あだち充のマンガみたいな話? ……じゃなかった!
ユ・ヘジンといえば『ベテラン』(2015年)や『コンフィデンシャル 共助』といった話題作、そして『タクシー運転手 約束は海を越えて』『1987、ある闘いの真実』(すべて2017年)など近年の超重要作に立て続けに出演してきた実力派俳優だ。さらに『チョン・ウチ 時空道士』(2009年)では人の姿をした犬をボロ雑巾のように好演し、自給自足バラエティ『三食ごはん』ではイケメン俳優たちに混じって畑仕事に精を出すなど、いまや韓国芸能界に欠かせない存在となった。
そんなヘジンがレスリングをテーマに掲げたスポ根モノ、しかもラブコメに主演!? と耳を疑った韓国映画ファンも少なくないだろう。ヘジンが演じるのは、優秀なレスリング選手である息子を金メダリストに育てようと発奮する元レスリング代表選手(現・主夫)のシングルファーザー、ギボ。必死な父を疎ましく思いながらも練習に励む息子ソンウンをキム・ミンジェが、家族ぐるみで仲がよい幼馴染ガヨンをイ・ソンギョンが、そしてギボの母をナ・ムニが演じる、三世代キャストが揃った映画だ。
スポ根×恋愛と聞いて、あだち充のマンガみたいな話を想像していると、いきなり肩透かしをくらう。なんとガヨンが好きになるのはソンウンではなく、ギボなのだ。どこ需要だよ! などと言うなかれ、さすが映画ファンには「この人が出てればハズレなし」と信頼されているヘジン主演作である。タブー視されがちな超年の差恋愛を手際よくドタバタコメディに仕上げたうえで、妻(母)を亡くした父と息子の確執の物語にうまいこと誘導していく。このへんはリテラシーの高い韓国エンタメ界、さすがと言わざるを得ない。
コミカルなオブラートに包みつつ、子が父を越えていく姿を描く
イケメンかつマッチョな息子がボコボコな顔の親父に嫉妬してしまう展開の可笑しみは、奇面組みたいなヘジンだからこそ成立するというもの。おばあちゃん俳優ナ・ムニとの雑な口喧嘩シーンは本当の親子みたいだし、お見合いで再婚を勧められるも全く乗り気じゃないギボにぐいぐい迫ってくる女医ドナ(ファンウ・スルヘ)も良いスパイスになっている。ガヨンの姉ソヨンを演じるパク・ギュヨンも端役だが超かわいいので地味に注目していただきたい。
ヘジンの全身演技はもちろん、元々はアイドル志望だったというミンジェが、まるで駄々っ子のように自己を解放していく演技も見事。子が親を越えていくということ、そのフィジカル表現としてのレスリングとの相性の良さに驚かされる。また、亡き妻の分まで息子を想うが結果的に疎まれてしまうギボを陰ながら支えるスンヒョク(キム・テフン)はゲイで、細やかな感情にも気がつくというキャラクター。このへんの配役にも自然と気が利いていて風通しが良い。
往々にしてコミカルに装ってはいるものの、真のテーマは父子のすれ違いと家族愛である。幼馴染でも親子でも、独りよがりの好意は一方通行。相手の気持ちを汲み取らなければ、無償の愛情もエゴの押しつけになってしまう。特にスポーツをやっていなくても、上の階に住んでいるかわいい幼馴染がいなくても、多くの人間が共有できるであろう普遍的な愛の物語だ。
『レッスル!』は1月5日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開中。
『レッスル!』
かつてはレスリングの代表選手であったが、いまや家事と息子の成長だけが生きがいのシングルファーザーのギボ(ユ・ヘジン)。ギボは将来有望の若きレスラーである息子ソンウン(キム・ミンジェ)が金メダリストになることを夢見ながら、家事の合間にレスリングジムで近所の主婦たちにエアロビクスを教えて生計を立てる日々。ところが国家代表選抜戦を目前に、ソンウンは「レスリングを辞めたい」とギボに打ち明ける。突然の息子の反抗に慌てるギボ。さらに独り身の息子を案ずる母親(ナ・ムニ)からの小言は段々とひどくなり、上の階に住むソンウンの幼なじみガヨンには思いもよらない告白をされ、ついにはお見合い相手の医師ドナまで理解不能なことを言い出す始末。穏やかだった日常が一変し、ギボはとんでもないトラブルに巻き込まれようとしていた…。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |