映画史上、最も多く“悪”のモチーフとなったのは、おそらく麻薬組織(麻薬犯罪)だろう。
時代によってテロリストだったりソ連をはじめとする共産主義国だったりとさまざまな“悪”“敵”がトレンドになったが、やはり麻薬はいつ、どんな時代でも存在感がデカい。麻薬を使用することの恐怖。密売して稼ぐ人間たちの恐怖。それに立ち向かうのもまた怖い。
現代は、中南米の麻薬組織が現実の世界でも大きな脅威となっている。それを直接的なテーマとした代表作が、ドラマシリーズでいえば『ナルコス』(2015年~)、映画では『ボーダーライン』(2015年)だろう。
メキシコ麻薬組織を背景に描くのはアメリカ側の深い闇『ボーダーライン』
ドゥニ・ヴィルヌーヴが『メッセージ』(2016年)の前に撮った『ボーダーライン』では、メキシコの麻薬組織とアメリカの特別編成チームの闘いが描かれる。麻薬組織の冷酷さを背景に、メインテーマとなってくるのはアメリカ側だ。
超法規的と言えばカッコよさげだが、要は“目的のためなら手段を選ばない”である。駆け引き、拷問なんでもあり。法と秩序を踏みにじる世界に、主人公を演じるエイミー・アダムスは翻弄される。翻弄するのはジョシュ・ブローリンとベニチオ・デル・トロの曲者コンビ。達人ロジャー・ディーキンス撮影の映像は荒々しさと崇高な美しさを行き来し、テーマをさらに際立たせる。
スピンオフ的立ち位置の『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(2018年)でも、デル・トロとブローリンは共演。2作ともに脚本を担当したテイラー・シェリダンは『ウィンド・リバー』(2017年)では監督に。骨太な作風は今後も注目したい。
強大な悪と闘うために一線を越えた“正義”『トレーニング デイ』
麻薬という絶対的かつ強大な悪と闘うためにどうするか。“正義”の側も常に問われる。『ボーダーライン』のエイミー・アダムスは一線を踏み越えまいとした。完全に踏み越えたのが、デンゼル・ワシントンが第74回アカデミー賞で主演男優賞を獲得した『トレーニング デイ』(2001年)だ。
イーサン・ホーク演じる新人刑事を“教育”する悪徳警官。後に『イコライザー』シリーズ(2014年~)でもタッグを組むアントワーン・フークア監督の作品としても、いま見る価値は充分だ。
複雑に入り組んだ陰謀が展開される『トリプル・リベンジ』
麻薬犯罪は規模が大きく、世界的なだけに“陰謀”とも相性がいい。『ボーダーライン』でもCIAの暗躍が描かれていたが、『トリプル・リベンジ』(2018年)でも複雑な陰謀が展開される。監督・脚本は第78回アカデミー賞で作品賞や脚本賞などを受賞した『クラッシュ』(2004年)で、ポール・ハギス監督と共にシナリオを書いたボビー・モレスコ。
複雑さが復讐物語の邪魔になっているという評価もあるが、むしろ複雑に入り組んだ世界こそがモレスコの描きたいものなのだろう。
主演はカール・アーバン。ベテランになったアンディ・ガルシアの共演も嬉しい。
豪腕モモアマンと元最強盲目オヤジが犯罪組織をブッ飛ばす!『ワイルド・ブレイブ』
DCコミック映画『アクアマン』(2018年)でワイルドな魅力を全開にしたジェイソン・モモアが麻薬がらみのトラブルに巻き込まれるのが『ワイルド・ブレイブ』(2017年)。
もうモモアのイメージそのままのタイトルだが、主人公の父親を演じるのがスティーヴン・ラング。『ドント・ブリーズ』(2016年)の盲目最強オヤジである。そう考えると怖いものなしの親子タッグだ。
実際、彼らは設定としては一般人なのだが狩りの心得もあり、雪に覆われた山林と山小屋を舞台にトリッキーかつバイオレントな闘いっぷりを見せてくれる。その気合いの入った“殺しのテクニック”が本作の最大の見どころと言ってもいい。
毒には毒、非情な悪には非情さで立ち向かう。それが問題提起にも娯楽にもなるから映画は面白い。
文:橋本宗洋
『ボーダーライン』『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2020年6月放送