▶ この悪役がスゴイ! 『007』ボンドをワニ&サメ攻撃!『消されたライセンス』&『死ぬのは奴らだ』
映画史に残る数々の悪役を輩出した『007』シリーズ。中でも、あまりの人気ぶりに異例の『私を愛したスパイ』(1977年)と『ムーンレイカー』(1979年)の2作に連続登場した“ジョーズ”は忘れ難い。身長2m18cm・体重143kgの巨体に鋼鉄の歯を持ち、見た目のインパクトは強烈。まさに規格外のルックスを持つ男は、映画における悪役の在り方としても規格外の行動でファンの度肝を抜いた。『007』における“ゆるキャラ”ことジョーズを改めて紹介しよう。
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まさに不死身! 鋼鉄の歯を持つ怪力無双の悪役ジョーズとは?
ジョーズが初登場した『私を愛したスパイ』は、核ミサイルを搭載した英国・旧ソ連の原子力潜水艦が突如消息を絶ったことで、英国からはM16のボンド、ソ連からはKGBの少佐アニヤ(元「ビートルズ」のリンゴ・スターの妻バーバラ・バック!!)が指令を受け、共同で捜査にあたる展開だ。彼らが目をつけたのは、海軍会社を持つ大富豪カール・ストロンバーグ(クルト・ユルゲンス)。彼の手下としてボンドの前に立ちはだかるのがジョーズだ。
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武器は、鋼鉄の歯と怪力。その歯で鎖を噛み切れば、襲ってきたサメは噛みついて虐殺。そしてボンドとタイマン勝負を張れば、ボンドの首根っこ掴んで軽々と持ち上げ、バタつかせる。英国紳士然としたボンドも、この時ばかりは形無し。しかも、寝台列車内でボンドと格闘した末に、走っている列車から投げ出されようが、崖から車ごと落下して民家を破壊しようが、彼は死なない。ターミネーターのごとく不死身で、懲りずに何度もボンドの行手を阻む。
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だが我々は早々に、意外な殺傷能力の低さに気づいてしまう。それは『私が愛したスパイ』前半、エジプト・ルクソールのカルナック神殿のシーンでのこと。せっかくボンドとアニヤを捕らえたものの、逃走を図られてしまう。車で走り去る2人に慌てて巨岩を投げつけようとするも、時すでに遅し。振り上げた巨岩を所在なげに落下させると、自分の足に直撃して「イテテ!」っと。ダンディーにシニカルな笑いを放つことが真髄のボンド映画で、悪役にあるまじき失態とベタなオチに、シリーズファンは戸惑いを隠せなかったはずだ。
稀代の怪優にして超愛され俳優でもあった紳士リチャード・キール
非情なスパイの世界において緩和をもたらすジョーズのキャラクター設定は、恐らく演じている俳優リチャード・キールの気質がそのまま反映されているのではないだろうか。
キールはその迫力ある体格から、刑務所内での看守VS.囚人のアメフト対決を描いた映画『ロンゲスト・ヤード』(1974年)での囚人チーム側、さらに香港映画『皇帝密使』(1984年)ではジョーズのパロディ、ビッグG役で出演と、悪役キャラが多かった。だがボンド役のロジャー・ムーアも、『私を愛したスパイ』のルイス・ギルバート監督をはじめとする制作スタッフも、皆が口を揃えて言うのは「彼ほど優しい人はいない」ということ。実際、キールがジョーズのイメージをかなぐり捨て、初のエグゼクティブ・プロデューサーと脚本・主演を務めた映画『The Giant of Thunder Mountain(原題)』(1991年:日本未公開)は、ジャイアント・マウンテンに住む大男と少女の触れ合いを描いた愛らしいファンタジーだった。
そもそも鋼鉄の歯も、長時間着用していると吐き気を催してくるほど合わず、キールにとって目の前のボンドよりも、己の苦痛に打ち勝つ事の方がシリアスな問題だったようだ。それでも男は黙って、ジョーズに徹するべし。そんなキールに制作チームが『ムーンレイカー』で用意したのは、まさかの“LOVE”だった。
ボンドを狙う怪人を改心させたのは……まさかの“恋”だった!
『ムーンレイカー』で今度は、米国から英国へ輸送中のスペースシャトルが消えるという事件が勃発。ボンドは、シャトル建築の責任者である億万長者ヒューゴ・ドラックス(ミシェル・ロンズデール)に接近するも、彼の手下チャー(トシロー・スガ)に命を狙われる。だがチャーは噛ませ犬であり、前振り。2代目殺し屋として、再び登場するのがジョーズだ。ただし、ボンドに攻撃を仕掛けるも失敗を繰り返し、そんな中、手を差し伸べてくれたおさげが可愛いドリー(ブランシュ・ラヴェレック)と出逢って恋に落ちる。後半は、完全に恋に浮かれたジョーズが彼女の影響を受けて改心する。
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『ムーンレイカー』自体、宇宙空間を縦横無尽に跳び回り、『007』シリーズの中でも飛び抜けて“ボンドの世界に不可能ナシ”を実践しているだけに、悪役のキャラ設定崩壊も何でもあり。そして最後に、宇宙ステーションで残されたジョーズとドリーは、発見したボランジェのシャンパン片手に「2人に乾杯」とグラスをチンっ! 異質の甘いシーンと、ジョーズ唯一のセリフがコレ。これはもうスタッフからシリーズを盛り上げた功労者ジョーズへの愛だな、愛。
ところで2作においてボンドとジョーズは、行く先々で一線を交える。ジョーズの鋼の肉体にパンチは効かないとわかっていても、ボンドはお約束のごとく素手勝負に挑む。もはやコレは、プロレス興行か。しかもエジプト、イタリア、ブラジルetc……と、ボンド行く所にジョーズが待ち構えている。スパイなのに、ボンドの情報漏れまくり。いや、”ゆるキャラ”と思いきや意外にジョーズは優秀なのか? ここは一つ映画のマジックを信じて、後者ということにしておこう。
文:中山治美
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