B級映画の巨匠が4年ぶりに怪獣映画を世に放つ!
2016年夏、庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』が爆発的ヒットを記録した。実に12年ぶりとなる日本製作のゴジラ映画によって怪獣の存在が一般層に再認知された夏、その“ド真裏”でひっそり公開されていた、もう一つの怪獣映画があった。『大怪獣モノ』である。
そもそも『シン・ゴジラ』のヒットは公開後の口コミによるものが大きく、それほど宣伝もされていなかったため、公開前には誰もあれほどのヒット作になるとは予想していなかった。ただ、その中で唯一「新作ゴジラの大ヒットとブームの到来」をいち早く予言し、「『シン・ゴジラ』に便乗する!」と堂々宣言していたのが“B級映画の巨匠”河崎実監督だ。
そんな河崎監督が『モノ』以来4年ぶりに世に放つ怪獣映画、それが『三大怪獣グルメ』である。
性格に難アリな人物ばかり!? 怪獣を軸に繰り広げられる三角関係
“三大怪獣”といえば、その元ネタは1964年のゴジラ映画『三大怪獣 地球最大の決戦』であることは特撮ファンなら周知のこと。また『地球最大の決戦』は『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)のオリジナル版でもあることから、『三大怪獣グルメ』も真っ向から“被せ”にかかる河崎監督の奇妙奇天烈な手腕が輝いているといえよう。
本作の主人公・田沼は、超理化学研究所で生物を巨大化する薬品<セタップZ>を開発した天才科学者で、寿司屋の息子。(ちなみに『モノ』にも<超理化学研究所>と<セタップX>が登場する……が、直接的な関係はなさそうだ)
セタップZで巨大化してしまったタコの「タッコラ」とイカの「イカラ」、カニの「カニーラ」という三体の怪獣を巡り、シーフード怪獣攻撃部隊<SMAT>による撃退作戦と、協力のためやってきた田沼、隊員であり田沼が思いを寄せるヒロイン・奈々、そこに現れた研究所の元同僚にしてライバル・彦馬による激しい三角関係が繰り広げられていく。
作風としては、日本の怪獣映画としては珍しく『第9地区』(2009年)のようなドキュメンタリー仕立て。登場人物の性格には総じて問題がありがちで、その人間ドラマには非常にヤキモキさせられるのだが、ここで忘れてはならないのが、この作品は自ら“おバカ映画”と呼称しているということ。まともな人間が一人もいないドキュメント。登場する兵器は常軌を逸しているし、怪獣だってまたしかりだ。
美味しそう!? 特撮ファンが夢想してきたシーフード怪獣が結集
そんな本作に登場する加藤礼次朗氏デザインによる三体の怪獣は、チャーミングにディフォルメされたタコ・イカ・カニそのもの。いかにも河崎監督らしい? いや、監督は『モノ』『アウターマン』(2015年)『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(2008年)等、これまではダイナミックかつ美しい造型の怪獣を撮ってきた実績があり、ここまでコミカルに振り切ったデザインは意外にも珍しい。
ここまでモチーフがそのまんまでわかりやすい、言い換えれば怪獣然としていないという点が実は重要で、なによりこの怪獣映画のキモは、たっぷり尺を割かれたグルメシーン、つまり「怪獣食」にあるからだ。たしかに、核物質や海洋汚染で進化した異形の怪獣では、そもそも食べる気にならない。
『帰ってきたウルトラマン』(1971年)に登場する怪獣「ツインテール」は“エビの味がする”という話はあまりにも有名で、怪獣ファンなら誰しもが一度は食べてみたいと夢想したことがあるだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=_Ha-zK7Conc
タコ怪獣の足を切り取って食べたら、どんな味がするのか? 大ダコ(『キングコング対ゴジラ』[1962年])は“タコ焼き”にできるのか? スダール(『ウルトラQ』[1966年])は“酢ダコ”にできるのか? 誰もが想像しつつ、あえて誰も答えを出さなかったであろう疑問について、本作は真正面すぎるほど真正面から描いている。
「人間が怪獣を食う」という大胆なテーマをぶち込んだ問題作!
暴れる怪獣を倒して、調理して、食う。あらすじにある最終目的は「国立競技場を海鮮丼にすること」……当然、ヘンな映画である。だが怪獣映画というのは、本来ヘンなものなのだ。“怪獣”は元々、決して崇高なものでは無い。醜く、グロテスクで、人々に畏怖され嫌悪される、圧倒的なゲテモノとしての存在であったからこそ輝いてきた歴史がある。
怪獣の神聖化・ヒーロー化、そこから翻っての絶対的恐怖としての象徴化は、半世紀前から何ループも繰り返されてきた。今でこそ世界的な聖典となっている第一作目の『ゴジラ』(1954年)が、公開当時はキワモノとしての扱いを受けつつも大ヒットしたことからもわかるように、怪獣は街を壊し、人を殺し、ブッ倒される、どこまでもバイオレンスでクレイジーなエンタテインメントであってよいはずなのだ。
そんな「人間が怪獣を倒す」という怪獣映画のスタンダードに、「人間が怪獣を食う」というとてつもないテーマをブチ込んだ本作。河崎監督はフグ料理屋で生まれ育ったというルーツがあるだけに、「生き物を切って食らう」という点に関して言えば、これ以上ない適性があるのではないだろうか。この映画、またしても唯一無二。作品の数だけ新境地がある奇才・河崎実の限りなき怪獣魂、まだまだ見届けたい。
文:大内ライダー
『三大怪獣グルメ』は2020年6月6日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
『三大怪獣グルメ』
巨大イカと巨大タコが東京に突如現れた!! イカラ、タッコラと命名された巨大怪獣に、カニのカニーラが加わり東京は壊滅状態に。
テロか、核実験による突然変異か、それとも南海トラフ地震の前兆か?そんな中、疑惑の人物が浮かび上がった。元超理化学研究所員・田沼雄太。生物を巨大化する劇薬の開発中に研究所をクビになり、今は実家の寿司屋を手伝っている男だった。
政府が組織するシーフード怪獣攻撃部隊SMAT司令・響は雄太の動向を探る目的を兼ね、この天才科学者をSMATへ招き入れた。死闘の中、切り落とした怪獣の切り身は誰もが唸るほどの美味だったが、数々の作戦は失敗に終わり、SMATは最後の望みを賭けて「海鮮丼作戦」を決行することに。
果たして東京の運命やイカに!?
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年6月6日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開