ほろにが青春ドラマ『ウォールフラワー』のS・チョボスキー監督作!
映画『ワンダー 君は太陽』(2017年)は、R・J・パラシオによるベストセラー小説「ワンダー」(ほるぷ出版)が原作となっている。トリーチャー・コリンズ症候群と呼ばれる遺伝子疾患を抱え、顔にたくさんの手術跡の残る少年が、学校に初めて通学することで本人や周囲に起こる出来事を描いた作品だ。
本作は、実写版『美女と野獣』(2017年)を手掛けたプロデューサー陣が、『ウォールフラワー』(2012年)のスティーヴン・チョボスキーを監督に起用している。『ウォールフラワー』はチョボスキー監督自身による同名小説がもとになっていて、90年代に高校生活を送る学生の思春期における心の動きを、不器用で精神的に不安定な少年の視点から写したような作品だ。小説原作作品を監督として扱った経験や実績を買われてのことだったのか、本作も映画版だけでしっかり楽しめる作品になっていると思った。
主人公のオギーが妄想する「スター・ウォーズ」のキャラクターの登場や、同級生とのちょっとした冗談のやり取りの演出はかわいらしく、見ていて面白い。『ウォールフラワー』での音楽的なトピックの入れ込み方に通じる、監督の共通言語で観客を巻き込んで楽しませようとする気持ちは、本作からも感じ取ることができた。
疾患を抱えた主人公の少年が周囲の人々の心をつないでいく人間ドラマ
オギーは、5年生からクラスに入る設定になっている。日本でいう小学校の最終学年にあたり、ほとんど同年齢で顔見知り同士の生徒たちの中に、ひとりで入っていくという状況だ。私は小学校3年生の時に東京から関西へ転校したのだが、関西弁を話せないことで周囲から奇異な目で見られ、「きしょい」、つまり「気持ち悪い」という言葉を投げかけられ、泣きながら「学校に行きたくない」と両親に訴えた経験がある。
オギーと比較するには自分の経験はかわいい程度のものだと思うが、やはり当時の自分にとって学校というのは世界の全てだったし、同級生の容赦ない加虐性を前に、何もなすすべがないと絶望してしまった。オギーを通して子供の社会を見ることは、変に同情をひくような演出がないにも関わらず、「自分ならこうするのに」という(ある意味で高みからの)視点を無効化していて、多くの人が抱える幼少期の苦々しいコミュニケーションの記憶を自然に喚起させるような力を感じた。自分も前述の経験を思い出しながら、すごく話に引き込まれていた。
しかしながら、一見重くなってしまいそうなテーマの作品なのに、むしろ軽やかなコメディのように感じるほど良心にあふれた物語であり、オギーが人々の心をつないでいく姿が、今の自分にはとても心地よかった。
文:川辺素(ミツメ)
『ワンダー 君は太陽』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6月放送
『ワンダー 君は太陽』
遺伝子の疾患で他人とは異なる顔で生まれてきた10歳のオギー。27回もの手術を受けたため、これまで自宅学習を続けてきたオギーだったが、両親は彼を外の世界に送り出そうと決意する。5年生で入学した学校で、オギーはイジメや裏切りなど初めての困難に直面し……。
制作年: | 2017 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6月放送