なぜバスケを題材に? ソダーバーグ監督の社会派映画!
2019年にNetflixで配信された『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』の最大の“売り”は、やはり製作陣だろう。監督に加え撮影と編集を担当したのはスティーヴン・ソダーバーグ。脚本は『ムーンライト』(2016年)の原案タレル・アルヴィン・マクレイニー。まさに“オスカー級”の顔ぶれだ。
タイトルを見ると熱血スポ根ものにも思えるが、本作にバスケットボールをプレーするシーンはほとんどない。舞台はロックアウト中のプロバスケ界。オーナー側と選手側が揉め、選手たちはさまざまな施設から締め出されて試合ができない状況にある。報酬も出ず、主人公であるスポーツ・エージェントのレイ(アンドレ・ホランド)も窮地に立たされる。
その窮地をどう逆転していくかがドラマのポイントになるわけだが、そこには“支配する側とされる側”“スポーツの本当の主人公は誰なのか”というテーマが潜んでいる。その意味では、バスケを題材にした社会派映画と言ってもいい。
iPhoneで撮影!“内”と“外”をダイレクトにつなげる攻めの映画
ソダーバーグは『セックスと嘘とビデオテープ』(1989年)でデビューすると、第42回カンヌ映画祭でいきなりパルム・ドールを史上最年少受賞。第73回アカデミー賞では『トラフィック』と『エリン・ブロコビッチ』(2000年)でWノミネートを果たし、前者で監督賞、後者でジュリア・ロバーツに主演女優賞をもたらした。
ジョージ・クルーニーとのタッグでも知られ、かと思うとインディーの世界にサッと戻ったりもする。本作『ハイ・フライング・バード』と、続く『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』(2019年)はNetflix作品。自在なスタンスの映画作家だ。
本作は、前作『アンセイン~狂気の真実~』(2018年)に続いてiPhoneで撮影されたことでも話題になった。小回りの利く撮影スタイルは見ているだけでも分かるし、俳優にとってはセッティング待ちでテンションを落とさずに済むというメリットもあるようだ。何より「有名なプロの監督もiPhoneで撮る時代なのか」という驚きが大きい。
実は、本作は「ネットの動画」がストーリーの大きなポイントになっている。選手同士がツイッターでdisり合い、主人公が頭を抱えたりする。劇中に「Netflixと交渉してみる」なんてセリフも出てくる。
iPhoneにNetflixにツイッターにネット動画。『ハイ・フライング・バード』は、まさに現代の映画だ。といっても、単に流行りのモチーフを扱ったというだけではなく、撮影方法と公開方法と劇中の展開に密接な関連がある。スポーツや娯楽を一部のエリートに独占させないという意味で、この映画は“内”と“外”がダイレクトにつながっているのだ。
主人公は“バスケを我らの手に”、ソダーバーグは“映画を我らの手に”するために闘っている。
文:橋本宗洋
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』はNetflixで独占配信中
『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』
アメリカ映画. バスケ選手の代理人が、NBAのロックアウトにより窮地に陥った担当新人選手と自身のキャリアを救うため、権力構造を揺るがす大胆なアイデアを思いつく。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |