この映画もきっと、中国のある一瞬の気分が詰まっている
男が狂っていく映画。もうとにかく最初から、いつ止むのか不安なくらい雨は降っているので、だから「じゃあ何が迫り来るのか?」は容易に想像できた。そういう映画だろうなとは思っていたし、よくできてて、“なるほど、賞とるよな”っていう満足感もあった。
雨がどう降るとか、女が何を言うとか、鉄道が並んでるのとか、映った色々を語るだけで全てを説明できちゃいそうな、だからこそちょっと“空虚”ってのもテーマに合致してて、なるほど~っていう感じ。
ある国のある一瞬を「こんな時代だった」って、例えば平成について飲み屋とかで適当に語るのは、簡単といえば簡単かもしれない。だったら岡崎京子を読んだほうが掴めるじゃん? いやいや、あれはある一面だろうが! なんていうやり取りがこれから増えそうだけど、この映画もきっと、中国のある一瞬の気分が詰まっているんだろうと思えたのが、いちばん気持ちいいポイント。
嵐はもう来てた? 避けようはなかった?
1997年の中国の田舎。鉄工所で保安員として務める探偵気取りの主人公ユィは、近所で起こる連続女性変死事件の野次馬をしているうちに犯人探しに取り憑かれる。死体は決まって雨の日に出る。同じ殺し方。同一人物の犯行っぽい。もしかして自分とこの工場員の仕業かな……?
ある日、自分の恋人が犯人の好みの女であることに気づいちゃうユィ。殺された女性たちと容姿が近いのだ。おいおい、まさか。ユィ、それはダメじゃん? それはないんじゃん? ということもできちゃえないと、狂っているとは言えない。冷静に冷静に変になっていくユィ。その頃にはもう笑えなくなってる。
最初は、よく笑ってた(気がする)。ファニーなやつでね、「あなたって面白い人ね」なんて女性にからかわれそうな感じの野次馬男だった。犯行現場に顔を出して「あのお、ちょっと立場わきまえてもらえます?」と警部に怒られたりして。そう、その点ではユィは変わらない。ずっと、なんか「おかしな」やつなんだ。
「うふふふふ」。事件に躍起になるユィを女が笑う。あのシーン、よかったなあ。やっぱり、嵐はもう来てた? 避けようはなかった? 後から考えたって、もう遅いけど。
もうちょっとスムーズに狂ってくれたらもっとよかったな。きっかけっぽいきっかけが強めにある。あれ、避けられなかったかなあ。
文:夏目知幸(シャムキャッツ)
『迫り来る嵐』は2019年1月5日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラスシネマ有楽町ほか全国順次公開