1967年公開の岡本喜八監督によるノンフィクション作品『日本のいちばん長い日』は、1945年(昭和20年)7月26日、米国や英国をはじめとする連合国がポツダム宣言によって日本へ無条件降伏を勧告するシーンから始まる。終戦の半月ほど前、広島・長崎に原爆が投下される1~2週間前の出来事だ。ご存知の通り、日本はその後ポツダム宣言を受諾し降伏することになるわけだが、つまりこの時点で降伏しておけば原爆による数十万人の犠牲者も出なかったことになる。そんな導入からも、本作が何を描こうとしているかは明らかだろう。8月15日、終戦記念日に改めて岡本監督の傑作を鑑賞し、戦争の愚かさ、無益さを噛み締めたい。
超豪華キャスト集結! 会話劇ながら岡本監督のテンポ良い演出が冴えわたる
まず本作のキャストは超がつくほどの豪華さで、三船敏郎を筆頭に笠智衆、山村聡、志村喬、黒沢年男、天本英世、児玉清、加山雄三などなど、若い世代の映画ファンにも馴染みのある面々が集結したオールスター映画である。旧い邦画には疎いしキャストが多いと話についていけるかな……なんて不安を感じた人もご安心を。コッテリ脂ギッシュながっつりキャラ立ち名優たちによる喧々諤々の群像劇というだけで、冒頭からグイグイ引き込まれるはずだ。
50年以上も前のモノクロ日本映画、それも2時間半という大作ながら全く退屈しないのは、終始テンポの良さをキープする岡本監督の手腕。綿密な絵コンテを用意して撮影に挑み、ナレーションとテロップを活用したサクサク展開で、なんと前半の20分ほどで原爆投下~天皇の玉音放送(終戦)前日までを描ききってしまう。会議シーンをはじめ基本的に会話劇であるにもかかわらず、脂汗ダラダラな登場人物たちのどアップを多用する編集で緊張感をキープし、一切飽きさせないのもさすが。さらに後半は、首が飛び血が吹き出す地獄絵図と化していく……。
そういった演出が、岡本監督を敬愛しているという庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(2016年)に多大な影響を与えたことは、若い世代にとって本作を観る大きな理由になるだろう。
戦争被害者たち、失われずに済んだ多くの命に黙祷
原爆投下後、うだうだと降伏を先延ばしにした結果、さらに多くの都市が爆撃によって焼け野原になり、もはや日本の敗戦は火を見るより明らかだった。その責任が、お互いに非をなすりつけ合い、敗北を認めようとしなかった軍人や政治家たちにあることも。言うことだけは勇ましい軍人たちの頭は歪んだ大義に支配されていて、結局その非現実的な理論は保身にしか見えない。後半は、そんな陸軍将校たち(敗戦認めないぞ派)によるクーデター、宮城事件がメインに描かれることになる。
黒沢年男演じる陸軍の畑中少佐のブチギレ演技は凄まじく、大西軍令部次長(二本柳寛)が特攻隊の増員を懇願する様子や、井田中佐(高橋悦史)のヒロイズムに浸るような物言いもゾッとする。そんななかでも、三船がさすがの手際の良さで見せるクライマックスの衝撃的な◯◯シーンは全映画ファン必見の凄まじさだ(モノクロなのでショック度は抑えられているが)。
国民そっちのけの暴走政治や公文書の隠滅、事実を追求しないメディアの怠慢を野放しにすれば、子や孫の世代に悲劇の連鎖が受け継がれることになってしまう。敵の攻撃ではなく、日本人の古くさい形式や建前によって失われずに済んだはずの数百万の命が無残に散っていったことも、我々は重く受け止め続けなくてはならない。戦争は本当にダメ。ゼッタイ。
『日本のいちばん長い日』(1967年)はAmazon Prime Videoほか配信中
『日本のいちばん長い日』(1967年)
昭和20年8月14日正午。物語は皇居内の御前会議から始まる。ポツダム宣言受諾をめぐる陸軍省と政府との激論、対立。自刃の覚悟をした阿南陸相。玉音放送の準備に腐心するNHKと宮内省。徹底抗戦を主張する青年将校たちの玉音盤奪還作戦、反乱軍による首相官邸襲撃……。そして翌15日正午、玉音放送。
制作年: | 1967 |
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