コン・ユとマ・ドンソク、2人の絡みだけでも観る価値あり
ゾンビ映画は数あれど、列車内でゾンビが大量発生する映画がかつてあっただろうか!? ……正確に言えば『ホラー・エクスプレス/ゾンビ特急地獄行』(1972年)という作品があるにはあるのだが、やや設定がブッ飛びすぎなオカルトSF映画なのでスルーしておく。この『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、謎のウイルス感染によって発生したゾンビパニックから生き残るべく、高速鉄道の中で奮戦する人々を描くゾンビ映画だ。
まず、ゾンビが人を襲うまでに物語の半分くらい使うようなもったいぶった作品が多い中、本作は開始15分ほどでゾンビ症状が発生し、すぐに乗務員が被害者になるというスピーディーな展開が◎。“閉鎖空間=超高速で走る列車の中”で起こるゾンビパニックの絶望感は、ショッピングモールの比ではない。当然、高層ビルのような高みの見物ができる場所もないので、誰もが等しくゾンビの被害に遭うフェアな状況だ。
主人公は社畜気味なファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)。最初は利己的な男だったが、妊娠中の奥さんを守ろうと奮闘するサンファ(マ・ドンソク兄貴!)の最強ジャスティスぶりに触れたことで良心を取り戻し、ひとり娘を守るべく最後まで戦い抜こうと決心するのだった。ドンソク兄貴と一緒にいたほうが生存率も上がるし、絶対。
ちょっとキョンシーっぽい? ゾンビの生態(死んでるけど)
噛まれたら感染というゾンビの基本セオリーは踏襲しつつも、その感染速度はゾンビ業界トップクラス。『ワールド・ウォーZ』(2013年)でも印象的だったゾンビダム、からのダム決壊というアグレッシブなゾンビアクションや、斬新なブレイクダンスみたいなカクカクしたゾンビの挙動で健常者の心拍数を意地悪く乱してくるのがニクい。というか本当に憎くなるくらい怖いのでやめてほしい。
列車なので車両を隔離すれば一応は安全なのだが、予期せぬトラブルや自分だけ助かろうとするクズ等のせいでじわじわと追い詰められてしまう乗客たち。やがて外界もヤバいらしいことが判明し、この国はどうなってしまったんだ!? という絶望感が漂い始める。車両から車両へと感染が広がっていく様子は、まるで列車自体がゾンビ化して国土の血管を縦断しているかのようだ。
そんなドタバタの中で、知能はゼロに等しいこと、夜目がきかないこと、視覚と聴覚を頼りに動いていることなど、ゾンビの生態(死んでるけど)が判明していく。最初は正攻法でバトルしていた主人公たちが、ゾンビの生態(死んでるけど)をヒントにステルスアクションに転じ、狭い列車内でサバイブしていく展開は説得力抜群。来るべきゾンビ時代の参考書にしたいくらいである。
親子/家族愛が全体を貫いているのは近年のゾンビ映画の傾向だし、キリスト教が浸透している韓国だけあって『哭声/コクソン』などと同じく聖書からの引用が散りばめられている。細部を読み解きながら楽しめる強度もあるが、列車映画のスリルという点ではこれ以上スリリングな作品もそうそうないので、ここは思いっきり怖がりつつ全力でドンソク兄貴を応援するほうがお得というものだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=RurEOg5P3Fs