モデルとして芸能界デビューをし、俳優、DJ、デザイナーとしても精力的に活動中活動の村上淳さん。自身の転機となった作品との運命的な出会いや、多大な影響を受けた監督たち、そして衝撃を受けた“現在(いま)”の邦画について、俳優としての目線で語ってくれた。
「出演を望めば来るし、心から望んでいなければ来ない」
―(第1回、第2回で語った『ランブル・フィッシュ』『ライク・サムワン・イン・ラブ』など)の他に影響を受けた映画というと?
最初の話に戻りますが『KAMIKAZE TAXI』(1995年:原田眞人監督)、これも衝撃でした。こんなかっこいい邦画があるのかと。もともとVシネだったものを評判が良くて映画にしたので、『復讐の天使』(Vシネマ版タイトル)のPART1、2が素晴らしいんです、無駄が多くて。ディレクターズカット版は無駄なカットが省かれているので、できればVシネ版をVHSで観てほしい。ビデオデッキを買う価値はありますよ。
23歳のとき、その原田眞人監督に『バウンス ko GALS』(1997年)という映画のオーディションに呼ばれたんです。でも、妻の出産がたまたまオーディション日と重なって、僕は出産に立ち会うほうを選んだので翌日か翌々日、特別に「一人で来い」と。大人数の中、一人でやらされて。もう何もできなかったな、これは絶対に落ちたなと思ったんですけど、通ったんです。そこからがすごい日々でしたけど。あの人はあのころからリハを徹底してやって、しかもビデオを撮るんです。で、編集するんです。
―(本編に)使うかもしれない、ということですか?
いや、「自分でどれほどひどいか、家で観ろ」と。家で体育座りで観て「ひどいなあ」と。そこからの記憶があまりないんですけど、スピンがかかっちゃって。すごく楽しかったですけどね。
―追い込むタイプですか?
かなり。ちょうどそのころショーン・ペンの『デッドマン・ウォーキング』(1995年)も観たんです。レイプ被害者の親が犯人への極刑を求めるか求めないかという突き詰められた物語で。観終わった後にボス(事務所社長)に電話して「今後はレイプ、ピストル、殺人、血、それらが出る映画には僕は出ません」と。
―だいぶ制限されますね(笑)。
そうしたら『ナビィの恋』(1999年:中江裕司監督)が来たんです。
―ちゃんと求めるものが訪れるんですね。
それで沖縄に行って。撮影してから初号まで、半年は経つわけです。初号(試写)を観て「ああ、素晴らしい。いい映画に出られたな」と。そのとき、無性に映画の中でピストルを撃ちたくなったんです。そうしたら、原田さんからまた依頼が来て、鉄砲玉の役。だから望んでいるものって来るし、心から望んでいないものは来ないなと。出会いもそうだろうし。
―映画は特にそういうところがあるかもしれないですね。
「いま映画館で観て本当に心から楽しめるのはC・イーストウッドとD・O・ラッセルの作品」
―好きな監督でいうと、廣木(隆一)さんと?
阪本順治さん(『北のカナリアたち』『人類資金』ほか)。お二方には20代のころから多大な影響を受けていますし、最新作(廣木隆一監督『ここは退屈迎えに来て』、阪本順治監督『一度も撃ってません』)も素晴らしいです。もちろん『顔』(2000年)も観てほしいし、初期もやばいです。僕は『王手』(1991年)が好きですけど。
でも、ここ数年で「この人よりすごい人っていないな」と思っているのは、クリント・イーストウッドです。僕が映画に求めるものがほとんどある。2008年の『グラン・トリノ』、素晴らしいですね。『アメリカン・スナイパー』(2014年)も『チェンジリング』(2008年)も素晴らしいし。マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガル人映画監督『家族の灯り』『アンジェリカの微笑み』ほか)が生きているころは、彼の作品は素晴らしかったんですけど103歳か104歳で撮りきって亡くなっちゃったでしょう(享年106)。
いま映画館で観て本当に心から楽しめるのって、クリント・イーストウッドとデヴィッド・O・ラッセル。何年か前の原田眞人さんの映画(の現場)で、ほとんどの役者にラッセル監督の『アメリカン・ハッスル』(2013年)を観てこいと。あれは録音技術が本当に素晴らしくて、いわゆるダブルというんですけど、台詞が重なるんです。舞台も映画もクロストークってないでしょう。録音部が大変なんです、あれ。僕もそれを意識して観たけど、完璧でした。
僕は変なところばかりに感動するので『猿の惑星』とかもすごい好きなんですけど。
―オリジナルですか?
新しいやつです。VFXバリバリのやつ(『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』[2011年])。内容よりも猿の毛並みばっかり追っちゃって(笑)。
―あの技術はすごいですよね。
https://www.youtube.com/watch?v=hjFnX1Y9Wpw
「『宮本から君へ』の池松壮亮くんと蒼井優さんには、ちょっと背筋が伸びました」
でも、本当に好きだなという映画、強烈な叱咤激励を感じたのは『宮本から君へ』(2019年)です。池松壮亮くんと蒼井優さん。ちょっと背筋が伸びますね。
―真利子哲也監督。撮影が一度中断したらしいですね。
7年かかってるんです。池松ははっきり言うんですよ。90年代に浅野(忠信)くんとかオダギリ(ジョー)くんとか僕とかがミニシアターに遺してきたようなものを、自分がいまやりたいと。反骨というか。『宮本から君へ』を観たとき、映画人とか芸能人とかを越えて、一人の人間として負けるわけにいかないなと思いました。
―気合がすごいですよね、あの映画は。
あれ難しいですよ、いま。あの空回りを空回りさせない蒼井(優)さんのすごさ。あんな図式はちょっと観たことがないです。音楽も演技もものすごくうまいのが、いまの若者たちの特徴だと思うんです。めちゃくちゃうまいんですけど、もっと映画はごつっとしたものが観たいというか。
―そういうものを求めている村上さんがいて、この時代にああいう日本映画が出てきた。
でも僕、福田(雄一)組とかも楽しんでますから。ヲタ恋(『ヲタクに恋は難しい』[2020年])とか、すごくかわいいなと。映画はなんでも観ます。好きなものと、自分らしくないなと自分でわかっているようなもの、どっちも。
インタビュー:稲田 浩(ライスプレス代表)
写真:嶌村 吉祥丸
撮影協力:しぶや花魁
<第4回に続く>
しぶや花魁
渋谷・道玄坂にある、古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー。1階はカジュアルな立ち飲みスタイル、2階は着席が可能なスペース。味わい深い木造建築に丁度良く配置されたスピーカーから流れるサウンドの中で、季節のおつまみ、旬のカクテルから日本酒を提供。