での編集も素晴らしかった。ハービー・ハンコックの「Water Melon Man」に合わせたパーティのシーンや、終盤の車中での会話など魅力的なシーンが盛り沢山なので、是非そちらも頭の片隅に置いておいてほしい。
文:巽啓伍(never young beach)
『mid90s ミッドナインティーズ』は2020年9月4日(金)より公開
『mid90s ミッドナインティーズ』
1990年代半ばのロサンゼルス。13歳のスティーヴィーは兄のイアン、母のダブニーと暮らしている。小柄なスティーヴィーは力の強い兄に全く歯が立たず、早く大きくなって彼を見返してやりたいと願っていた。そんなある日、街のスケートボード・ショップを訪れたスティーヴィーは、店に出入りする少年たちと知り合う。彼らは驚くほど自由でかっこよく、スティーヴィーは憧れのような気持ちで、そのグループに近付こうとするが……。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
2020年9月4日(金)より公開