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ソ連による“人為的飢饉”を告発せよ! ホロコーストと並ぶ世紀の大虐殺を描く『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
ソ連による“人為的飢饉”を告発せよ! ホロコーストと並ぶ世紀の大虐殺を描く『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

1930年代の世界的な大恐慌のなかで、なぜソビエト連邦だけが潤っているのか? そんな素朴な疑問をヨシフ・スターリンにぶつけるべく、かの国に赴いたジャーナリストがいた。文字通り命賭けで真実を追求したジャーナリストの生き様を通して、国家による虐殺行為と欺瞞を暴く『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は、フェイクニュースに翻弄される現代人にも響く実話ベースのポリティカル・スリラーだ。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』© FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE

青年記者が単身カチコミ! 大恐慌時代のソ連とウクライナの真実

本作の主人公は英国首相ロイド・ジョージの外交顧問を務める記者、ガレス・ジョーンズ。かつてアドルフ・ヒトラーへのインタビューを成功させたことで知られる彼は、当時のソ連の異常な羽振りの良さをスターリン自身から聞き出そうと単身モスクワに乗り込む。その凄まじいカチコミ精神からはにわかに信じがたいが、ジョーンズは実在した人物であり、ソ連支配下のウクライナで起こっていた人為的な大飢饉(ホロドモール)を世界中に知らしめた功労者である。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

映画序盤、意気揚々とモスクワに上陸したジョーンズだったが、かつて自分をヒトラーと繋いでくれた旧知の記者は何らかの重要な情報を掴んだためか、不可解な死を遂げていた。ジョーンズも早々に何らかの圧力による妨害に晒され、徐々に異常な実情を把握していく。物語序盤から、ジョーンズと交流するほとんどの人はあからさまに冷たく、または嘲笑するか呑気に呆けていて、この先に待ち受けるさらなる孤立を示唆しているかのようだ。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

ジョーンズを演じるジェームズ・ノートンは日本での知名度は低いが、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)に出演していたのでその顔に見覚えのある人は多いだろう。モスクワに駐在しているピューリッツァー賞受賞記者ウォルター・デュランティをいやらしく演じるのは、『フライトプラン』(2005年)のピーター・サースガード。自責の念と保身に揺れる記者エイダを『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019年)のヴァネッサ・カービーが好演している。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

路上に転がる遺体、目を覆いたくなる人肉食……ウクライナの荒廃ぶりを印象づける灰色の世界

血気盛んに「真実を知り、伝えるために」と謳うジョーンズだが、実際にその目でソ連~ウクライナの内情を知るまでは、当然ながらその困窮ぶりに全く想像が及んでいなかった。雪が冷たく吹雪くなか強制労働を課せられ、一粒の穀物にも群がる人々の姿からは、当時のウクライナの性別も年齢も顧みられない地獄ぶりが伝わってくる。青白く痩せこけた子どもたちが無気力に歌うスターリン讃歌の寒々しさ、淡々と馬車で運ばれ遺棄される死体、空腹に耐えかねて家族の亡骸にさえ手をつけてしまう人々……。あらゆるものが魂を抜かれたように灰色がかっていて、そのなかでヌラリと光る肉片や心細い炎が、かろうじて生を感じさせる。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

ほぼモノクロ映像と化したウクライナのシークエンスは、まるで銀塩写真の中を歩いているかのようで、観ていて思わず身体が硬直してしまうほど。やがてジョーンズも寒さと孤独に苦しみ、樹皮を食べてなんとか空腹をしのぐ。やや性急な展開とアーティーな演出で観客を振り回すきらいはあるものの、衝撃的な映像はどれも核心を捉えていて説得力を失うことはない。惨状の描写が足りないのでは? と感じる人もいるようだが、幼子たちによる人肉食まで描いている作品に対する印象が“描写不足”であるならば、それは歴史を正しく学ぼうという気持ちと最低限の想像力、そして正義を求める心の欠如ではないだろうか。脚本家の祖父はホロドモール・サバイバーだというから、脚色以上の改変もないはずだ。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

理想主義を笑うな! 暗く諦念に満ちた現代社会に生きる我々が知るべき衝撃の真実

ソ連から這々の体で帰国したジョーンズは、ウクライナの子どもたちが歌っていた恐ろしい歌が脳裏にこびりついて離れない。そして心身ともに疲れ果てていたところ、ある契機を見出しイチかバチかの大勝負に打って出る。真実を告発しようとするジョーンズの立場が危うくなっていく顛末は、権力者が正当性を主張するために都合よく批判するフェイクニュースが、むしろいつの時代も権力に与してきたものだということを証明している。

ジョーンズは何かと先走り気味ではあるものの、揺るぎない信念を持つ青年だ。彼が自身を鼓舞するかのようにたびたび引用するのは、故郷ウェールズの詩人タリエシンによる「木の戦い」という猛々しい詩の一節。当然こういった演出はフィクションだと思われるが、情報があまり残っていないらしいジョーンズという人物の輪郭を浮かび上がらせるのに役立っている。かのジョージ・オーウェル著「動物農場」のヒントになったかのような描写でドラマチックに盛り上げつつ、しかしオーウェルに頼らずともジョーンズの半生は十分に衝撃的。なにしろ独裁政権下の異国に単身(違法に)乗り込んで取材しようというのだから、我々には到底想像できない精神力である。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved

とはいえ歴史に重要な軌跡を遺した云々……みたいに広く語り継がれている人物ではないため、彼の清廉潔白で理想主義的な態度もあって、どこかお伽噺のように感じてしまう人もいるだろう。実際、彼のキャラクター描写も多少の期待を乗せている部分はあるかもしれないが、数十年を経ても本質の変わらない諸問題を抱えた現代社会に生きる我々にとって、その期待の部分こそが本当に必要なものなのだということを改めて痛感する。ソ連による非人道的な悪政、その犠牲になった多くの人々、そして信念を貫き真実を伝えたジョーンズの偉業は広く知られるべきであり、その点において本作は多大な貢献を果たすはずだ。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

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『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

1933年、ヒトラーに取材した経験を持つ若き英国人記者ガレス・ジョーンズには、大いなる疑問があった。世界恐慌の嵐が吹き荒れるなか、なぜスターリンが統治するソビエト連邦だけが繁栄しているのか。その謎を解くために単身モスクワを訪れたジョーンズは、外国人記者を監視する当局の目をかいくぐり、すべての答えが隠されているウクライナ行きの汽車に乗り込む。やがて凍てつくウクライナの地を踏んだジョーンズが目の当たりにしたのは、想像を絶する悪夢のような光景だった……。

制作年: 2019
監督:
出演: