いまや『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)の予想外のヒットによって不動のスター俳優となったキアヌ・リーヴス。『マイ・プライベート・アイダホ』や『ハートブルー』(共に1991年)を経てSF大作『マトリックス』シリーズ(1999年~)で社会現象を巻き起こす数年前、キアヌが繊細なイメージを覆して大ヒットしたのが1994年の出世作『スピード』である。
もはや説明の必要もないサスペンス・アクションの名作なのだが、意外とミレニアル世代以降の映画ファンの中には「なんかテレビつけたらキアヌが暴走バスの中でわちゃわちゃしてた記憶しかない」みたいな人も多いのでは? ということで、いま観ても最高にスリリングかつ家族で観ても安心(?)な『スピード』シリーズを振り返ってみよう。
いま観ても心臓に悪い! 絶望と笑いのバランスが秀逸な『スピード』
当時30歳のキアヌが演じるのは優秀なSWAT隊員ジャック。デニス・ホッパー演じるテロリスト、ハワードのビル爆破計画をとっさの判断で見事に阻止したジャックだったが、復讐に燃えるハワードの次なる犯行の標的となってしまう。路上バスに、50マイル(約80キロ)以下に減速すると爆発するという殺人ガンバルマンみたいな時限装置を仕掛けたことを告げられたジャックは、なんとかバスに乗り込み爆破を阻止しようと試みるが……。
まず「このバスに爆弾が仕掛けられました」と告げられて「ハイそうですか」と秒で状況を飲み込める乗客がいるはずもなく、さらに予期せぬトラブルも頻発して、当然ながら車内はパニック状態に。ジャック以外の人物の善意や正義感がもれなく逆効果になるという演出でスリルがマシマシになり、もう気分は失禁寸前の乗客である。
そんな最悪のドタバタに巻き込まれる乗客のアニー(サンドラ・ブロック)は、なんとかジャックに協力するものの彼女は彼女でパニック状態なので言動が絶妙に可笑しく、障害だらけの公道をキャーキャー言いながらドッカンドッカン破壊しつつ爆走し、「これ何の時間?」みたいなダレを一切許さない。とはいえ極限状態には変わりなく、次第に乗客たちの神経もすり減っていく。
また、バスの外では同僚のハロルド(ジェフ・ダニエルズ)や上司たちが遠隔で解決方法を模索し助言を与える(&余計なことをする)という、文字通りの並走構成も秀逸。ここぞというタイミングで「もうアカン……」と思わず天を仰ぐ絶望展開も用意してあって、つい「そんなワケあるかーい!」というツッコミどころも忘れさせてしまうのだった。
え、キアヌ退場!? 前作の余韻を見事にぶち壊した『スピード2』
共に危機を乗り越えたジャックとアニーは男女の関係になるが、再び凶悪犯罪に巻き込まれ……と思いきやその後サラッと破局したらしく、アニーが主人公に昇格。
新彼氏のSWAT隊員アレックスを演じるのは、ブラッド・ピット、ケヴィン・ベーコン、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ブラッド・レンフローの超豪華競演作『スリーパーズ』(1996年)に主演し注目を集めたジェイソン・パトリックだ。
キアヌのイメージが強烈だっただけにゴツッとして華やかさに欠けるジェイソンは力不足感が否めないが、路上バスから豪華クルーザーへと舞台を移し、乗客の数も大増量で無茶度は大幅にアップ。また、アナログ爆弾魔だったハワードに代わり、コンピュータープログラマーのハイテク悪人ガイガーを演じるウィレム・デフォーが怪しくセクシーな魅力を放っている。
真っ昼間のカーチェイスからクルーザー船内に舞台が変わったことで、展開は派手になったはずなのに終始ぼんやりとした映像が続いてしまうのが惜しいが終盤はリゾート感が復活するし、なんだか『ポセイドン・アドベンチャー 』(1972年)のようなパニック映画の趣もあって、これはこれで楽しい。なお、前作でひどい目に遭ったギャグ要員が終盤ここぞというところで登場するのでお見逃しなく。