観るなら今！ 復讐＆恋愛物語『梨泰院クラス』 差別を許さず正義を貫く若者たち

『梨泰院クラス』は2020年1月に韓国でテレビ放送され、3月の放送終了後から1週間程度でNetflixで配信が始まり、ステイホームな状況とも重なって瞬く間に話題になった。

本作が扱っているテーマは社会問題（LGBTQ＋、人種差別、父子・母子家庭など)や、根強い血縁関係による同族経営や韓国ドラマのセオリーに背いた非格差恋愛など多岐にわたる。しかし、全16話を通して描かれているのは“対立”だろう。

Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中

軸になるのは“対立”！ 正義を貫く若者たちの復讐＆恋愛物語

物語はパク・ソジュン演じるセロイの高校時代から始まる。転校初日に目撃したイジメを許せず殴打し静止したが、イジメていたのはセロイの父ソンヨル（ソン・ヒョンジュ）も長く勤める飲食業界大手＜長家（チャンガ）＞の息子グンウォン（アン・ボヒョン）だった。

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グンウォンの父チャン・デヒ（ユ・ジェミョン）に土下座を求められたセロイだったが、暴力への罰は受けても土下座はできないと伝え、退学する。そんな息子の信念を貫く姿に心打たれたソンヨルは自身も退社する旨をデヒに伝え受理される。ほどなくしてソンヨルは長年の夢だった焼肉屋を開店するためセロイと初恋相手のオ・スア（クォン・ナラ）と共に準備を始める。しかし、バイクでの仕入れの帰りにソンヨルは対抗車に追突され、亡くなってしまう。

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葬儀場で悲しみにくれるセロイのもとを警察官が訪れ、犯人が捕まったことを伝え事故当時の車が映った写真を渡す。それを見たスアはグンウォンがスアに自慢していた車であることに気づき、怒りに駆られたセロイはグンウォンのもとを訪れ彼を殴打し、なぜ父を殺したのかと問い詰める。しかしグンウォンは口を割らず、挙げ句の果てには長家の面子を保つためデヒの鶴の一声で無関係の犯人が替え玉として逮捕される事態に。この暴力事件でセロイも逮捕されてしまうが、グンウォンの罪を隠蔽したデヒや長家に対し、獄中で壮大な復讐計画を練り上げるのだった。

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マイノリティたちを丁寧に描く！ 居酒屋タンバムに集う魅力的な人々

冒頭にも書いたが、物語の主軸は“対立”である。セロイが出所後に開店した居酒屋＜タンバム＞は多様性を受け入れ、個人を尊重する。対してデヒ擁する＜長家＞は昔ながらの価値観で、利益や権力を得ることを最優先とする。

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独裁的なワンマン経営を地でいくデヒは、自身の気分にそぐわない／会社の利益にならないことを行う部下には暴力もいとわない。座右の銘は“弱肉強食”でありながら後継者に息子を据えようと考えていて、昔ながらの同族経営という矛盾も抱えている（これは韓国に限らず根強く残る古い慣習を揶揄しているのだろうと思うが、あくまで個人的に作品を観て感じたことなのであしからず）。

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対してセロイやタンバムに集う人々は、古びた慣習や社会のあり方に対してに徹底して「ノー」を突きつける。そのタンバムの多様性の受け入れに対してだが、セロイは父子家庭で中卒の前科者だし、マネージャーとして雇われるチョ・イソ（キム・ダミ）はIQ162で勉強、芸術、音楽などマルチな才能を持つインフルエンサーだが母子家庭であり、母親との問題を抱えている。調理担当のマ・ヒョニ（イ・ジュヨン）はトランスジェンダーであったり、ホール担当のスングォン（リュ・ギョンス）は元暴力団員で前科持ち、同じくホール担当のトニー（クリス・ライアン）はギニアと韓国のミックスという、いまだに社会で偏見や排除の対象にされがちな人々を受け入れているのだ。

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それも表面的な設定だけでなく、個々の境遇を丁寧に描く。タンバムの面々で訪れたクラブでトニーは人種差別に遭ったり、ヒョニは料理対決番組への出演直前にトランスジェンダーであることを暴露され、周囲から好奇の目を向けられてしまう。ただ、セロイにとっては人種やセクシャリティなど知ったことではなく、クラブのシャッターに「人種差別店！」などと抗議文をスプレーで書きこんだり、ヒョニに対しても徹底して“一個人”として対面するなど常に前を向いている。

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先鋭的だけどベタでもある、古き良き韓国ドラマの枠をすり抜ける新しさ

……と書くと、ああいま流行りの感じね、マイノリティ文化を盛り込んでんのね、と斜に構えてしまう人もいるかもしれない。ただ、この作品は真っ当なラブコメでもあり、思わず目を覆いたくなるような紋切り型の恋愛模様も大いに含まれている。しかし、劇中で描かれるセロイとスア、セロイとイソの関係は、どちらもどこか不完全ないびつさを持ち合わせていて、非ファンタジックな関係として描写される。その姿は、裕福な男性と貧しい女性のシンデレラ・ストーリーという図式が散見される韓国ドラマ界においては、間違いなく新しい。

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退屈な連続ドラマを見ていると間延び感にうんざりすることもある。けれど本作は演者の個々の能力がとても高く、いつのまにか各キャラクターの一挙手一投足にイライラしたり、クスッとしたりする。これはストーリーへの没入感あっての効果だし、弱者と強者の立場が徐々にひっくり返っていくグラデーションには正直快感だ。ともあれ、このベタと新しさの組み合わせにまんまと引っかかってみてはいかかでしょう？

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文：巽啓伍（never young beach）

『梨泰院クラス』はNetflixで独占配信中