アニメの歴史を塗り替えた『スパイダーマン:スパイダーバース』と“窓”の関係
マーベル/DCコミックスの2大巨頭を筆頭にアメコミ映画が絶好調だが、スパイダーマンほど“窓”と密接な関係にあるスーパーヒーローはいないだろう。なかでも第91回アカデミー賞で長編アニメ映画賞を獲得した『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)は、窓(部屋)の描写が特に印象的な作品だ。
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現在シリーズ進行中の『スパイダーマン』(2017年~)の主人公は、NYクイーンズに叔母と暮らす高校生ピーター・パーカー(演:トム・ホランド)。いっぽう『スパイダーバース』の主人公はブルックリンに暮らす高校生マイルス・モラレスで、警官の父と看護師の母からヘビーなくらいの愛情を注がれているが、勉強ばかりの毎日に少し窮屈さを感じてもいる。
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マイルスは週末を実家で過ごし、平日は全寮制の新学校に通っている優等生。あるとき放射性の蜘蛛に噛まれたことで自分の身体に不思議な能力が備わったことに気づくが、長らく街を守ってきたスパイダーマンが悪党キングピンに殺害される様子を目の当たりにしてしまう。その後、マイルスはそれぞれ異なる次元から来たというスパイダーマンたちと出会い、自分に託された宿命と向き合うことになるのだった。
スパイダーマンは正体を隠している以上、部屋から出るのも戻るのも、必然的に窓からということになる。アメリカの住宅(一軒家やタウンハウス~アパートメント)は築年数が3ケタとかはザラで、こっそり玄関に行こうと思っても床がギシギシッ……。人知れず抜け出したいスパイダーマンにとっては窓が唯一の選択肢になるわけだが、アメリカ、特にニューヨークは窓側に非常階段(いわゆるFire Escape)のある建物が多いので、特殊能力がなくても比較的自由に出入りできるのだ。
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本作のマイルスも窓からこっそり寮を抜け出し、ちょいワルでクールな叔父アーロンの部屋の窓を叩き、能力をコントロールできずに教室の窓から窓へとドタバタ移動して笑いを誘う。いっぽう、家族を亡くしたキングピンが“別次元への窓”を開けようとする理由は、別の次元から生きている家族を連れてくるため。かように窓の使い方や動機、目的が、各キャラクターに適切に割り振られているように感じられる。
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ヴィランから逃げ帰ったマイルスが飛び込む実家の窓は月明かりに照らされ冷たく光るが、そこに父が開けたドアから暖かな光がかぶさるシーンは印象的。部屋のドアは家族と、窓は外界との繋がりを示す重要なファクターとなっていて、その捉え方はシーンによって微妙に異なるものの、常にキャラクターの心情を表す役割を果たしている。
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別次元への窓を通して、個性豊かなスパイダーマンたちと交流し成長したマイルス。最後には「僕らにも君たちにも可能性は無限にあるし、世界は常に繋がっている。一人ぼっちじゃないんだ」と我々に呼びかけ、映画の幕を閉じる。アニメの、いや映画の歴史に残るまごうことなき傑作を、ぜひ窓に注目して観てみてほしい。
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『スパイダーマン:スパイダーバース』
スパイダーマン、死す――スパイダーマンことピーター・パーカーの突然の訃報により、ニューヨーク市民は悲しみに包まれる。13歳のマイルス・モラレスもその一人。彼こそがピーターの後を継ぐ“新生スパイダーマン”だが、その力を未だに上手くコントロールできずにいた。そんなある日、何者かにより時空が歪められる大事故が起こる。その天地を揺るがす激しい衝撃により歪められた時空から集められたのは、スパイダー・グウェン、スパイダーマン・ノワール、スパイダー・ハム、そしてペニー・パーカーと彼女が操るパワードスーツ。彼らは全く別の次元=ユニバースで活躍する様々なスパイダーマンたちだった。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
声の出演: |
『スパイダーマン:スパイダーバース』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送