「呪怨の家」に触れてしまった人々をデストロイしていく伽倻子の恐怖!
Netflixオリジナルドラマ『呪怨:呪いの家』(2020年)絶好調記念! ということで、今回は劇場版『呪怨』(2002年)をご紹介。
『呪怨(劇場版)』は、2000年にリリースされたオリジナルビデオ版2作の続編。引き続き、かつて陰惨な殺人事件が起きたとある一軒家(ロケ地も同様)と、何らかの形で「呪怨の家」に触れてしまった複数の人々、そして彼らをデストロイしてゆく伽倻子をパワフルに描く。
今回、伽倻子の餌食となってしまうのは、「呪怨の家」に行くことになってしまった介護ボランティアの理佳(奥菜恵)、現「呪怨の家」の住民である勝也(津田寛治)と和美(松田珠里)の夫婦、勝也の妹・仁美(伊東美咲)、そしてかつて「呪怨の家」で起きた事件を担当していた元刑事・遠山(田中要次)などなど。ビデオ版同様オムニバス形式も引き継がれ、時間軸が交差する若干わかりづらい構成なのですが、実はこれが本シリーズの妙。
観客は推理小説を読むように自らの頭でパズルを組み立てていくのですが、その観客の「冷静さ」をふいに現れる伽倻子&俊雄が圧倒的なわけのわからなさでブチ壊しにくるから余計恐怖度が増していくんですね。
それもそのはず、本作ならびに清水崇監督の手がけた『呪怨』シリーズで清水監督が目指したものというのが「荒唐無稽なほどに出てくる幽霊」というもの。
90年代Jホラーの礎「小中理論」を限界突破した“観るお化け屋敷”
『呪怨』の一世代前。90年代のJホラーといえば、Jホラーの礎ともいえる小中千昭脚本の『サイキックビジョン 邪願霊 ~狙われた美人キャスター~』(1989年)、鶴田法男監督の『ほんとにあった怖い話』シリーズ(1991年~)や、中田秀夫監督・高橋洋脚本の『リング』(1998年)など。そこでは「小中理論」という方法論が確立され、心霊写真のように輪郭がぼやけた、漠然とした不条理な存在の幽霊=恐怖が描かれていたのでした。
しかし、清水監督が「呪怨」シリーズで提示したのは、「小中理論」とは真逆のもの。「小中理論」的にはタブーであった幽霊の主観視点もあるし、幽霊ナメもある。幽霊が劇中何度もはっきりと全身を晒し、さらには「ああああああ」と声を出して階段を這って降りてくるという荒唐無稽さ! 伽倻子はもはや幽霊ではなく神出鬼没のモンスターともいえるような存在になっていき、「小中理論」を限界突破したのでした。
とはいえ、バンバン現れるといっても「どこで、どうやって現れるのが怖いか?」ということは考え抜かれていて、本作ではシャワー中に髪の中に入ってくる手や、ベッドの中に現れる変態モードの伽倻子、ランチの最中にテーブル下から顔を出すお茶目な俊雄くんなどは、観た者の日常生活までもが歪んでしまうほどなのはご存知の通り。このあたりの徹底した手法は、かのサム・ライミも唸らせ、ハリウッド・リメイク版『THE JUON/呪怨』(2004年)につながり、結果的に実写映画では日本人監督として初の全米興行収入2週連続1位という快挙をもたらします。
ということで、清水監督が確立した<観るお化け屋敷>である『呪怨』。コロナ禍でどこにも行けないこの夏の“おうちレジャー”にはうってつけなのではないでしょうか!
文:市川力夫
『呪怨(劇場版)』はNetflixほか配信中